2015 年度の発表要旨

各発表の要旨置き場。

前期


星雲ガス中で集積成長する火星上で形成する混成型原始大気の熱的構造

2015/05/21(木) 13:00--15:00 齊藤 大晶

本発表では, 以下に述べる混成型原始大気の熱的構造の特徴とそこから推定できる集積成長中の火星の熱進化について議論する. 隕石年代学から, 火星は少なくとも 3 Myr 以内に 0.5 火星質量にまで成長したことが示唆されている (Dauphas et al., 2011).これは原始太陽系星雲の散逸時間よりも短く,火星の集積の大部分は原始惑星系星雲中で起こったと考えられる.一方,微惑星の衝突速度は, 原始火星が月サイズ以上になると十分大きくなり, 微惑星から H2O をはじめとする揮発性成分が脱ガスする.したがって集積中の原始火星には星雲ガスおよび脱ガス成分の双方からなる, 混成型原始大気が形成されたと考えられる. このような大気の構造や性質に関しては, これまで詳細に調べられていない.そこで, 1 次元放射対流平衡モデルを構築し, 集積期の火星における混成型原始大気の熱的構造について調べた.


ガリレオ衛星食を用いた木星大気透過散乱光の観測

2015/06/11(木) 13:00--15:00 高橋 康人

木星大気の鉛直構造の地上観測による制約は、水平方向に広がる構造的特徴に比べて困難である。これを実現するためにしばしば用いられるのが食や掩蔽といった天体現象であり、これまでの研究によって木星の温度構造や雲構造についての制約がおこなわれてきた。今回は、この食の観測から新たに確認された「食の最中の明るさ」を用いて、これまで観測的制約が困難とされてきた大気上層ヘイズの物理的性質について新たな示唆を得るという研究について、すばる望遠鏡への観測提案から観測実施までのプロセス、観測手法の特徴などを交えて紹介する。


巨大氷衛星の原始大気の構造解析

2015/06/18(木) 13:00--15:00 三上 峻

巨大氷衛星はサイズや密度が似ているにも関わらず,それぞれ表層環境が異なる.特に,土星の衛星タイタンは木星のガニメデ・カリストとは異なり,非常に厚い大気を持つことが知られており,その起源については未解決の問題である.本研究では,周惑星ガス円盤内で集積する巨大氷衛星の原始大気の構造を数値的に求めその構造解析を行った.また,周惑星ガス円盤散逸時の原始大気の振る舞いについても議論する予定である.


蒸発と凝縮による太陽系物質の化学進化の実験的研究

2015/06/25(木) 13:00--15:00 中埜 夕希

惑星の主要構成要素としてコンドライトが考えられてきた。今実験で蒸発と凝縮の化学分別を同時に明らかにすることで、コンドライトの主要構成要素であるchondrule and matrixは想定される蒸発と凝縮プロセスとガス/ダスト分離プロセスで生成可能であることが示された。近年理論的に原始惑星系円盤で発生が予測されるvortexについてどの様な物理化学プロセスが生じるか考察し、コンドライトの組織、化学・同位体組成とconsistentな新しい惑星形成モデルを考えた。このモデルは、コンドライトは惑星のほんの一片で、惑星バルクと異なる可能性を示唆する。モデル、実験データとコンドライト化学組成データを組み合わせて、vortex内の物理・化学環境を考察、その結果を示す。


原始惑星系円盤の物理・化学進化

2015/07/23(木) 13:00--15:00 鶴巻 亮一

標準の星形成理論によれば, 小質量星系は前主系列段階の若い星とそれを取り囲む周星円盤を経験する.このガスと細粒のダスト粒子からなる周星円盤 は原始惑星系円盤と呼ばれ, 惑星を形成する場であると考えられていることから, 特別に注意が支払われてきた.温度・密度構造を持つ円盤状星雲の中では, その領域に特有の物理・化学プロセスが作動する.その中の一つが円盤内側で生ずるダストの蒸発と凝縮である.ダストを構成する様々の鉱物は固有の蒸発 (凝縮) 温度を持ち, その蒸発温度に応じた領域で蒸発が引き起こされる.一方, 蒸発と逆の反応である凝縮プロセスもそれと同時に起こっているはずである.原始惑星系円盤では, ガスとダストは相互に関連し合っているが, その運動は独立している.その結果として, 円盤内では物理・化学分別を受けて, ダストから集積した微惑星の物理的・化学的性質が変化し, そしてその痕跡が様々の特性を持つ惑星へと受け継がれたかもしれない.本発表では, 標準の原始惑星系円盤における蒸発・凝縮を伴うガスとダストの時間進化とそれに伴う組成的変化についての preliminary results を紹介する.


