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  月探査 〜アポロから現在まで〜


月は人類が降り立ち探査を実施した唯一の天体です. 現在我々が持っている太陽系についての知識の多くは月探査から得られたものです. これまで有人, 無人を合わせて約60機もの探査機が送られこの地球に最も近い天体の成り立ちを明らかにして来ました. ここではアポロ計画及び90年代以降に行われた月探査,現在準備が進められている日本の月探査計画の概要と成果について紹介します.

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A MAN ON THE MOON - アポロ計画 -

1957年10月ソビエトは人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた. アメリカとソ連 , 超大国同士の宇宙開発競争が始まった. ケネディ大統領が言った「10年以内に人を月 に送り,安全に帰還させる」計画 - アポロ計画は純粋な冒険心から生まれたものではな く,多分に政治的意味合いの強い事業であった.

1969年7月20日アポロ11号は「静かの海」に着陸した. 船長アームストロングが月面に「 …人類にとっては大きな一歩」をしるした. その後もアメリカは,アポロ13号の事故か らも立ち直り17号まで計6度,12人の人間を月面に送り込んだ. 15号からは飛行の目的 も科学探査が主となり17号では地質学者による月面探査を実施した.

月面で採取した月の岩石,地中から得られた土壌のサンプル(コア)から我々は月の環 境やこれまでの歴史を予測する事が出来る. 又,宇宙飛行士達が設置した地震計等の計 測器はその後も働き続け, 月の内部構造等について新たな知識を人類にもたらした.

アポロ11号 アポロ12号 アポロ14号 アポロ15号 アポロ16号 アポロ17号


  アポロ11号    1969.7.16〜24                                 △アポロ計画Topへ

THE APOLLO PROGRAM
人類初の月面着陸. 採集された岩石は主に結晶質の玄武岩とそれが角礫岩化したものであった. 分析の結果から月の岩石は著しく乾燥していることが明らかになった. 水は全く無く含水鉱物さえ含まれていなかった. 放射性同位体による年代測定によれば,静かの海の玄武岩は37億年前に流れ出したものであることが分かった.
又,幾つかの科学探査装置を設置した. 地震計のデータによれば月にも地震(月震)はあるが小さく稀であることを明らかにした. レーザ反射計により月-地球間距離を高精度に計測することが可能となった.
クルー
二ール・アームストロング
マイケル・コリンズ
エドウィン・オルドリン
着陸日
1969.7.20
着陸場所
静かの海
月面滞在時間
21時間31分
月面活動時間
2時間31分
採取サンプル量
21.6kg


  アポロ12号    1969.11.14〜24                               △アポロ計画Topへ

THE APOLLO PROGRAM
2回目の月面着陸. 月着陸船の着陸精度を証明するためピンポイント着陸を行った. 標的には1967年に軟着陸した無人探査機サーベイヤー3号(左端の写真)が選ばれ,見事180m離れた場所に着陸した. この成功は以降に続く科学探査において重要な成果となった..(科学探査では着陸ポイントが入念に検討される為)
採集された岩石は主に玄武岩であった. その年代は11号よりも5億年も若く,31億年前に噴出したと考えられる. このことは月の火山活動が単一なのものではなく時間的にも,位置的にも異なるものからなることを示唆した.
クルー
チャールズ・コンラッド
リチャード・ゴードン
アラン・ビーン
着陸日
1969.11.19
着陸場所
嵐の大洋
月面滞在時間
1日7時間31分
月面活動時間
一回目=3時間56分
二回目=3時間49分
採取サンプル量
34.3kg
THE APOLLO PROGRAM THE APOLLO PROGRAM


  アポロ14号    1971.1.31〜2.9                               △アポロ計画Topへ

THE APOLLO PROGRAM
酸素タンクの爆発事故により月面着陸を断念したアポロ13号にかわり初の高地着陸を行った. 14号の目的は科学的な月面探査を行うことであった. 着陸地点のフラマウロ高地は雨の海の南に位置し, 雨の海ベースン形成の際の放出物が堆積していると考えられていた.
二度目の船外活動では3km先のコーンクレータまで徒歩での探査を行い地殻深部のサンプルを採取した. 得られたサンプルは全て角礫岩で組成は玄武岩に近いものであった. 高地の岩石は斜長岩に富むと考えられていたが,この探査により高地はいろいろな地質学的歴史や進化をもった複数の地質区域からできているものと推測された.
クルー
アラン・シェパード
スチュアート・ルーサ
エドガー・ミッチェル
着陸日
1971.2.5
着陸場所
フラマウロ高地
月面滞在時間
1日と9時間30分
月面活動時間
一回目=4時間47分
二回目=4時間34分
採取サンプル量
42.8kg


