本論文では、Be/X線連星における降着円盤の構造と放射スペクトルに対する、中性子星とBe星の照射の影響を考察した。Be/X線連星では中性子星の光度
L_{irr, X}は、静穏時で10^{34} erg s^{-1}以下、小規模な増
光現象を示す時で10^{37}-10^{36}~erg s^{-1}、大規模な増光現象を
示す時で10^{37} erg s^{-1}以上で輝くという観測事実および軌道周
期P_{orb}は短いもので約10日、長いもので約300日であるという観測事
実を考慮し、計算は1.75*10^{34} erg s^{-1} < L_{irr,X} = 1.75*10^{38} erg s^{-1}、10 days< P_{orb} < 300 days の範囲に対して行った。簡単のため、円盤は定常、軸対称であること、円盤ガスの自己重力は無視することができること、円盤は幾何学的に薄く、光学的に厚いことを仮定した。Be星の照射も取り入れた場合では、これらの仮定に加え、降着円盤の外縁によって影になる部分ができるshadowingの効果は無視できるとした。なお、降着円盤の粘性には、Shakura-Sunyaevの粘性パラメータ alpha=0.1を用いた。
中性子星の照射のみを取り入れた場合では、降着円盤の領域を粘性加熱が優勢な領域な
内側の領域Iと中性子星の照射が優勢な外側の領域IIに分けて、近似的に構造解を導出し
た。領域Iでは降着円盤の温度がT proportional r^{-3/4}$のように減少し、一方、領域IIでは T proportional r^{-3/7}のように減少するという結果が得られた。
Be星の照射も取り入れた場合では、その照射の影響を方位角方向に平均化し、降着円盤の領域を粘性加熱が優勢な内側の領域I、中性子星の照射が優勢な中間領域II、
Be星の照射が優勢な外側の領域IIIに分けて、近似的に構造解を導出した。領域
I,IIでは中性子星の照射のみを取り入れた場合と同じ解である。領域IIIでは
T=一定、すなわち円盤は等温になるという結果が得られた。なお、Be星のモデ
ルとしてB0型主系列星を採用した。
さらに中性子星の照射のみを取り入れた場合とBe星の照射を
取り入れた場合のそれぞれについて、降着円盤の構造解を円盤の領域を分けずに
数値的に求め、近似解と数値解の誤差は20%以内に収まっていることを示した。
これらの構造解を用いて、降着円盤は表面上の各点での温度の黒
体輻射をすると仮定し、降着円盤の放射スペクトルについても計算した。中性子星の照
射のみを取り入れた場合とBe星の照射も取り入れた場合のスペクトルを比較する
と、L_{irr,X}=1.75* 10^{34} erg s^{-1}時にその差は最大で十数倍程度であり、L_{irr,X}=1.75*10^{38} erg s^{-1}の時は両者に違いは見られなかった。また、中性子星の光度がL_{irr,X}=1.75* 10^{36}erg s^{-1}以上になると、nu >10^{16} Hzの振動数領域では降着円盤からのフラックスがBe星からのフラックスを上回っていた。
これらの計算の結果、Be/X線連星では、Be星の照射は降着円盤の外側の領域で最
も良く効くこと、中性子星が静穏時でBe星の照射が最も良く効くこと、赤外線と
紫外線の振動数領域でBe/X線連星における降着円盤が観測できる可能性があるこ
とがわかった。
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