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惑星の気象学


自転のある惑星の大気循環

気象衛星「ひまわり」で見た地球大気循環の特徴のうち, 「1. 中高緯度では西風, 赤道付近では東風」と「2. 中緯度の渦状の雲」は, 地球の自転にその主たる原因がある.

【中高緯度の西風と赤道付近の東風】

図3: ハドレー循環と亜熱帯ジェット, 貿易風の模式図 (北半球の場合). 南北風にコリオリ力が働いて亜熱帯ジェットと貿易風ができる.
図4: 中緯度ジェットの模式図 (北半球の場合). 圧力(橙)とジェットに働くコリオリ力(赤)がつりあう.

まず赤道付近緯度の循環について考えよう. 地球大気循環のエネルギー源は太陽からの放射であるため, 大気のおおまかな温度分布は太陽放射の分布によって決まる. 地球の受け取る太陽放射エネルギーは赤道で大きく極では小さいので, 赤道付近の空気は暖かく, 極では冷たくなる. この温度差を解消するよう南北方向に大気の流れが生じると考えられる. これがハドレー循環である. 惑星が自転している場合には, ハドレー循環にともなう南北風にコリオリ力が働く. そのため赤道に吹き込む風は東よりに, 赤道から吹き出す風は西よりに変化する. 赤道付近の東風は「ハドレー循環 + コリオリ力」でおおまかに説明することができる (図3).

中高緯度の西風も「ハドレー循環 + コリオリ力」で説明できそうである. しかし実際の地球大気ではハドレー循環は北緯 30 度(南緯 30 度)付近までしか到達していない. したがって北緯 30 度(南緯 30 度)付近の「亜熱帯ジェット」と呼ばれる西風は「ハドレー循環 + コリオリ力」説明できるが, それより高緯度の西風は説明できない. そもそも南北の温度差を解消するべく生じたハドレー循環が, 極まで到達できない理由は何なのであろうか?

実は自転のある惑星大気においては, 南北の温度差を解消しなくてもよいのである. 暖かい空気と冷たい空気の境界上に「上空ほど強い西風がある」と考えよう. このとき中緯度では西風に働くコリオリ力によって, 南北方向の温度差によって生じる圧力を打ち消すことができる (図4). これが北緯 30 度(南緯 30 度)より高緯度に存在する「中緯度ジェット」と呼ばれる西風の原因である. このときハドレー循環のような南北の循環は起こらなくてよい. 赤道付近では暖かい空気と冷たい空気の境界上に西風を置いても, コリオリ力が小さいのでハドレー循環を止めることはできない. ハドレー循環の到達できる緯度は, おおざっぱには 「西風に働くコリオリ力と南北方向の温度差によって生じる圧力がつりあう緯度」 である. 地球大気の場合, たまたまその緯度が 30 度程度となっている.

【中高緯度の渦状の雲】

以上の考察のように, 中高緯度では基本的に緯度円に沿った西風が吹いている. しかし風速が大きくなりすぎると緯度円に沿った流れは「不安定」になり, 中高緯度の西風は蛇行を始める. 中高緯度の水平風はそれに働くコリオリ力と圧力がほぼつりあうように吹くので, 蛇行によって生じた反時計回りの渦は低気圧, 時計回りの渦は高気圧となる (図 5, 南半球では逆). 地表付近の風は地表面の摩擦によって低気圧の中心に吹き込むように吹く. その結果低気圧の中心では上昇気流とそれにともなう雲が発生しやすくなる. 気象衛星「ひまわり」に見られる反時計回りの渦にそった雲は, このようなプロセスで生じたと考えることができる.

自転がないには場合コリオリ力が働かないので, 西風が蛇行しても低気圧は生じない. したがって中高緯度に渦状の雲ができる理由もないのである.

図5: 西風の蛇行と渦の形成 (北半球の場合). 中緯度では圧力(橙)と風に働くコリオリ(赤)がつりあうような流れができる.


最終更新日: 2002/08/20 小高 正嗣 (odakker@gfd-dennou.org)
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