2005 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2006 年 2 月 3 日

氏名 福井 隆
論文題目 降着末期段階における原始惑星系円盤の 組成進化と始源的隕石の起源
論文要旨 近年, 理論的・観測的研究の進歩により, 惑星系の母体である原 始惑星系円盤の力学的進化 (円盤降着率の時間変化や, 面密度・ 温度分布などの円盤構造の進化) に関する理解が深まりつつある. 一方, 原始惑星系の物質科学的な進化については, その複雑な性 質により, 十分に理解されていない問題が数多く残されている.

このような問題を考える上で, 太陽系で最も始源的な物質の 1 つであるコンドライトは, 原始惑星系における物質進化の記録を 保持しているという点で重要である. 変成の影響が少ないコンド ライトの分析結果から, 原始惑星系円盤の酸素同位体組成および C/O 比は時間的・空間的に不均質であったことが示唆されている. 本論文では, このような組成不均質がどのように形成されるのか について調べた.

まず, ダスト蒸発領域において円盤の組成を変動させる一連の過 程 (ダスト-ガス分別過程と蒸発による濃集) を定式化し, 円盤が 力学的に進化するのに伴い組成的にも進化することを示す. その 際, ダストサイズやダスト/ガス速度比の動径依存性などを考慮 する. 次に, 主要な OとC のキャリアーについて上述の過程によ る濃集および円盤中の移流拡散による物質輸送を計算し, コンド ライト物質が形成されたと考えられる円盤内側領域の組成がどの ように, どの程度のタイムスケールで進化するかをシミュレート した.

これにより次のような結果が得られた. まず, Yurimoto and Kuramoto (2004) が提唱した円盤内の酸素同位体不均質の形成が 再現され, 彼らの議論では不明確であった組成進化のタイムスケー ルが明らかになった. その値は数十万年から数百万年と, CAI と 大部分のコンドリュールの形成年代差と調和的である. 酸化還元 状態については, Nakano et al. (2003) が有機物の蒸発による 不均質の形成を提案していたが, 彼らのモデルでは円盤内の移流 拡散過程が考慮されていなかった. 本論文の結果から円盤中の移 流拡散を考慮しても, 有機物の蒸発領域に還元的な環境が形成さ れることが分かった. このような領域では, 還元的なコンドライト 物質 (例えば CaS) の形成に必要な C/O > 0.95 という条件が満 たされる. また, 還元的な環境が維持される時間は数十万年程度 であり, 1 つのコンドライトタイプに属するコンドリュールの形 成期間として考えられている値(< 0.3 Myr, Scott and Krot 2005) とも合致する. さらに,ある条件下では円盤中心に近い高温領域で 還元的 (C/O > 0.95)な環境が形成される場合がある. この環境が 実際の原始惑星系円盤内で実現されていたとすると, 太陽系内で SiC のような鉱物が形成された可能性がある. もし同位体組成が 太陽組成であるSiC が存在したとすると, この物質の付加過程に よりエンスタタイトコンドライトの還元的性質および Si の過剰を 説明できる可能性がある.