2004 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2005 年 2 月 2 日

氏名 光田 千紘
論文題目 二酸化炭素氷雲による初期火星の温暖化 : 一次元放射モデルを用いた雲凝結フラックスと雲面密度および粒径の推定
論文要旨 地形学的証拠から初期(38 億年前)の火星は液体の水が地表面で安定に存在でき るほど温暖であったと推測されているが, そのメカニズムについては未だ解明 されていない. 当時の大気は光化学的に安定な二酸化炭素が大部分を占めてい たと考えられるが, 厚い二酸化炭素大気を持っていたとしても, 当時の暗い太 陽の下では二酸化炭素自身の凝結潜熱によって大気上層の温度が上昇し, その 結果雲の放射過程を無視した場合には温室効果が弱まり, 温暖な気候が再現さ れないことが指摘されていた. そこで近年注目されているのが, 二酸化炭素氷 雲による散乱温室効果である. 雲が太陽放射よりも赤外放射を強く反射すれば, 地表面は温暖化することが期待できる. 温室効果の程度は大気圧のみならず雲 パラメータ(雲粒半径, 雲面密度)に強く依存するが従来の研究ではこれらのパ ラメータが実際にどのような値をとるのかについてほとんど調べられていな い. よって本論文では放射伝達計算行って二酸化炭素氷雲による温室効果の強 さを見積もると同時に雲の凝結フラックスを求めることによって雲パラメータ の推定を行う.

地表面温度は雲面密度および粒径に強く依存する. 7μm 以下の粒径で構成され る雲は太陽放射をよく反射するために反温室効果をもたらすが, より大きな粒 径を持つ場合には赤外放射をよく反射し, 散乱温室効果が生じる. 面密度が 10^-3 〜 10^-1 kg m^-2 の場合にで現在の地球程度の地表面温度が得られるが, それ以上では大気は不安定となり, 地表への凝結を起こす(大気凍結). 大気圧 は 1 気圧よりも 2 気圧の場合の方が地表面温度は高くなる. 3 気圧以上では 雲が薄い場合には大気凍結に陥るが 10^-2 kg m^-2 程度で地表面温度の安定平 衡解が存在する.

雲の凝結フラックスは面密度に対して単調減少の関係にあるため, 面密度-凝結 フラックスの負のフィードバックが生じ, その結果, 凝結フラックス 0 の状態 で面密度値は安定化する. これをもとに面密度および粒径を見積もる. 面数密 度一定の仮定の下で凝結による粒径の成長を考慮した場合, 面数密度が 10^9 〜 10^10 m^-2 では面密度はおよそ 10^-2 kg m^-2, 粒径はおよそ 10 μm と 見積もられ, このとき地表面温度は 270 K 付近まで上昇するだろう. この値は 全球年平均の地表面温度であるので, 緯度や季節によっては水の凝固点を超え る地表面温度が実現する可能性は十分考えられる.