2004 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2005 年 2 月 2 日

氏名 保田 悠紀
論文題目 Dust driven wind in oxygen-rich AGB stars
論文要旨 AGB(Asymptotic Giant Branch ) star とは主系列段階での質量が 8M_sun より小さい星の進化末期段階にある星であり、大気中の C/O 比によって Carbon-rich AGB star とOxygen-rich AGB starに分類 される。AGB 段階末期では、星は低温で10^-6〜10^-4M_sun/yr 程度 の激しい質量放出をおこない、その段階に至るまでに星内部の核反応 によって生成された重元素を星間空間に供給する。従って、進化末期 天体の質量放出のメカニズムや質量放出量を解明することは宇宙にお ける物質循環、特に重元素の循環を研究する上で意義がある。

観測から、AGB star の星風の終端速度は 5〜25 km/s の範囲にあり、 星風中ではdustが形成されていることがわかっている。Carbon-rich AGB starにおいては graphiteや 11.3μm featureから SiC dust が形成され ていることが確認されていて、Oxygen-rich AGB starにおいては、近年 の ISO の観測によって、amrphous silicate dustだけでなく 13μm feature から Al2O3や MgAl2O4、さらには 30〜50 μm での spectral features から crystaline silicate dust が形成されていることも明かにされている。

AGB星からの質量放出や星風の加速機構として、gasが星間空間に 流れ出し冷えていく過程で凝縮してできた難揮発性のdustに働く輻射圧 によって引き起こされている dust driven wind mechanism が提唱されて いる。dustが受ける輻射圧は輻射圧効率 Q_pr (efficiency of the radiation pressure)で決定され、その値は dust の種類やサイズによって著しく変化し、 また形成さ れる dust の種類やサイズは、gas の元素組成や密度・温度構造 に強く依存する。本論文では、星風は球対称定常流と仮定し、dustとgasの 2流体近似のもとで、星風中での dust 形成と成長を結果として起る星風構造 と整合的に取り扱った。その際、dustにかかる外力の加速因子としては輻射圧、 減速因子としてはガス抵抗と重力を考慮し、gas の 加速因子としては 圧力勾配、dustとの衝突による運動量輸送、減速因子としては重力を考慮 している。定常モデルでは、連続的に亜音速から音速点を通過して超音速 に至る解を求めることが必要であり、そのための計算方法として shooting split method を用いている。計算では Oxygen--rich AGB starを対象とし、 凝縮 dustとしては MgSiO3のみを考察した。光学定数としては Oxygen rich AGB starからの星風で観測される silicate dust は大部分が amorphous で あるのでamorphous silicateの値を採用している。

全体の計算schemeとして、与えられた mass loss rate の下で、optical thick limitの場合の温度分布を与えて、 (1) dust の形成・成長の式と dustとgasの運動方程式を解く。(2) 計算で得られたdust分布から輻射輸送計 算を実行して新たな温度分布をもとめる。得られた温度分布の下で、再度 (1)、(2) を行い、温度分布が収束するまでこのiterationを繰り返すという形を 採用した。計算結果で得られたは終端速度は、質量放出量が 10^-6から10^-4 M_sun/yr の範囲で 5--30 km/s 程度であり、観測結果と矛盾しない。形成された silicate dust の半径は 0.004--0.2 μm 程度である。AGB星から放出される gas の量が多くなるとより急激に dust が成長して輻射圧効率の値が最大値付近に達 するため急激に加速されて、gasもdustの衝突によって急激に加速される事が明瞭 に示された。