2004 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2005 年 2 月 2 日

氏名 塚田 原野
論文題目 南大洋オーストラリアセクターにおける第四紀後期石灰質ナノ化石群集解析―ピストンコアSIR-1PCとマルチプルコアSIR-1MCの分析結果
論文要旨  南大洋(Southern Ocean)とは、南極大陸の周囲を同心円上に取り囲 むように存在する南半球の高緯度域をしめる海洋である。この海域は、氷期―間氷期 を通じて深層水の形成場であるとともに、海洋表層の生物生産が活発な海域である。 また、水温が低いため二酸化炭素分圧が低く、大気中の二酸化炭素の吸収域でもある。 このように、南大洋はグローバルな古気候、古海洋変動に対して大きな影響力を持つ と考えられ、その振る舞いを明らかにすることは非常に重要である。

 南大洋オーストラリアセクターには3つの海洋前線が存在する。本研究では、その うちの南極極前線 (Antarctic Polar Front : APF)の近傍、緯度54°44.25’S、経 度140°02.20’Eの地点から採取されたピストンコアSIR-1PCおよび緯度54°43.81’S、 経度140°03.31’Eから採取されたマルチプルコアSIR-1MCに含まれる石灰質ナノ化石 群集を解析し、第四紀後期の海洋古環境復元を試みた。 海洋前線は、氷期―間氷期の気候変動に同調して南北移動するため、SIR-1PCおよ びSIR-1MCにおける石灰質ナノ化石群集は、この移動を反映していることが期待され る。 本研究は、偏光顕微鏡を用いて、ピストンコアSIR-1PCから選別した210試料、マルチ プルコアから選別した10試料について石灰質ナノ化石群集を明らかにするとともに、 既報の研究結果との比較検討を行って南大洋オーストラリアセクターにおける第四紀 後期の古環境変動を明らかにすることを目的とした。

 解析の結果、ピストンコアSIR-1PCおよびマルチプルコアSIR-1MCで確認された石灰 質ナノ化石全体の絶対頻度の増加は、APFが高緯度にシフトしたことが原因で起こっ たと推測した。CaCO3の保存強度を算出した結果からは、本研究海域においてCaCO3の 保存状態が良くなるには2通りの原因がある。1つは石灰質ナノプランクトンが多く 存在したために間隙水のアルカリ度が高まった場合であり、他方は試料採取地点がア ルカリ度の高い水塊に属していた場合である。また、本研究とGC07 (Findlay, 2000)、 TSP-2PC (Horikoshi, 1997MS)における石灰質ナノ化石群集解析結果との比較から、 GC-7とTSP-2PCで確認されたCocolithus pelagicus ssp. pelagicusの相対頻度の氷期 における増加がAPFの赤道方向へのシフトが原因であることを確認した。