2005 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2006 年 2 月 3 日

氏名 岡本 寛明
論文題目 スパッタリングによる星間ダストの破壊
論文要旨 星間空間に存在するダストはガスや光との相互作用により吸収したエネルギーを熱輻射として放出し,星間空間 のエネルギーバランスを支配する重要な宇宙の構成要素である.したがって,星間空間中に存在するダストの量 は宇宙での星の形成や銀河の進化を考察する際に決定的な役割を果たす.星間ダストは主系列段階での質量が8 倍の太陽質量より小さい星の進化末期段階にある赤色巨星や漸近巨星分枝から放出されるガスや,8倍の太陽質 量より重い星が進化末期に超新星爆発を起こした際に放出するガス中で形成され星間空間に放出される.一方, 形成されたダストは超新星爆発によって引き起こされた衝撃波によって掃かれた高温ガスとの衝突によるスパッ タリングにより破壊される.本研究では,星間衝撃波によるダストの破壊の効率を評価するために,主な星間ダ スト種のスパッタリングイールドを計算した.更にスパッタリングによるダスト破壊の定式化を行ない,ダスト が与えられた相対速度で高温ガスに突入した際の,相対速度の変化,ダストサイズの減少率,ダストが破壊され るまでの時間及び移動距離の,ガス密度とガス温度依存性を調べた.

計算に際しては,ターゲット物質として典型的な星間ダストを構成する物質であるC,SiO2,silicate,SiCとFe, また星間雲や分子雲中に存在するicy mantleダストの主成分であるH2O iceを,プロジェクタイルとして星間ガ スの主成分であるH,He,C,N,O及びNeイオンを考えた.また,イオン種の存在度は太陽組成であるとした.与えら れたターゲット物質とプロジェクタイルイオンに対するスパッタリングイールドの計算は,Bohdansky et al.(1981)によるuniversal relationを用い,また,必要な物性データ及びパラメータはTielens(1994)の値を採 用した.スパッタリングによるダストのサイズの減少率の計算に際しては,ダストは一様球であると仮定し,ガ スの熱運動によるthermal sputtering,ガスダストの相対速度によるnon-thermal sputtering,及び両者を考慮 した一般的な場合に対して行なった.また,衝撃波後方での高温ガス中でのダストの破壊は,ダストが衝撃波に 突入する際の速度は1000km/sとし,衝撃波後方でのガス密度と温度は一定と仮定した.計算結果は以下である.

(1)スパッタリングイールド イールドの入射エネルギー依存性は概ね次の傾向をもつ.threshold regime (10〜100eV)で急激に増加し1〜 10keVで最大となる.また10keV以上で緩やかに減少する.またC,N,O,Neイオンについてはほぼ同じ値を与える が,H,Heに対する値はこれらに比べて1/100,1/10程度になる.またターゲットH2Oに対する値は他の物質に比べ て10倍程度大きくなる.

(2)thermal,non-thermal sputteringによるダストサイズの減少率 thermal sputteringによるダストサイズ減少率のガス温度依存性は概ね次の傾向をもつ.10^5〜10^7Kで急激に 増加し10^7〜10^8Kで最大となる.また10^8 K以上で緩やかに減少する.各イオンに対する値はH,He,O,N,Ne,Cの 順に小さくなり,O,N,Ne,Cの値はH,Heに比べて1/10〜1/100程度である.またH2Oに対する値は他の物質に比べて 100倍程度大きくなる. non-thermal sputteringによるダストサイズ減少率の相対速度依存性は概ね次の傾向をもつ.10〜100km/sで急 激に増加し100〜1000 km/sで最大となる.また1000 km/s以上では緩やかに減少する.各イオンに対する値は H,He,O,C,Ne,Nの順に小さくなり,O,C,Ne,Nの値はH,Heに比べて1/10〜1/100程度である.但し100km/s以下では Heに対する値が最も大きくなる.またターゲットH2Oに対する値は他の物質に比べて100倍程度大きくなる.

(3)高温ガス中に突入した際の,ダストのサイズと速度変化,破壊までに要する時間と移動距離 ダストサイズは破壊の最終段階で急激に減少し,それまではほぼ一定である.またダストはガス抵抗で減速して いくがその減速度はダストサイズに反比例する.破壊に要する時間はダストサイズに比例しガス密度に反比例す る.またHガス密度を1.0cm^-3としガス温度を変化させた場合およそ5x10^5Kで最小になる.ダストの移動距離は ダストサイズに比例しガス密度に反比例する.またガス温度を変化させた場合高温になるほど小さくなる.