  アポロ15号    1971.7.26〜8.7                               △アポロ計画Topへ

THE APOLLO PROGRAM
アポロ15号以降のミッションは本格的な科学探査に必要な装備を持ち込んで行われた. まず,ローバーと呼ばれる月面車である. これによって15号の飛行士は合計で28kmもの 距離を走破した. さらに着陸船の改良により月面での長期滞在が可能になった.
15号は雨の海の東の縁にあたるアペニン山脈中の平坦な谷に着陸した. 高地と海の両方 のサンプルを得る事と,過去に溶岩が流れた痕跡と予想されるハドレ-谷への探査を目的としてこの着陸点は選ばれた. 高地からはインパクトメルト角礫岩,平原からは玄武岩が主に採集された. 小数, 高地の岩石と考えられる斜長岩も含まれていた. 玄武岩の年代より着陸点の地質年代はアポロ12号の着陸点と同程度(約31億年)と見積もられた. ハドレ-谷では,その壁面に層状の地層の重なりを確認した. これは雨の海を埋めた溶岩が長時間にわたって堆積したことを示すものと考えられる.
クルー
デイビッド・スコット
アルフレッド・ウォーデン
ジェイムズ・アーウィン
着陸日
1971.7.30
着陸場所
ハドリー・アペニン
月面滞在時間
2日と18時間54分
月面活動時間
一回目=6時間32分
二回目=7時間12分
三回目=4時間49分
採取サンプル量
76.7kg
THE APOLLO PROGRAM


  アポロ16号    1972.4.16〜27                                △アポロ計画Topへ

THE APOLLO PROGRAM
海から離れた高地に送られた唯一のミッション. デカルト高地と呼ばれる地域が,月の 表面のほとんどを占める高地の代表として選ばれた. それまでの研究で月の地殻は, その歴史のごく早い時期に様々な変化を受けたと考えられていたが, 16号 の探査は月表面形成の理解をさらに深めることを目的としていた. それは同時に, 地球の大陸地殻の形成と海洋底についての知見を深めることにつながるものであった.
岩石サンプルには期待していた火山性のものはほとんど存在せず,隕石の衝突でできた 様々な角礫岩がほとんどであった. このことから,高地の表面の地質では火山活動の影 響は小さく,衝突によるクレーター形成に伴うの放出物が堆積した地質が支配的である ものと考えられている.
クルー
ジョン・ヤング
ケネス・マッティングリ-
チャールズ・デュークbr>
着陸日
1972.4.20
着陸場所
デカルト高地
月面滞在時間
2日と23時間2分
月面活動時間
一回目=7時間11分
二回目=7時間23分
三回目=5時間40分
採取サンプル量
94.5kg

THE APOLLO PROGRAM

THE APOLLO PROGRAM


  アポロ17号    1972.12.7〜19                                △アポロ計画Topへ

THE APOLLO PROGRAM
アポロ最後の月面着陸. 地質学者のシュミットが科学者として始めて月に降り立った. タウルス・リトロウ谷は晴れの海べースンの南西に位置し,高地と海両方からサンプルを得るのに適しているとして選ばれた. 海の玄武岩地帯とタウルス山付近の高地に分けて探査が行われた. 
谷を埋める溶岩は様々な溶岩流による玄武岩で,アポロ11号で採集されたものに似ている. 又,玄武岩が噴水状に噴出した時に出来た火山灰と思われる,オレンジ色をした褐色ガラスも採集された. 高地では,晴れの海を作った巨大衝突によって形成された様々なタイプの角礫岩,インパクトメルトが採集された.
また,12号以来設置されてきた(13号は除く)ALSEP(Apollo Lunar Surface Experiment Package)と呼ばれる地球物理学的観測ステーションは17号で5ヶ所目となり,1977年に停止するまで地球に観測データを地球に送り続けた. これによって,月の地殻の厚さが約60kmであること,月内部の放射性元素の量を見積もることが可能になった.
クルー
ユージン・サーナン
ロナルド・エバンス
ハリソン・シュミット
着陸日
1972.12.11
着陸場所
タウルス・リトロウ谷
月面滞在時間
3日と2時間59分
月面活動時間
一回目=7時間11分
二回目=7時間36分
三回目=7時間15分
採取サンプル量
110.3kg
THE APOLLO PROGRAM THE APOLLO PROGRAM

参考文献,参考HP
  • 月の科学 第3章 (p57-p88) / シュプリンガ-・フェアラーク東京
  • 人類月に立つ(下巻) 資料「アポロ宇宙船ミッション・データ」 / NHK出版 
  • APOLLO THE APOLLO PROGRAM
図,写真出典
  • 写真の下に「TEW APOLLO PROGRAM」と表記したもの以外は,
    Apollo explorerを参照.



BACK TO THE MOON  - 再び月へ-                      このページのTopへ

アポロ17号の最後の有人着陸以後,70年代にソビエトの無人探査機が幾度か訪れたものの,その後約20年もの間月探査は行われなかった.これほど長期間探査が行われなかった理由にはNASAの予算削減のみならず, 月探査に対する新たな目的を明確に持つ事が出来なかった事も大きい.アポロ計画が人類にもたらした月の知識は莫大ではあったが,それらはアフリカ大陸と同程度の面積のうちたった6ヶ所から得られたものに過ぎない.特に,高緯度地域は未知の領域として残されていた.月全面の地形,表面の化学組成,重力を観測し,月全体の中で位置付けしようとするミッションが1990年代以降スタートした.

