放射線帯は、地球磁場に捕らわれ、地球の周囲にドーナツ状に分布する高エネ
ルギー粒子が集まった領域であり、主に数10 keVから数MeVの電子や数100 keV
から数10 MeVの陽子からなる。放射線帯は1958年にVan Allenらによって発見
された。発見当初、放射線帯は一般には安定に存在しているものであると考え
られてきたが、その後の人工衛星による観測によりその構造は地磁気の変化に
伴って空間的にも時間的にも非常に激しく変動していることが明らかになって
きた。
放射線帯粒子フラックスの変動(特に電子)について、これまでに多くの研究・
観測がなされ、粒子の生成・消滅のメカニズムとしてアルベド中性子崩壊によ
る供給や外部領域からの粒子の流入・拡散、それに伴う加熱、電磁場の擾乱に
よるその場での断熱的な加熱・冷却、磁気圏内に存在する波動と粒子の相互作
用による消滅など、多くの説明がなされてきたが、様々な物理過程が複雑に関
係しており、また観測が不十分であることもあって、その詳細なメカニズムや
定量的な問題については未だ完全には理解されていない。このような放射線帯
粒子の変動メカニズムを理解するためには、更なる観測データの解析と、粒子
の拡散についての数値シミュレーションを行う必要がある。
本研究ではまず、2002年2月4日に打ち上げられた衛星「つばさ」(MDS-1)によ
る電子(0.41 - 2.00 MeV)、陽子(0.91 - 250 MeV)、α粒子(6.51 - 270 MeV)、
その他の重イオン(24 - 155 MeV)フラックスの最新のデータを用いて放射線帯
の全体像と磁気嵐時の放射線帯粒子環境の変動について調べた。
まず、「つばさ」による各粒子フラックスのデータから放射線帯の平均的な構
造を調べた。電子に関してはよく知られているきれいな二重構造を確認でき、
その他の粒子に関しても磁気赤道上にピークを持つ構造を確認できた。
次に、磁気嵐に伴う各放射線帯の変動の様子を調べた。過去の研究で知られる
ように、電子放射線帯については外帯が磁気嵐に伴って激しく変動している様
子が得られた。外帯粒子がスロット領域を埋めるように侵入している様子も捉
えた。陽子、α粒子、その他の重イオンは電子に比べ安定に存在していのが確
認できた。
次に、これまでに最もよく調べられている電子放射線帯に関する拡散係数や消
滅率を用いて1次元Fokker-Planck方程式を用いたradial diffusion の数値コー
ドを作成し、E=0.65 MeV と E=1.00 MeVのエネルギーの外帯電子フラックスに
ついて数値シミュレーションを行った。この結果と「つばさ」で得られた電子
放射線帯のデータと比較し、その再現性を調べた。
E=0.65 MeVとしたシミュレーションでは、L=5以上の領域では観測の結果に近
い電子フラックス変動の分布を得たが、L=5以下の領域では正しく再現できな
かった。E=1.00 MeVについても同様である。境界条件として与えた「つばさ」
観測による電子フラックスでは、より短い時間スケールで起こる、境界での電
子フラックスの変化の影響は反映されない。このことが観測結果を再現できな
い理由の一つであると考えられる。また、ここで用いたradial diffusion モ
デルでは考慮していない内部加熱が存在する可能性も考えられる。
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