2005 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2006 年 2 月 3 日

氏名 中屋 正樹
論文題目 レーザー照射加熱によるコンドライトの溶融・沸騰・凝縮実験及び原始太陽系の主要化学分別の原因の解明
論文要旨 原始太陽系星雲から現在の太陽系がどのようなプロセスでいかなる物理・化学条 件の下で形成されたのかという問題を解明するために、コンドライトの化学分別の 理解が重要である。異なるコンドライトタイプ間の化学組成の相違の最も重要なも のとして、親石元素(Al, Ca, Mg, Si, Tiなど)の存在度の系統的な違いがある。 これは、太陽系存在度をもつ物質への高温凝縮成分の付加または除去を考慮すると 良く説明されると従来言われてきた。Takahashi (1997)は卒業論文の中で、Larimer & Wasson (1988)が議論したMg/Al-Si/Al組成図上でAOIと三つのコンドライトタイプの 平均値の計4点が一つの直線上に乗ることについて、元の隕石データから検討した 結果、そのような関係が全く存在しないことを明らかにした。これにより異なるコ ンドライトタイプ間の成因関係の考察は再び白紙に戻ったが、その代わりTakahashi (1997)は目覚しい発見を行った。同一のコンドライトタイプ(およびそれらのサブ タイプ)に属する隕石は各々特徴的なSi/Mg元素比を持ちながら、Alの濃度が数倍の ダイナミックレンジに亘るという事実が信頼できる全岩分析データを使って明らか となった。

 二年前、NHKの番組「地球大進化」で岩石蒸気の発生する様子を収録する目的で二 種類の実験が企画された。その一つでは、実際のコンドライト隕石に高出力のCO2レ ーザーを照射し岩石を一瞬に蒸発させた。冷たいN2ガスにより急冷された岩石蒸気 は微粒子の集団として凝縮し、狼煙のように立ち昇った。この様子をハイヴィジョ ンカメラは見事に捉えたが、煙の他に、レーザー照射点から放射状に小さな火の玉 が飛び散る光景が映しだされた。火の玉の正体は、溶けた岩石が沸騰した飛沫であ った。

 本修士論文の第一章では、これらの液滴(球粒ガラス)計300個を全て回収し、断 面をSEM-EDSにより定量分析した。その結果、次のことが明らかとなった。数個の例 外を除いて、全ての球粒はほぼ同じSi/Mg元素比(~1.07;普通隕石の全岩分析のSi/Mg元素 g元素比に等しい)を持ちながら、Al(およびCa, Ti)の濃度は数倍のレンジに亘っ て分布する。この傾向は普通コンドライトの全岩組成の分布に重なるだけでなく、 球粒のAl濃度のレンジは普通コンドライトの全岩組成の分布をはるかに超える。

 本修士論文の第二章では、実験的に普通コンドライトのLタイプを合成しこれに同 様の条件でレーザーを照射した後、計400個の球粒を回収して定量分析した。その結 果、隕石照射実験で生じた球粒と同様に、Mg/Al-Si/Al組成図上で初期組成とほぼ同 じSi/Mg元素比を保ちながら直線的に分布する化学分別傾向を持つ球粒の一群が確認 されたが、一方、初期組成よりも大きなSi/Mg元素比を持つ直線的に分布する球粒の 一群が出現した。後者の存在は異なるSi/Mg元素比を持つコンドライトタイプを太陽 系元素存在度の物質を出発点として生成しうる可能性を示唆している。

 今回の実験はコンドリュールが従来の予測よりもはるかに高温の3000K以上の温度 で生成した可能性を示唆する。コンドライト隕石の体積の大部分を占める大量のコ ンドリュールをこのような超高温で形成するためのエネルギー源の可能性はかなり 限定される。本修士論文の第三章では複数のコンドリュール成因論についてレヴュ ーし、それらの利点・欠点を吟味する。さらに今回の実験のような沸騰を伴う生成 過程に適合する原始太陽系の環境とプロセスについて考察をおこなう。