2003年9月26日、北海道十勝沖を震源とする2003年十勝沖地震が発生 した。この地震のメカニズム解は低角逆断層を示していることから、沈み込む太平洋 プレートと陸域のプレートの境界で発生したプレート間地震であると見られている。 しかし、この地震は海域で発生したため、陸域からの観測では正確な余震分布、特に 深さ方向の決定が困難である。そこで、地震発生直後から北海道大学、東北大学、東 京大学、九州大学、独立行政法人海洋研究開発機構、気象庁合同で震源周辺への海底 地震計の設置の準備を開始し、10月1日から11月20日まで余震観測を行った。そして余 震観測で得られた地震波形のP波、S波の到着時刻の検測を行い、観測域周辺で同期間 に気象庁で観測された1195個震源のうち、P波、あるいはS波の読み取り値の合計が25 個以上の596個の地震を選び、震源の決定を行った。この際、各OBSにおいて、P波、S 波の到着時刻の遅れを補正するために堆積層補正を行った。震源決定の結果、余震は 一様に発生しているのではなく、活発である地域と比較的活発ではない領域が見ら れ、空間的な偏りがあることがわかった。深さ方向についても、気象庁による震源と 比べて海底地震計から決定した地震は全体として10kmから15km程度浅く求められてお り、Iwasaki et al. (1989)による十勝沖での構造探査の結果と比較すると海溝軸より ではプレート境界に沿って余震が分布しているように見え、さらに陸域に近づくとプ レート境界より深い部分で余震が発生しているように見える。このことはShinohara et al.(2004)、山田・他 (2005)らと調和的である。
次に、余震観測で得られたP波の読み取り値を基に、2003年十勝沖地震余震域でのトモ グラフィー解析を行った。ここでは、震源決定を行った地震の中から観測網の中で発 生した400個の地震を選び出し、それらの9644個のP波読み取り値を用いてトモグラフ ィー解析を行った。また、初期構造モデルには、震源決定でも用いたIwasaki et al. (1989)から1次元速度構造を仮定し、格子点間隔は、水平方向に10km、深さ方向には 仮定した1次元速度構造を再現できるように設定した。この格子点間隔は、観測点が密 になっていることで、読み取り値が十分にあることから、水平方向には密な間隔に設 定した。堆積層補正については震源決定で用いた値を使った。余震観測で得られた震 源を用い、プレート内部の深い地震がなかったためプレートのマントルの形状をはっ きりと捉えることはできなかったが、その計算の結果から、高速度帯を示す海洋プ レートが、大陸プレートの下に沈み込んでいる様子が確認できた。さらに、同時イン バージョンにより求められた震源分布を見ると、海溝軸から100km付近のあたりから沈 み込みの角度が大きくなっていること、調査海域において南西部と北東部では沈み込 みの角度が異なり、北東部で沈み込みの角度が急になっていることが示唆された。こ こで求まったP波速度構造とYamanaka and Kikuchi (2003)によるアスペリティや地震 活動との対応関係はほとんど見られなかった。
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