当調査地域は北海道恵庭市、札 幌市の南西30kmに位置し、漁川、ラルマナイ川の上流域にある。支笏湖の北方3kmに恵庭鉱山、恵庭鉱山から 北東約3kmの地点に光竜鉱床が存在する。また、当地域より南西方向約20kmには同様の浅熱水性金鉱 床である千歳鉱山がある。
光竜北部の調査地では光竜鉱山と同様の中性変質帯が広く分布し、特定の場所において酸性 変質帯の存在が報告がされている。両者の関連性については詳細な研究がされておらず、本地域の変質作用を明らかにすることは、この地域における浅熱水金鉱化作用を明らかにす るうえで重要であると考えられる。そのため、本研究では当地域に卓越する変質作用と周辺地質との関係、各変質帯間の関係、生成時期等を明らかにし、周辺の 鉱床との関連性の考察に加え、これまで詳細な研究例(福富、1950)が少ない恵庭鉱床における変質作用を考察す ることを目的として恵庭鉱床の露頭調査結果と考察を実施した。
この地域の地質 は、新第三紀中新世の地層とその中に貫入する火成岩、及びそれらを覆う第四紀の火山岩類、堆積物によって構成される。光竜鉱山の北部では漁川層泥岩を母岩 として、一部の地域で砂岩、凝灰岩層がみられ、安山岩の貫入岩が確認される。恵庭鉱山の調査地域では、母岩は含石英両輝石安山岩であり多数の石英脈が確認 される。
恵庭地域で沢井・板谷(1996)ズリ堆積場サンプルのK-feldsparより2.14±0.05Ma、光竜鉱床で藤川他(1995)によって酸性変質帯のAluniteより3.51±0.4Ma、貫入岩のporphyriteについては2.1±1.2Maという年代データが得られている。今回、新たに光竜地域での粘土化変質したSericiteより1.7±0.1Ma、恵庭地域の鉱石(K-feldspar)、露頭の 変質帯(Sericite)からそれぞれ2.8+0.1Ma、2.7±0.1Maという年代データが得 られた。
変質岩のXRD分析によって鉱物同定を行 い鉱物の組み合わせで変質分帯を考慮したところ、光竜地域では酸性変質帯と中性変質帯の変質帯の分布が明瞭に識別できた。さらに細かく分帯した結果、酸性 変質帯においてはpyrophyllite帯を中心とし外部に向かってalunite帯、kaolin帯、sericite帯という累帯構造が明らかとなった。中性変質帯においてはchlorite-albite帯、chlorite-sericite帯、sericite帯が認められ、各分帯の中ではさらに詳細な分帯も可能であった。変質帯中心からsericite帯→chlorite-sericite帯→chlorite-albite帯と変化する傾向が認められるが、母岩の違いや熱水の活動量、および母岩との反応の程度 などの影響によって酸性変質帯ほど明瞭な累帯は認められない。
年代データとあわせて考慮する と、酸性変質帯を形成する熱水活動が漸移的に中性変質帯を形成したのではなく、酸性変質帯を形成した熱水活の後に中性熱水活動が遅れて生じ、広範囲に及ぶ 変質帯を形成した可能性が指摘され、熱水変質作用の重複が考えられる。
恵庭鉱床においては中性変質帯 が広く分布し、石英脈際でsericite帯顕著に発達する事実が多く見られた。また、鉱石の年代データと露頭から得られたデータ を考慮すると、恵庭鉱床の変質作用は鉱床形成時に関与した熱水と同時期に生じ、鉱化作用と調和的であるといえる。
|