2005 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2006 年 2 月 3 日

氏名 川副 浩太
論文題目 Be/X 線連星における照射された降着円盤
論文要旨 本論文では、Be/X線連星における降着円盤の構造と放射スペクトルに対する、中性子星とBe星の照射の影響を考察した。Be/X線連星では中性子星の光度 L_{irr, X}は、静穏時で10^{34} erg s^{-1}以下、小規模な増 光現象を示す時で10^{37}-10^{36}~erg s^{-1}、大規模な増光現象を 示す時で10^{37} erg s^{-1}以上で輝くという観測事実および軌道周 期P_{orb}は短いもので約10日、長いもので約300日であるという観測事 実を考慮し、計算は1.75*10^{34} erg s^{-1} < L_{irr,X} = 1.75*10^{38} erg s^{-1}、10 days< P_{orb} < 300 days の範囲に対して行った。簡単のため、円盤は定常、軸対称であること、円盤ガスの自己重力は無視することができること、円盤は幾何学的に薄く、光学的に厚いことを仮定した。Be星の照射も取り入れた場合では、これらの仮定に加え、降着円盤の外縁によって影になる部分ができるshadowingの効果は無視できるとした。なお、降着円盤の粘性には、Shakura-Sunyaevの粘性パラメータ alpha=0.1を用いた。

中性子星の照射のみを取り入れた場合では、降着円盤の領域を粘性加熱が優勢な領域な 内側の領域Iと中性子星の照射が優勢な外側の領域IIに分けて、近似的に構造解を導出し た。領域Iでは降着円盤の温度がT proportional r^{-3/4}$のように減少し、一方、領域IIでは T proportional r^{-3/7}のように減少するという結果が得られた。

Be星の照射も取り入れた場合では、その照射の影響を方位角方向に平均化し、降着円盤の領域を粘性加熱が優勢な内側の領域I、中性子星の照射が優勢な中間領域II、 Be星の照射が優勢な外側の領域IIIに分けて、近似的に構造解を導出した。領域 I,IIでは中性子星の照射のみを取り入れた場合と同じ解である。領域IIIでは T=一定、すなわち円盤は等温になるという結果が得られた。なお、Be星のモデ ルとしてB0型主系列星を採用した。

さらに中性子星の照射のみを取り入れた場合とBe星の照射を 取り入れた場合のそれぞれについて、降着円盤の構造解を円盤の領域を分けずに 数値的に求め、近似解と数値解の誤差は20%以内に収まっていることを示した。

これらの構造解を用いて、降着円盤は表面上の各点での温度の黒 体輻射をすると仮定し、降着円盤の放射スペクトルについても計算した。中性子星の照 射のみを取り入れた場合とBe星の照射も取り入れた場合のスペクトルを比較する と、L_{irr,X}=1.75* 10^{34} erg s^{-1}時にその差は最大で十数倍程度であり、L_{irr,X}=1.75*10^{38} erg s^{-1}の時は両者に違いは見られなかった。また、中性子星の光度がL_{irr,X}=1.75* 10^{36}erg s^{-1}以上になると、nu >10^{16} Hzの振動数領域では降着円盤からのフラックスがBe星からのフラックスを上回っていた。

これらの計算の結果、Be/X線連星では、Be星の照射は降着円盤の外側の領域で最 も良く効くこと、中性子星が静穏時でBe星の照射が最も良く効くこと、赤外線と 紫外線の振動数領域でBe/X線連星における降着円盤が観測できる可能性があるこ とがわかった。