本研究では大気主成分の凝結を考慮した火星大気非静力学モデルを開発し, 大
気主成分の凝結が起きた時の流れ場の様子がどうなるかをサーマルの上昇実験
を行うことで調べた.
支配方程式として大気の密度変化を表現できる準圧縮方程式を採用した. こ
の方程式に大気主成分の凝結による効果を加えた. 多くの地球大気非静力学
モデルの場合, 凝結の効果は潜熱による温度変化のみを考慮する. 大気主成
分の凝結を考える場合はこれに加えて潜熱に伴う熱膨張および大気質量の減少
による圧力変化も考慮する必要がある.
凝結量および雲粒の落下量の表現は1 個の雲粒の拡散成長を考えることで定式
化した. 地球大気非静力学モデルでは凝結量および雲粒の落下量を近似的に
診断量として表現している. しかし, 火星大気ではその近似が成り立つかど
うかはわからないため, 凝結量および雲粒の落下量の時間発展を計算する必要
がある. 凝結量は雲粒の拡散成長を用いて表現した. 雲粒の落下量の扱いに
ついて考えるために凝結量の式から生成される雲粒の半径のスケールを見積も
り, さらにその値から雲粒の落下速度を見積もった. 見積もられた雲粒の落
下速度は, 風速に比べて十分小さい値であった. 従って, 本モデルでは雲粒
の落下量は無視した. また, 凝結量の式を用いて凝結の時間スケールを見積
もった.
時間方向の離散化にはモード別時間分割法を用い, 重力波モードは長い時間ス
テップで計算し音波モードは短い時間ステップで計算した. 凝結に関連する
項は見積もられた凝結の時間スケールから短い時間ステップで計算する必要が
あることがわかった. この考察をもとにして方程式の離散化を行った.
湿潤大気の計算を行う前に乾燥大気モデルのテスト計算を行った.
行ったテスト計算は個々の物理過程の動作チェックのための計算と
Odaka et al. (1998) の一様冷却と地表面熱フラックスによって駆動される乾
燥対流の計算である.
開発されたモデルを用いてサーマルの上昇実験を行った. 具体的には大気
下部にサーマルを置いて, 浮力で上昇させた時に形成される二酸化炭素氷雲
の成因およびそれによって発生する流れ場のパターンを調べた. 臨界飽和
比の値を変えて計算を行った. 計算の結果, サーマルの上部で飽和比の値
が大きくなり雲が形成された. この部分では乾燥断熱減率で上昇するサーマ
ルが湿潤断熱減率の大気層に貫入することにより起こる温度低下およびサー
マルが大気を押し上げることにより起こる圧力上昇という 2 つの効果が確
認できた. また, 臨界飽和比の値が 1.1 の場合は物理量の分布のパターン
が臨界飽和比の値が 1 の場合とだいたい同じになったのに対して, 臨界飽
和比の値が 1.35 の場合は臨界飽和比の値が 1 の場合と比べて異なるとい
う結果を得た.
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