火星衛星の軌道滞在年代の制約の可能性 ―起源論のレビューと今後の展望

2015/09/03(木) 13:00--14:00 松岡 亮

火星の衛星,フォボス及びダイモスの起源には,大きく分けて「捕獲説」と「その場形成説」の二つの説があり,未解決問題となっている.また,火星の衛星は,炭素質小惑星との類似性が反射スペクトルの観点から指摘されており,太陽系初期の有機物環境を,熱変成を受けずに保存している可能性がある天体としても注目されている.本発表では,火星の衛星の起源論のレビューを行い,その現状と課題を概観する.また,卒業研究の展望についても述べる予定である.


67P/Churyumov-Gerasimenko surface properties as derived from CIVA panoramic images

2015/09/03(木) 14:00--15:00 小池 史修


水星表面の揮発性元素の起源 - 彗星炭素による水星表面の暗化のレビュー -

2015/09/10(木) 10:00--11:00 伊藤 健吾

水星は他の惑星と比べて低いアルベドを有している.一般に,月や小天体における暗化は,FeOの存在量の大小(鉱物種の影響)と宇宙風化によって生成される微小鉄の存在量の大小(熟成度)に依存する.しかしながら,MESSENGERの観測によると,水星表面には実際に観測されるアルベドを説明するだけの鉄が検出されていない.本論文では水星の暗化機構を彗星起源の微隕石の衝突であるとしてその妥当性を述べている.本論文での結果を基にして卒業論文では水星表面での揮発性元素の起源について考えていきたい.


宇宙ダストの光スペクトルの理論的解析

2015/09/10(木) 11:00--12:00 伊藤 輝

原始太陽系星雲内縁部では、固体微粒子は原始星の光を直接受け高温に加熱され、絶え間なく衝突してくる星雲ガスを加熱する重要な熱源となりうる。 したがって、ダストの光吸収は星雲の温度を決定する上で重要な要素である。  本卒論研究では次を目標とする。 (1) ダストの反射率を実験的に測定する。 (2) 反射率から屈折率を理論的手法で計算する。 (3) 屈折率から吸収係数と散乱係数を理論的手法で計算する。 今回の中間発表では、反射率から屈折率を計算する理論的手法を学習したので発表する。

後期


地球大気からの水の鉛直輸送と散逸

2015/10/09(金) 10:00--12:00 多田 直洋

Hunten and Strobel (1973) では現在の地球大気における水蒸気の光分解を主とした水素成分の化学反応, 並びに水素成分の拡散による鉛直輸送の数値計算がなされた.この結果から現在の地球大気からの水の散逸は成層圏における水蒸気混合比に比例した拡散流束により律速されている事が示された.今回は Hunten and Strobel (1973) のレビュー, 並びに再現計算の途中経過についての報告を行う. その上でモデルの見直し, 拡張に役立てていきたい.


放射モデルを用いた木星対流圏の放射加熱/冷却率プロファイル解析

2015/12/09(水) 13:00--15:00 高橋 康人

木星をはじめとした巨大ガス惑星の大気は,地球とは大きく異なる特徴を持つことが知られている.本研究では,そのような大気システムがどのように形成・維持されているかを,放射加熱/冷却率プロファイルの数値モデリングを通じて理解することを目的としている.本発表では,放射加熱/冷却率プロファイルの重要性や先行研究から明らかになった課題を踏まえ,これまでに得られた同プロファイルの特徴や性質についての結果と考察を示す.また,非灰色大気放射モデルにおいて最も重要である吸収係数の扱いについての検討結果を示す.


地球大気における水の鉛直輸送と散逸

2015/12/16(水) 13:00--15:00 多田 直洋

現在の地球大気において水の散逸は光分解による水素の生成, 拡散による鉛直輸送, 外気圏界面での散逸といった過程によってなされている. 水の散逸の律速過程は水素混合比に比例した流束を持つ等質圏界面での拡散によって律速されており, また成層圏での水蒸気の拡散流束と等質圏界面での水素の拡散流束が等価であることが Hunten (1973), Hunten and Strobel (1973) で示された.成層圏での水蒸気の混合比に比例した拡散流束は地球型惑星における海洋の時定数を求める際に使われているが, 地球と異なる大気状態でこの流束が成り立つかは調べられていない. 今回は Hunten and Strobel (1973) の大気上層での水素の鉛直輸送と化学過程のモデルを拡張し, 現在の地球と異なる大気状態において,拡散フラックスがどのように変化するか計算を行い, その結果について議論することとする.