クレメンタイン(アメリカ)
NSSDC
ルナプロスペクタ-(アメリカ)
NSSDC
LUNAR-A (ルナA) (日本)
  ISAS
SLENE(セレーネ) (日本)
NASDA /ISAS


クレメンタイン    1994/2/25打ち上げ                                     △再び月へTop

1994年2月19日,月の南北を周回する極軌道への投入に成功した.これによって初めて月全体の組成と地形を観測することが可能となった.この衛星の総重量は148kgと軽量だが様々な観測機器を搭載していた.
■ 月面の撮像
紫外から近赤外まで11種の異なる波長で月面撮影を行い,月の地殻を構成している岩石タイプの分布を推定した.図1は月の土壌に含まれる鉄濃度の分布を示したものである.海の地域は鉄に富んだ玄武岩質溶岩に覆われているので,その土壌も鉄分に富んでいることが分かる.

■ 高度測定
レーザー高度計を用いて月面の詳細な地形高度のマッピングを行った.図2は月面の高度地図である.低い場所は青から紫,高い場所は赤になるように順に色づけしてある.これから分かることは海の領域が確かに高地より低いこと,月の裏側に直径2,500kmにも達するサウスポール・エイトケンべースンが存在することである.

■ 極域探査
極軌道に投入されたことで,初めて両極の画像をはっきりと撮像出来るようになった. 図3は南極付近の様子である.これは, クレメンタインの画像を1,500枚合成して作成されたものである.この画像から南極付近には永久影の領域が広く存在していることが分かった.このことはこの領域に彗星に破片などの水分子が届けば永久にそこに存在し続けるであろうことを意味する. クレメンタインによる電波観測では永久影の領域に実際に水が堆積していることが示唆された.
参考HP Lunar and Planetary Institute (LPI)

図1, 鉄の濃度分布 LPI 図2, 月面の高度地図 LPI 図3, 月の南極付近の画像
 MSSDC


ルナプロスペクタ-    1998/1/6 打ち上げ                                  △再び月へTop

このミッションの目的は,月の低軌道から表面組成,磁場,重力場を測定することであった.クレメンタインのカメラで撮像されたデータと,プロスペクターの科学探査機器のみによるデータの比較によって,月の起源,進化,そして現在の状態についての理解をより深めることが出来ると期待された.

中性子分光計は質量比0.01%以下の微量な氷を検出できるように設計されていた.氷の堆積物が発見されそうな極付近の領域にこの装置を向けた結果,水の氷の存在を示す大量の水素が検出された.

ミッションの最終段階では,この探査機自ら南極の水の氷が存在している可能性が高い領域に衝突し,巻き上がった月の土壌を地球から観測することで水を直接検出する試みが行われた.1999/7/31にプロスペクターは南極点付近に衝突したが,衝突の際に放出された月の土壌からは水は検出されなかった.

参考HP Lunar and Planetary Institute (LPI)


LUNAR-A    2003年度打ち上げ予定                                           △再び月へTop
LUNAR-Aと
ぺネトレータ
ISAS

月面に貫入する
ぺネトレータ
ISAS

現在,日本の宇宙科学研究所(ISAS)が2003年度の打ち上げを目指して準備を進めている.この探査機の一番の特徴は,ぺネトレータと呼ばれる槍型の科学観測機を軌道上で切り離し,月面の表側と裏側の二箇所に貫入させ観測を行う点である.ぺネトレータには月震計,熱流量計が搭載されそれぞれ次のような地球物理学的観測を行う.

月震計測
月震を計測することで中心核の存在およびそのサイズを決定することを目的としている.これまでのところ,月には地球と同じような金属の核が存在しない又は,あったとしても小さいと推定されている.月の核の存在,サイズの正確なデータは月の起源を解明する上で大変重要な役割を果たすものと期待される.

熱流量計測
月内部から表面に向かう熱量の測定を行う.このことにより,月内部の温度をコントロールしている放射性発熱元素の月全体における存在度を見積もることが出来る.放射性発熱元素であるウラン,トリウムは難揮発性の元素であり,月全体におけるこれらの存在度を明らかにすることは月の化学組成を知る上で大変有用である.

参考HP  宇宙科学研究所 (ISAS) 月探査計画



SELENE / セレーネ    2005年度打ち上げ予定                                △再び月へTop
セレーネによる
月面観測の概念図 ISAS

セレーネ計画は2005年の打ち上げを目指し,宇宙開発事業団(NASDA)と宇宙科学研究所(ISAS)が共同で準備を進めている.

セレーネ計画の目的は,
  • 月の起源と進化を探る,「月の科学」の発展を図る.
  • 月の利用可能性を具体的かつ定量的に調査するため, 月面全体にわたって体系的にデータを取得する.
  • 月探査を体系的、継続的に進めていく上で必須となる技術(月周回軌道への投入, 月周回軌道上での姿勢制御技術など)の確立を目指す.
である.「月の起源と進化」を探るためにセレーネには合計14個の観測機器が搭載され,これまでよりもはるかに精密にデータを収集する予定になっている.
参考HP That's SLENE


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Last Updated 2003.Jan.15
執筆 中神雄一, 監修 倉本圭