南大洋(Southern Ocean)とは、南極大陸の周囲を同心円上に取り囲
むように存在する南半球の高緯度域をしめる海洋である。この海域は、氷期―間氷期
を通じて深層水の形成場であるとともに、海洋表層の生物生産が活発な海域である。
また、水温が低いため二酸化炭素分圧が低く、大気中の二酸化炭素の吸収域でもある。
このように、南大洋はグローバルな古気候、古海洋変動に対して大きな影響力を持つ
と考えられ、その振る舞いを明らかにすることは非常に重要である。
南大洋オーストラリアセクターには3つの海洋前線が存在する。本研究では、その
うちの南極極前線 (Antarctic Polar Front : APF)の近傍、緯度54°44.25’S、経
度140°02.20’Eの地点から採取されたピストンコアSIR-1PCおよび緯度54°43.81’S、
経度140°03.31’Eから採取されたマルチプルコアSIR-1MCに含まれる石灰質ナノ化石
群集を解析し、第四紀後期の海洋古環境復元を試みた。
海洋前線は、氷期―間氷期の気候変動に同調して南北移動するため、SIR-1PCおよ
びSIR-1MCにおける石灰質ナノ化石群集は、この移動を反映していることが期待され
る。
本研究は、偏光顕微鏡を用いて、ピストンコアSIR-1PCから選別した210試料、マルチ
プルコアから選別した10試料について石灰質ナノ化石群集を明らかにするとともに、
既報の研究結果との比較検討を行って南大洋オーストラリアセクターにおける第四紀
後期の古環境変動を明らかにすることを目的とした。
解析の結果、ピストンコアSIR-1PCおよびマルチプルコアSIR-1MCで確認された石灰
質ナノ化石全体の絶対頻度の増加は、APFが高緯度にシフトしたことが原因で起こっ
たと推測した。CaCO3の保存強度を算出した結果からは、本研究海域においてCaCO3の
保存状態が良くなるには2通りの原因がある。1つは石灰質ナノプランクトンが多く
存在したために間隙水のアルカリ度が高まった場合であり、他方は試料採取地点がア
ルカリ度の高い水塊に属していた場合である。また、本研究とGC07 (Findlay, 2000)、
TSP-2PC (Horikoshi, 1997MS)における石灰質ナノ化石群集解析結果との比較から、
GC-7とTSP-2PCで確認されたCocolithus pelagicus ssp. pelagicusの相対頻度の氷期
における増加がAPFの赤道方向へのシフトが原因であることを確認した。
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