論文要旨 |
近年, 理論的・観測的研究の進歩により, 惑星系の母体である原
始惑星系円盤の力学的進化 (円盤降着率の時間変化や, 面密度・
温度分布などの円盤構造の進化) に関する理解が深まりつつある.
一方, 原始惑星系の物質科学的な進化については, その複雑な性
質により, 十分に理解されていない問題が数多く残されている.
このような問題を考える上で, 太陽系で最も始源的な物質の 1
つであるコンドライトは, 原始惑星系における物質進化の記録を
保持しているという点で重要である. 変成の影響が少ないコンド
ライトの分析結果から, 原始惑星系円盤の酸素同位体組成および
C/O 比は時間的・空間的に不均質であったことが示唆されている.
本論文では, このような組成不均質がどのように形成されるのか
について調べた.
まず, ダスト蒸発領域において円盤の組成を変動させる一連の過
程 (ダスト-ガス分別過程と蒸発による濃集) を定式化し, 円盤が
力学的に進化するのに伴い組成的にも進化することを示す. その
際, ダストサイズやダスト/ガス速度比の動径依存性などを考慮
する. 次に, 主要な OとC のキャリアーについて上述の過程によ
る濃集および円盤中の移流拡散による物質輸送を計算し, コンド
ライト物質が形成されたと考えられる円盤内側領域の組成がどの
ように, どの程度のタイムスケールで進化するかをシミュレート
した.
これにより次のような結果が得られた. まず, Yurimoto and
Kuramoto (2004) が提唱した円盤内の酸素同位体不均質の形成が
再現され, 彼らの議論では不明確であった組成進化のタイムスケー
ルが明らかになった. その値は数十万年から数百万年と, CAI と
大部分のコンドリュールの形成年代差と調和的である. 酸化還元
状態については, Nakano et al. (2003) が有機物の蒸発による
不均質の形成を提案していたが, 彼らのモデルでは円盤内の移流
拡散過程が考慮されていなかった. 本論文の結果から円盤中の移
流拡散を考慮しても, 有機物の蒸発領域に還元的な環境が形成さ
れることが分かった. このような領域では, 還元的なコンドライト
物質 (例えば CaS) の形成に必要な C/O > 0.95 という条件が満
たされる. また, 還元的な環境が維持される時間は数十万年程度
であり, 1 つのコンドライトタイプに属するコンドリュールの形
成期間として考えられている値(< 0.3 Myr, Scott and Krot 2005)
とも合致する. さらに,ある条件下では円盤中心に近い高温領域で
還元的 (C/O > 0.95)な環境が形成される場合がある. この環境が
実際の原始惑星系円盤内で実現されていたとすると, 太陽系内で
SiC のような鉱物が形成された可能性がある. もし同位体組成が
太陽組成であるSiC が存在したとすると, この物質の付加過程に
よりエンスタタイトコンドライトの還元的性質および Si の過剰を
説明できる可能性がある.
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