水星表面における炭素の存在可能性に関する考察

2016/01/13(水) 13:00--14:00 伊藤 健吾

水星表面は月と比較して暗い.その一方で,探査機 MESSENGER の観測結果からは,地球型惑星における主要な暗化物質に含まれる元素であるFeとTiの存在量が低いことが示された.この相反する観測結果に対して,炭素の影響を示唆する論文が提出されている.今回の発表では,そのような論文の一つであるVander Kaaden and McCubbin.(2015) のレビューを行い,水星表面に炭素が存在する可能性について考察を行いたい.


彗星の性質と起源

2016/01/13(水) 14:00--15:00 小池 史修

ESA の探査機 Rosetta およ び彗星 67P/Churyumov-Gerasimenko 上への着陸に成功した着陸船 Philae は, 彗星の特徴について直接その場での観察を成し遂げた.彗星は太陽系の起源から残るほとんど変わっていない天体である可能性があるため,地球に おける水や有機化合物,生命の起源の手掛かりとなり得る.本発表では化学的な性質に着 目した Rosetta による測定の結果とその考察の報告を行う予定である.


2016/01/20(水) 13:00--14:00 伊藤 輝

原始太陽系星雲内縁部では,固体微粒子は原始星の光を 直接受け高温に加熱され,絶え間なく衝突してくる星雲ガスを加 熱する重要な熱源となりうる.したがって,ダストの光吸収は星 雲の温度を決定する上で重要な要素である. 卒論研究では次を目標とする. (1) ダストの反射率を実験的に測定する (2) 反射率から屈折率を理論的手法で計算する (3) 屈折率から吸収係数と散乱係数を理論的手法で計算する 今回は反射率から屈折率を理論的手法で計算する方法を紹介する.


2016/01/22(金) 10:30--11:30 松岡 亮


2016/01/27(金) 13:00--14:00 川原 健史

木星型惑星表層の風の場は表面の東西縞状パターンに対応して風向が東西方向に交互に入れ替わる帯状構造を成している.その分布は, 赤道周辺で強い西風であり, 高緯度ほど風速の振幅が弱くなっている.このような風速分布の成因を解明するため,Scott and Polvani (2008) は回転球面浅水モデルを用いた強制乱流問題を数値的に解き,ニュートン冷却が主な消散過程として働く場合において木星型惑星と同じような赤道西風ジェットと高緯度の帯状風速分布が生成されることを示した. また,Saito and Ishioka (2015) は, 回転球面上の浅水系の固有モードの一つであるロスビー波モードの歪みにより運動量が赤道に輸送され赤道西風ジェットが形成されることを示した.しかしながら, 変形半径やニュートン冷却といった惑星大気のパラメータに対する風速分布の依存性については調べられていない.そこで本論文では, 回転球面浅水系での強制乱流問題により生成される帯状東西風の風速分布の惑星大気パラメータへの依存性を調べた.変形半径 $L_D$ とニュートン冷却の時定数パラメータ $\tau_{rad}$ をそれぞれ変化させて統計的平衡状態に達するまで時間積分を行なった.その結果, 風速分布は$\tau_{rad}L_D^2$ の値によってほぼ決定し,赤道西風ジェットの幅, 振幅, 中高緯度の帯の幅がそれぞれ $\tau_{rad}L_D^2$の 0.25 乗, 0.22 乗, 0.25 乗に比例することを見いだした.さらに, 赤道から高緯度に伝搬するロスビー波によって西向き運動量が輸送されることで赤道西風ジェットが形成されるという仮説に基づいて赤道西風ジェットの幅を見積もったところ,$\tau_{rad}L_D^2$ の 0.25 乗に比例することを説明できた.以上の結果を踏まえて, 実際の木星型惑星である木星・土星の風速分布を吟味したところ, 本実験中で見いだされた赤道西風ジェットの幅と振幅との関係と整合的であることが確認された.このことは, 木星型惑星表層の風速分布の形成を,回転球面上の浅水系における強制乱流の力学的性質により説明できる可能性があることを示唆する.


