本論文の目的はマントルウェッジにおけるマグマの濃集および上昇をシミュレーションすることである。研究は
以下の順序で行った。一番目はILGモデルによるシミュレーションを確認することである。すなわち、格子ガスモ
デルの中にILGモデル(混じり合わない二種類の粒子のモデル)があり、このシミュレーターの動作確認をした。
二番目はGILGモデル構築である。すなわちILGモデルに重力作用を加え、GILGモデルを作った。三番目はGILGモ
デルによるシミュレーションおよび重力パラメーターの調整である。GILGモデルは、重力パラメーターによって振
る舞いがかわる。何も変化しなかったり、粘性の大きい流体のようにふるまったり、粘性の小さい流体のように振
る舞ったりする。マグマ濃集のシミュレーションを行うにあたり、どのパラメーターが有効か調べ、決定した。四
番目はマントルウェッジでのマグマ濃集のシミュレーションである。粘性が大きい流体のように振る舞う場合の重
力パラメーター、粘性が低い流体のように振る舞う場合の重力パラメーター、この二種類のパラメーターでシミュ
レーションを行った。
結論としては以下の通りである、粘性が低い流体のように振る舞う場合の重力パラメーターにおいて、マグマの
濃集と上昇が顕著に見られた。シミュレーションの粘性係数を、現実の粘性係数と比較するために、マグマの上昇
速度を参考にタイムステップ、格子間隔、一粒子の重さを現実の物理量と対応付けた。その結果、シミュレーショ
ンの粘性係数がいくつかの実際の火山の粘性係数と近いものとなった。また、マントルウェッジに新たマグマが供
給されないという仮定をおくと、マグマが枯渇するタイムスケールが数十万年になり、シミュレーションと現実が
矛盾しないことがわかった。
上記の結果から今後、GILGモデルのシミュレーションと現実の物理現象との間に整合性をより持たせるために
は、以下を理論的に導出する必要がある。初期条件における密度と、重力パラメーターと、相互作用の距離の設
定。また、格子間隔、タイムステップ、粒子の重さと現実の物理量との対応関係である。
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