本研究では,海洋大循環モデルを用いて海洋の記憶について客観的かつ定量的に検証するため,いわゆる「記憶実験」を開発・実行
した.記憶実験は次のように行う.まず1958年まで現実の風を外力として与え,1959年からは外力を気候値に変えて5年間積分する.そ
うして得られた1959,1960・・・1963年のデ−タを,それぞれ1yr memory,2yr memory・・・5yr memoryと定義する.続いて気候値に
変える時期を1年ずらし,1959年まで現実の風を与え,1960年からは気候値を与え5年間積分し,得られた1960〜1964年のデ−タをそれ
ぞれ1〜5yr memory とする.そのようにして1年ずらして積分する作業を2001年まで行う.そうすることにより,1959〜2001年までの
1yr memory ,1960〜2001年の2yr memory・・・1963〜2001年の5yr memory と5本の時系列を作成した.
このようにして作成したmemory 時系列と通常のcontrol run とを等深度面,気候値の等密度面,時間変化する等密度面上でそれぞれ
のグリッド点ごとで水温について相関解析を行い,海洋の変動パタ−ンがどの程度持続するのか検証した.また,記憶実験の結果と
control run の結果の標準偏差の比を取ることにより,海洋の振幅の持続性についても検証した.結果,等深度面,気候値の等密度面
上では熱帯の赤道付近では2年から3年程度の記憶しか持たないことがわかった.また南緯10°,北緯10°では,5年の記憶をもつ領域も
見られた.一方時間変化する等密度面上では,赤道域以外の領域で気候値の等密度面上と比べ変動パターン,振幅ともに強い海洋の持
続性が見られた.
南太平洋では,亜熱帯東部から移流による伝播の持続性が見られ,熱帯十年変動への影響が示唆された.また赤道域では,移流・波
動などの海洋力学による伝播の持続性は見られず,熱帯十年変動に見られる東進性の伝播を再現するには,大気擾乱による影響が必要
不可欠であることがわかった.
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