2004 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2005 年 2 月 2 日

氏名 大西 秀美
論文題目 北海道北空知,沼田幌新地区における新第三紀玄武岩岩脈と沸石変質作用
論文要旨  北海道北空知,滝川地域には新第三紀中新世末から鮮新世末期にかけて活動した安山岩からなる複数の複成火山体のほかに,中期中新世の堆積岩に貫入する玄武岩岩脈群が卓越する.滝川地域の岩脈群の岩石は盆地型玄武岩と呼ばれ,それらはアルカリ玄武岩で構成されることが知られている.

 研究対象とした沼田幌新地区における玄武岩岩脈には,特徴的な岩相変化が認められる.また,岩体内部における気孔はその存在密度とサイズの変化が認められ,沸石類や粘土鉱物などの二次鉱物によって充填され特異な分布形態を示す.

 過去の研究報告において,火成活動における岩石学的な特徴やそれに伴う気孔の分布形態については,それぞれシルや溶岩流など様々な産状タイプやその形成 モデルが提案されてきたが,特に気孔を充填する鉱物種との成因的関係まで議論した研究例は極めて少ない.従って,本研究では沼田幌新地区に貫入する玄武岩岩脈について,現地野外調査とサンプリングを実施するとともに,岩体を複数の岩相に区分し,鏡下観察,全岩化学組成分析,EPMA定量分析等によりその岩石学的特性を明らかにした.また,それに密接に伴う二次鉱物について鏡下観察,X線回折実験,化学組成分析等による鉱物種の同定および産状・組織の詳細な記載を行った.併せて,鉱物沈殿に関与した流体の起源を推定するために,岩体の割れ目を後生的に充填する炭酸塩鉱物の炭素・酸素同位体比測定等の室内実験を実施した.これらに基づき,玄武岩岩脈の岩石特性とそれに伴う沸石類との 成因的関連性と生成過程,およびその起源について検討した.

 沼田幌新貫入岩体は,新第三紀中新世の西徳富層群中の豊別層に貫入しており,その岩相はドレライト(粗粒玄武岩)様を呈す.主成分全岩化学組成分析によれば,アルカリ岩系から非アルカリ岩系にまたがる組成を示し,FeO*/MgO比が1.0前後で分化のあまり進んでいない玄武岩組成を示す.また,玄武岩岩脈のK-Ar年代値は5.1Maを示すことから,本貫入岩体と周辺に分布する玄武岩岩脈群(5.1Ma〜1.7Ma)は一連の火成活動に伴うものであり,中央北海道の新生代末期テクトニクスによる局所的な引張り応力場のもとで活動した裂か噴出の産物であると考えられる.

 玄武岩岩脈の気孔を充填する主要鉱物として,トムソン沸石,中沸石,方沸石,灰十字沸石,放射石,トバモライト,魚眼石,サポナイト等のCa-Na系の沸石類・粘土鉱物群が認められる.鏡下では,これらの鉱物が数種の集合体を成して産出することが多い.また,気孔を充填するトムソン沸石中にみられる流体包有物の均質化温度は約240℃の値を示し,おそらくマグマ固結の最末期に活動した流体からそれらが形成されたと考えられると共に,炭酸塩鉱物の沈殿をもたらした流体とも密接に関係していると推定される.

 岩体の割れ目を二次的に充填する炭酸塩鉱物(方解石)の炭素・酸素同位体比から,方解石の起源として堆積岩中に含まれる有機物の分解過程で濃集した炭素と,マグマ性流体に堆積層中に含まれていた古海水が混入し た熱水である可能性が示唆される.

 一方,北海道における他の沸石の産出例として,根室半島でみられるような枕状溶岩に伴うNa系の沸石は,その産状から海水起源の水がその生成に大きく関与している可能性が示唆される.また,西南北海道の仁木地域に分布する酸性凝灰岩に伴う沸石は,続 成変質作用によって火山ガラス部が結晶化したものであり,高シリカ沸石を特徴とする.本貫入岩体における沸石は,これらとは明らかに成因的に区別されるものであり,沼田幌新地区における一連の火成活動に伴う流体と密接に関連して形成されたと考えられる.