2004 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2005 年 2 月 2 日

氏名 中村 裕子
論文題目 スル海における過去8万5千年間の石灰質ナノ化石群集解析 −ピストンコアKH02-4 SUP8とマルチプルコア7本の分析結果−
論文要旨  西赤道太平洋は,地球上で最も年平均水温が高い暖水塊とされる.この巨大な熱源 は水蒸気と潜熱を大気中に供給するため,地球規模の気候変動に大きな役割を果たし ていると考えられる.過去のグローバルな気候変化を復元し気候の将来予測を行うた めに,この地域の気候変化を解明することは非常に重要である.しかし,この海域で の古環境復元に関する研究例はまだ少ない.西太平洋暖水塊に位置するスル海は,浅 い陸棚に囲まれているため,海水の交換が少なく底層の溶存酸素濃度が低い.また, 過去の海水準変動により,閉鎖的になって貧酸素環境が強まった可能性が考えられる.  本研究では,西赤道太平洋に位置するスル海の海底堆積物を用いて,石灰質ナノ化石 群集の組成を明らかにし,その結果を用いてスル海の過去の海洋環境の変遷を復元す ることを目的とした.

 本研究で用いたコアは,ピストンコア7本とスル海のほぼ中央部から採取されたピ ストンコア(SUP-8)1本である.ピストンコアの観察の結果,Emiliania huxleyi とGephyrocapsa属,Florisphaera profundaが群集のほぼ90%を占めており,従属種 群集の約90%をCalcidiscus属とOolithotus属,Helicosphaera属,Umbilicosphaera 属,Syracosphaera属の5属が構成していることがわかった.過去の研究結果と同様に, 本研究海域であるスル海においてもGephyrocapsa属の優先的な繁栄が観察できた.

 マルチプルコアの解析によって,Helicosphaera属とCalciosolenia murrayi, Umbilicosphaera sibogae,Syracosphaera属は沿岸環境,または陸起源物質量の増減 を示す指標種として使えることが判明した.また,石灰質ナノ化石の産出量変化は, 栄養塩躍層の上下の変動が主要原因ではなく,冬季モンスーンによって運ばれる陸源 細屑物の量に強く影響されていることがわかった.

 スル海における,石灰質ナノ化石群集解析の結果,冬季モンスーンの強弱は, Dansgaard―Oeschgerサイクルと同調した変動を持つことが示された.