北海道三石地域に分布する付加体中の異地性緑色岩ブロック中に,玄武岩でありながらかんらん石を多くは含まず,単斜輝石を多量に含むアンカラマイト質緑色岩が多数発見された.アンカラマイトは「かんらん石よりも単斜輝石に富むピクライト質玄武岩」と定義され,スーパープリュームの火山島であるタヒチ,ホットスポットの火山島で知られるハワイ,ニュージーランドやバヌアツなどの島弧での産出が知られている.しかし,産出例が極めて少なく,十分な研究がなされていない.本研究では,三石アンカラマイトについて岩石学的に分析・分類し,その起源について検討した.
一般に,単斜輝石の化学組成が,Mg#≧85,Cr含有量≧0.02であるならば,その単斜輝石は,マントル単斜輝石と平衡共存可能であり,上部マントルかんらん岩の情報を有する.単斜輝石1相のみの安定領域は,圧力によらず高温の狭い温度領域に限られる.三石アンカラマイトは,単斜輝石コアの組成が高Mg#,高Cr含有量であり,単斜輝石1相の結晶作用を行なった.よって初生マグマの情報を有し,上部マントルかんらん岩の情報源として貴重なサンプルである.
三石アンカラマイトは,北海道中軸帯南部三石地域の白亜紀〜古第三紀の付加体が分布する三石川支流のピラシュケ川流域で採取された.緑色岩スライス内部に産出し,低温高圧型の変成作用を被っている.主に枕状溶岩からなり,発泡は良好で,ハイアロクラスタイトや無斑晶質玄武岩を伴って産出する.
三石アンカラマイトを肉眼での色と斑晶鉱物の組み合わせにより4つに区分した.タイプ1:緑色単斜輝石アンカラマイト.タイプ2:緑色単斜輝石かんらん石アンカラマイト.タイプ3:黒色単斜輝石アンカラマイト.タイプ4:黒色単斜輝石かんらん石アンカラマイト.いずれのタイプにも長径1cmを超える巨晶単斜輝石を含み,斑晶量が50%を超えるサンプルもある.
単斜輝石コアの化学組成は,単斜輝石の色により違いがある.タイプ1およびタイプ2は,ソレアイト質玄武岩の性質を有し,タイプ3およびタイプ4はアルカリ玄武岩の性質を有する.また,全てのタイプでマントルと平衡共存可能な,0.02 以上の高Cr含有量を有している.いろいろなセッティングの上部マントルの情報を有する単斜輝石と三石アンカラマイトの組成と比較すると,三石アンカラマイトの単斜輝石は,マントル単斜輝石と同程度の高Cr含有量を有することから,上部マントルかんらん岩と平衡共存可能である.また,緑色単斜輝石を含むアンカラマイトの涸渇度は,suboceanicから,subcontinental mantleと同程度であり,涸渇したisland arcのマントル起源ではない.また,黒色単斜輝石を含むアンカラマイトは緑色単斜輝石を含むアンカラマイトよりも涸渇度が低い.
アンカラマイトの巨晶単斜輝石の起源は少なくとも2つの形成プロセスが識別できる.1つ目は,マントル単斜輝石と平衡共存可能な単斜輝石で,その代表例がタイプ1である.長径450μm のメルトトラップを内包し,その単斜輝石の組成が海洋島下のマントル単斜輝石組成と平衡共存可能である.2つ目は,マントルと平衡共存可能な単斜輝石の集積コアを形成し,巨晶へと成長したものである.例えば,タイプ3の巨晶単斜輝石は,不均質な粒状結晶の集積コアで,その集積結晶グレインは,平衡共存可能な高Cr含有量を有し,その不均質な部分のみにメルトトラップが確認できる.また,マントル部分は,顕著なオシラトリーゾーニングを示し.コアとマントル部分の形成場が異なることを示唆する.巨晶単斜輝石コアの起源は,残留マントル単斜輝石,マントルと平衡なメルトから晶出したキュムレイト質単斜輝石が考えられる.
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