2005 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2006 年 2 月 3 日

氏名 樋山 克明
論文題目 イオの酸化還元度と熱的状態および内部構造
論文要旨 本研究では酸化還元度と熱的状態を考慮したイオの内部構造 モデルを構築した.従来のイオのモデルの多くは地球の内部構 造との類似性を暗黙に仮定したものになっており,マントル組成に Mgに富むかんらん石を,コア組成に金属鉄または Fe-FeS の共融 組成を仮定している (Anderson et al.1996, Sohl et al.2002). しかし,これらのモデルには二つの問題点がある.その一つは Mg と Si の存在度の問題である.太陽系元素存在度では Mg と Si の 量比はほぼ等しいため,マントルの主要鉱物としてはかんらん 石よりも輝石がより自然である.もう一つは Fe と S の酸化還 元状態の問題である.ガリレオ衛星が形成された原始木星系円 盤には H2O が濃集していたと考えられ,原材料物質は著しく酸 化的な化学組成になっていた可能性が考えられる.そこで本研 究ではイオの酸化還元状態として極端に酸化的な場合まで考慮 し,イオの組成と熱的状態について考察した.

主要な金属元素の相対存在度には太陽系元素存在度を与え,酸化 還元度に依存した鉱物組み合わせを計算する.その鉱物組み合わ せからなる原材料物質が均質に集積して原始イオが形成され,そ の後に潮汐加熱により徐々に内部が昇温融解し,固液の重力分離 が生じて分化が起こると仮定する.この過程に沿って地殻・マン トル・核に各鉱物を分配した.融解順序には,各鉱物系の共融点 温度を考慮した.

酸化還元状態の関数としてモデルイオの平均密度と慣性能率を計 算し観測値と比較した.平均密度の観測値を説明する組成は,金 属鉄や FeS に乏しくマグネタイトと MgSO4 に富む酸化的で かんらん石よりも輝石に富む組成である.さらにマグネタイトが 主にコアでなくマントルに分配されるとすると,イオの慣性能率 の観測値を説明できる.分化の際にイオが全融解しなければマグ ネタイトは融け残りとしてマントルに残される.また主に地殻に 分配される MgSO4 はイオ表層に堆積する S や SO2 大気の供給 源になっている可能性がある.