■ 過去の火星の気候

図11: マーズグローバルサーベイヤーによって撮影された, バレーネットワーク (ナネディ渓谷). 左が全景 (9.5 km × 18.5 km), 右は拡大図. [ NASA 惑星画像ホームページより取得].

図12: バイキング2号によって撮影されたクリュセ平原のアウトフローチャネル. 撮像範囲は 20S-20N, 15-53W. 流れは南から北へ向かったと考えられている [ NASA 惑星画像ホームページより取得].

図13: マーズグローバルサーベイヤーによって観測された火星の高度分布. 高度は赤色から青色へと向かって低くなる [ NASA 惑星画像ホームページより取得].

現在の火星の大気と地表には, 水がほとんど存在しない. しかし残された表面地形は, 液体の水が火星の地表に存在した可能性を示している. 過去の火星の気候は, 液体の水が地表に存在できる程, 温暖湿潤であったかもしれない.

液体の水が地表に存在していたことを示唆する代表的な地形は, バレーネットワークとアウトフローチャネルである.

• バレーネットワーク:
  図 11 のような水路状の地形.
  • 幅は 2-3 km, 大きくても 10 km 程度
  • 断面は長方形か U 字型
  • 38 億年よりも古い時代に形成された地表に多く存在
  という特徴がある.

  現在の気候条件では地表の水は凍ってしまい, 観測される大きさまでバレーは成長できない. このことから バレーネットワークは, 火星の過去の気候は温暖であったという説の 最も有力な根拠となっている.

• アウトフローチャネル:
  図 12 のような流水地形. 地球で洪水が発生したときに見られる地形によく似ているので, 一時的に大量の水が流れた跡と考えられている.
  • 大規模なものは火山の周囲に存在
  • 38 億年よりも新しい時代に形成された地表に多く存在
  という特徴がある.

その他:

• 北半球の平原:
  北半球の平原は地形高度がほとんど一定で, クレータが少ない. これは北半球に水深の浅い海が広がっていたためであるという仮説がある. 積極的な根拠は, 北半球に見られる海岸線のような地形の存在と, それの一部が等重力ポテンシャル線と一致することである.

過去の温暖湿潤な気候を実現するメカニズムとして, 1 気圧程度の濃い CO₂ 大気による温室効果が考えられている. しかし,

• かつて存在した CO₂ と水はどこへいったのか?
• 温暖湿潤な気候から現在のような寒冷な気候へどのように変化したのか?

• 火星の気候変動についての議論は,
  • 横畠 徳太, 2002, 大気-極冠 CO2 質量交換
  • 中村 貴純, 2002, 火星気候の安定性と進化
  を参照されたい.