氏名 |
菅林 恵太
|
論文題目 |
閉鎖性汽水湖における流動機構‐北海道・サロマ湖‐
|
論文要旨 |
北海道北東部に位置するサロマ湖は、面積151km2の日本最大の多鹹性・海水性沿岸海跡湖であり、閉鎖性汽水
湖の特徴を有する。ここでは、外海に近い塩分と高い静穏性からホタテ貝の養殖事業を中心とした漁業活動が
盛んに行われており、生産額は年間30億円に近い。しかし、周辺流域の土地開発や生産の増加に伴い、富栄養
化の進行や貧酸素水塊(溶存酸素濃度3mg/l以下)の発生が起こり、養殖業に被害を与える事例も報告されてい
る。これからのサロマ湖の永続的利用のために、生産活動や水域の利用・開発を自然環境の特性に十分適合し
たものとすることが求められている。よって、本研究はサロマ湖内の物質循環を把握するために、湖の流動機
構を明らかにすることを目的とする。
使用したデータセットは、2003、2004年における水質調査、2005年8月における水位観測、2003年から2005年
までの気象データである。
2003、2004年の結氷期以外の期間において、北海道環境科学センターのもとで船上観測による水質調査が行わ
れた。その結果、2003年では6月〜9月の期間に密度成層が発達し、それに伴い夏季には明らかな貧酸素水塊の
形成が確認された。しかし、2004年では密度成層が弱く、貧酸素水塊の存在は確認されなかった。気象データ
からこの原因を考察すると、風によって発生した吹送流の影響が大きいことが示唆された。湖盆形態と密度分
布からウェダバーン数Wを計算すると、北北東-南南西方向で13.1m/s以上の、西北西-東南東方向で6.4m/s以上
の風が吹くとW<1となり下層水の湧昇が起きる。この計算値は、2003年9月3日〜17日の期間で起こった貧酸素
水塊の崩壊を説明する。
筆者らが行った2005年8月初旬〜9月中旬の水位観測により、任意の湖水位を再現するモデルを作成した。網走
港における40文潮を重ね合わせた天文潮を外海の潮位とし、潮位と湖水位の振幅比αと位相の遅れ時間βを導
入することで各観測点の水位変動を高い再現性でシミュレートすることができた。αとβの値から、外海との
位相は第一湖口でおよそ40分遅れること、第一湖口から遠くなるにしたがって遅れは大きくなること、振幅は
北勝水産前を除いた4地点で潮汐の振幅から10〜20%減衰すること、がわかった。
養殖施設のないサロマ湖の流動を再現するために、三次元流体解析プログラム「Phoenics v3.6」を用いてシ
ミュレーションを行った。水平メッシュは500×500m、水平に2.5mで最大7層に分割したモデルを適用した。入
力として潮汐流のみを考え、湖口から出入りする流量を潮位と湖水位との差から求めた計算値を与えた。シ
ミュレーションの結果、上げ潮流の場合(1)第一湖口からの潮汐流の影響が支配的であり、第二湖口は湖流
に対して大きな影響を与えない。(2)第一湖口から湖奥へ5000m付近の水域では、0.5m/s以上の速い流れが発
生する。下げ潮流の場合、(3)第一湖口からの流れが支配的である。(4)第一湖口から1000m付近で0.5〜
1.0m/sの速い流れが発生する。ことがわかった。
湖水位の観測では、振幅について第一湖口とその他の観測点で振幅に有意な差異は見られず、位相に関して第
一湖口からその他の観測点へおよそ40分の遅れがあった。養殖施設には方向性があり、施設の配置を変更する
ことで海水交換を活性化することが可能である。今後は、現在のモデルに養殖施設の影響を組み込み、施設の
ある状態でのサロマ湖の流動機構について再現していきたい。
|
|