本研究では酸化還元度と熱的状態を考慮したイオの内部構造
モデルを構築した.従来のイオのモデルの多くは地球の内部構
造との類似性を暗黙に仮定したものになっており,マントル組成に
Mgに富むかんらん石を,コア組成に金属鉄または Fe-FeS の共融
組成を仮定している (Anderson et al.1996, Sohl et al.2002).
しかし,これらのモデルには二つの問題点がある.その一つは
Mg と Si の存在度の問題である.太陽系元素存在度では Mg と Si の
量比はほぼ等しいため,マントルの主要鉱物としてはかんらん
石よりも輝石がより自然である.もう一つは Fe と S の酸化還
元状態の問題である.ガリレオ衛星が形成された原始木星系円
盤には H2O が濃集していたと考えられ,原材料物質は著しく酸
化的な化学組成になっていた可能性が考えられる.そこで本研
究ではイオの酸化還元状態として極端に酸化的な場合まで考慮
し,イオの組成と熱的状態について考察した.
主要な金属元素の相対存在度には太陽系元素存在度を与え,酸化
還元度に依存した鉱物組み合わせを計算する.その鉱物組み合わ
せからなる原材料物質が均質に集積して原始イオが形成され,そ
の後に潮汐加熱により徐々に内部が昇温融解し,固液の重力分離
が生じて分化が起こると仮定する.この過程に沿って地殻・マン
トル・核に各鉱物を分配した.融解順序には,各鉱物系の共融点
温度を考慮した.
酸化還元状態の関数としてモデルイオの平均密度と慣性能率を計
算し観測値と比較した.平均密度の観測値を説明する組成は,金
属鉄や FeS に乏しくマグネタイトと MgSO4 に富む酸化的で
かんらん石よりも輝石に富む組成である.さらにマグネタイトが
主にコアでなくマントルに分配されるとすると,イオの慣性能率
の観測値を説明できる.分化の際にイオが全融解しなければマグ
ネタイトは融け残りとしてマントルに残される.また主に地殻に
分配される MgSO4 はイオ表層に堆積する S や SO2 大気の供給
源になっている可能性がある.
|