論文要旨 |
自然地質由来の汚染問題として,旧鉱山地域における採掘後の対策不足に起因するものの他に,新しい問題として変質帯における工事によるズリの処理などの問題がある.本研究では,旧鉱山地域の汚染問題として西南北海道に位置する精進川鉱山地域,および変質帯における汚染問題として,北海道西北部における道路トンネルの掘削工事地域を代表として取り上げ,その汚染の現状及びメカニズムを明らかにすることを目的としている.
精進川鉱山は50年以上前に廃坑となった旧鉱山であるが,複数ある坑口からは今もヒ素等の有害元素を含んだ酸性坑廃水が流出している.また坑口付近では採掘当時にできたと思われるズリ堆積場が存在し,この堆積場内からも坑口から排出される酸性坑廃水と同様の水質の汚染水が流れ出ている.遠藤卒論(2004)では,地下水の水質分布や調査ボーリング試料の分析から,この汚染水が堆積場の内部で生成されていることを明らかにした.ただし,一般に汚染水に起因する鉱物である黄鉄鉱は,堆積場内部では少量しか確認されなかったため,本研究ではさらに,どの位置において汚染水が生成されているかを明らかにする.
調査ボーリングより採取したズリをXRD分析により求めた鉱物組み合わせにより区分し,分類した各試料について溶出試験を行い,溶媒の変化を調べた.試験を行った区分は1)明礬石類を含むズリ,2)自然硫黄を含むズリ,3)石膏を含むズリ,4)上記3つの鉱物の他,黄鉄鉱も確認されないズリの4つであり,これらはボーリング調査で確認された採掘に伴う堆積物の内の8割を超える.その結果,汚染水の酸性化の原因としてはズリ中の自然硫黄やソーダ明礬石や鉄明礬石,またヒ素の溶出の原因としては堆積場内の多くのズリが当てはまることが判った.
一方,西北北海道における道路トンネルの掘削工事地域では,トンネル掘削のための先行ボーリング調査から,トンネルの予定コースに熱水変質帯が存在することが明らかになった.この変質帯における岩石は基準値を超えるヒ素溶出量を示すものが存在する.一般にズリの処理の際には,排出水等の監視を続ける“管理型”や,ズリが外部の空気や水と反応し,汚染水を生成することを防ぐために外部の環境を遮断し密閉する“遮断型”の処置がとられるが,その際,コストや手間の削減のため管理が必要なズリと,必要のないズリを効果的に区分する必要がある.
本研究ではトンネル掘削に伴い生じるズリにおけるヒ素溶出機構を,肉眼観察,XRD分析,鏡下観察,北海道立地質研究所で求められた全岩分析値を用いて考察を行った.また,効率のよい区分けの方法として岩石中の礫部と基質部の割合に注目し,それを用いたズリ判別の実用性についても考察した.
XRD分析の結果から,ボーリングサンプルは黄鉄鉱が見られるか,代わりに磁鉄鉱が見られるかで大きく分けられる.この境界は肉眼観察による変質・未変質の分類とほぼ一致する.また,変質が進んだサンプルでは黄鉄鉱が鉱染状に存在するものと磁鉄鉱を交代するものが鏡下で確認され,変質とともに黄鉄鉱の割合が大きくなることが分かった.岩石に含まれる鉄や硫黄との関係からヒ素溶出の起源は黄鉄鉱にあることが分かった.
岩石の礫と基質の割合はボーリングコアの写真を用いて求めた.既存のソフトを用いて礫とそれ以外の基質の割合を計算し,XRD分析により出された鉱物組成や,北海道立地質研究所で得られたヒ素溶出値との比較を行った.その結果,LB-8孔では基質の割合が高くなるほどヒ素の溶出・含有量が多いという関係が見えたが,SLB-1孔,LB-9孔ではそのような明瞭な関係は見られなかった.このような違いは,礫部と基質部の境界を不明瞭にさせる程の強い変質や,方解石脈等に伴う局所的な変質が原因として考えられる.
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