何処でどのような大きさの地震が発生するかを予測するアプローチとして、地震活動
を再現する様々なモデルが考えられてきた。プレートテクトニクスと固着すべりの概
念からバネとブロックを組み合わせた力学モデルが提案され、実際の地震活動が示す
いくつかの統計的性質を再現することに成功してきた。バネ-ブロックモデルでは、
ブロックにstick-slip運動を起こさせるために、ブロックと床の間の摩擦をどう与え
るかが重要になり、そのモデルの特徴にもなる。Maeda and Yokomori(1999)では、こ
の摩擦にRayleigh(1894)のstick-slipの数理モデルを応用し、一定方向の外力で振動
を維持する非線形振動子系のバネ-ブロックモデルを提案した。このモデルは複数個
の非線形振動子を連結することでより複雑な振動を示し、その変位の時系列データか
ら地震に相当するイベントを定義して取り出すことで、他の力学モデルと同様に実際
の地震活動が示す統計的な性質を再現することが分かっている。また、地震とモデル
のイベントのエネルギー解放積算値の時系列データを比較することで、時系列的にも
モデルが実際の地震活動をよく再現できていることも示した。
このモデルではパラメーターの数を減らして解析を簡単にするために、ブロック一
つのときの運動方程式を無次元化して連結している。よってモデルから得られるイベ
ントデータも無次元化されており、実際の地震活動と時系列的に比較する場合には、
どのようにモデルのイベントの大きさの尺度と時間尺度を現実の尺度に変換するかが
重要になる。これまでの研究では、震源データのb値と平均再来時間を用いて、大き
さと時間の尺度を揃えていたが、実際の地震活動を再現できた地域とできなかった地
域があった。この際、どの地域に対しても同じイベントデータを尺度変換し、地震活
動の再現を試みていた。
本研究では実際の地震の再来時間がポアソン過程ではなく、分岐ポアソン過程に従
うことから、一個の一次事象(本震)に伴う二次事象(余震)の割合に注目し、時間尺度
決定法の改善を提案した。二次事象の割合は震源データを取得してきた地域によって
異なるため、どの地域に対しても同じイベントデータを用いていたのでは、時間尺度
の変換が適当に行われない場合がある。モデルにおける二次事象の割合は、変位を計
算する際のブロックの起動速度等のパラメーターや、イベントを定義する際の最小マ
グニチュードの値によって変えることができる。よって再現する地域毎に二次事象の
割合が等しくなるようなモデルのイベントデータを用意すれば、時間尺度を適当に変
換できるはずであると考えた。
今回は北海道の東部から太平洋沖の地域を3つのエリアに区分し、上記の方法を用
いてそれぞれのエリアの地震活動の時系列的再現を試みた。1970年から2000年までの
エネルギー解放の時系列と比較し、高い相関が得られたモデルのエネルギー解放の時
系列50個について、2000年以降のエネルギー解放の統計を取った。2003年十勝沖地震
(M8)が含まれるエリアにおいては、モデルの時系列も高いエネルギー解放を示し、大
きなイベントの発生していないエリアでは、モデルでも低いエネルギー解放を示し
た。本研究で提案するシミュレーションの方法により、このモデルが地震活動をより
良く再現できるようになったと考える。
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