2016/01/27(金) 14:00--15:00 村橋 究理基

火星大気中にはダストが存在し, 対流や熱循環の構造に影響を与えている. 火星ダスト巻き上げの原因として, ダストデビルなどの風による地表面への応力が重要であると考えられており,その過程の解明を目指して, 数値計算を用いたシミュレーション実験が行われている.本研究では, 火星大気対流層を数値シミュレーションを用いて表現する際に, 乱流モデル内における混合長の取り扱い方によって計算結果に与える影響を調べた. その結果,温度分布, 乱流層の厚さ, 風速に現れた違いについて示す.


2016/02/10(水) 13:00--15:00 成田 一輝

GJ667Cc は M 型星を周回する地球型惑星であり,生命を保有できる表層環境をもつ可能性があると考えられている惑星の一つである.GJ667Cc のとり得る気候状態を推定するため,Anglada-Escude et al., 2013 の観測データをもとに,大気大循環モデル DCPAM5 (高橋他,2013)を用いてシミュレーションを行った.また,比較のために地球を模した設定での計算も行った.その結果をもとにした考察により,気温や降水量の全球平均値が低いにもかかわらず,GJ667Cc の単位面積当たりの風化率は地球と同程度であると見積もられた.また,Kite et al., 2009 から GJ667Cc の脱ガス率を推定し,大気 CO2 量の変遷を大まかに推測した.さらに,同期回転惑星で起こり得る夜半球への水の局在化に要する時間を GJ667Cc の場合について求めたところ,GJ667Cc が地球における量に相当する表層 H2O を持つ場合には,大陸移動や氷床流動のタイムスケールとの比較から,一部の H2O は凍らずに昼半球に維持される可能性があることが示唆された.今後はこれらの結果を組み合わせることで,生命保有可能性のある同期回転惑星の気候や表層環境に制約を与えることを目指す.


2016/03/24(木) 13:00--15:00 渡辺 健介

GJ 1214b は観測された惑星密度(Charbonneau et al., 2009)や現在の表層環境の観測(Kreidberg et al., 2014)から初期に海王星のように水素が豊富に存在し,今日までに近接した恒星のEUV 放射による流体力学的散逸で水素大気の大部分を失ったと考えられている.近年この散逸の数値計算を行った研究(Lammer et al., 2013) があるが,散逸率がエネルギー律速値よりも著しく低いという問題がある.そこで本研究では修正したKuramoto et al., 2013 を系外惑星大気に適応し,Lammer et al., 2013 とほぼ同様の条件を与えた所,数倍の散逸率が得られた.また得られた散逸率からGJ 1214b の初期質量を見積もると,惑星形成初期は海王星に似た水素に富んだ大気を保持していた可能性がある.本発表では,学会で発表した内容をもとにより詳細な議論を行う予定である.


2016/03/30(水) 13:00--15:00 齊藤 大晶

最新の火星隕石の分析結果から, 初期の火星マントルは大量の水 (濃度~300ppm)を保有していた可能性が示唆されている (e.g. McCubbin et al., 2012).火星ではプレートテクトニクスは起きなかったと考えられているため, 内部の水は集積中にもたらされた可能性が高い. 集積中に大量の水を内部に取り込む機構の一つとして, 集積エネルギーや原始大気の保温効果によって形成する大規模なマグマオーシャンよる水の吸収が挙げられる. しかしながら集積中にそのようなマグマオーシャンがどう形成されうるのかは, これまでのところよくわかっていない.我々はこれまでに原始火星上に形成される可能性の高い混成型原始大気の熱的構造を調べてきた. その結果, 隕石年代学から示唆される集積時間で火星が形成した場合, 火星大気はマグマオーシャンを形成し得るほど, 高温高圧 (> 数100bar,> 2000K) になりうることがわかった (Saito and Kuramoto, submitted).前にも述べたが, 一般にマグマに水は溶解しやすいことが知られている.しかしながらこれまでの我々の研究ではその効果を考慮にいれてこなかった.そこで本研究では, 水蒸気がマグマに分配される効果を考慮にいれたモデルを再構築し, 内部にどのくらいの水が分配され得るのかを調べている,本発表では, その最新の結果を紹介する予定である.


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作成: 2014/05/15 渡辺 健介
更新: 2015/05/20 成田 一輝