各発表の要旨置き場。
巨大氷衛星はそれぞれ,サイズや密度が似ているにも関わらず,大気や内部の分化構造に大きな差異があることが観測などから示唆されている.しかし,このような差異がどのようにして生まれたかについては未解決の問題であり,これは巨大氷衛星の集積期の熱史に関して不明な点が多いことに起因する.本研究ではそのような問題を解決するために,巨大氷衛星が周惑星円盤内で集積する際に獲得する原始大気の効果(保温効果,組成)の熱史への影響に着目し,その構造を数値的に解析した.これまでの計算手法では,原始大気中のH2O やNH3 は蒸気圧に従うと仮定してきたが,NH3 の水への溶解が考慮されておらず,NH3 の分圧をoverestimate していることがわかった.そこで,溶液を考慮した原始大気の構造解析を行い,原始大気の効果について再度検討した.本発表では,NH3 の溶解が原始大気の構造やその熱史にどのような影響を与えるかについてのpreliminary な結果と考察を示す.
火星や金星は無磁場天体であり、太陽風が電離層に直接相互作用する。その際、惑星半径スケールの高度の高層大気と太陽風イオンが電荷交換反応を起こし、X線が生じる。このX線の強度は太陽風イオンの速度や密度、高層大気の密度などに依存しており、電荷交換反応によるX線を解析することで、高い高度の大気密度や流出率などの大気の情報が得られることが期待される。本研究ではX線望遠鏡の中で角分解能が良いChandra衛星の火星と金星の観測データを用いて電荷交換反応によるX線を解析することで、惑星半径スケールの大気密度分布と大気流出率を制約することを目的とした。また、金星のX線放射の年変動や火星と金星の放射の違いを見ることで、太陽風や惑星の重力がX線放射に与える影響を考察した。
惑星大気システムを理解する上で、放射と対流によるエネルギー輸送過程についての考察は不可欠である。木星大気研究においては、リモートセンシング等による放射観測に基づいて大気構造が推定される一方で、推定された構造を実現するような物理過程の理解はほとんど進んでいない。そこで本研究では、近年の木星雲対流シミュレーション結果を導入した放射伝達モデル計算をおこなう。その結果に基づき、大気中での放射エネルギー輸送および大気外への放射の射出が、対流の効果によってどのように変化するのかを、実際の観測データとの比較から考察する。
火星ではダストが大気熱構造に影響を与えており, 各研究グループはダスト循環を GCM を用いて計算しようと試みている. その結果, ダストデビルによる巻上げが背景場のダストを維持していると推定される一方で, ダストデビルによる巻き上げと大気場がどのような関係にあるかについては詳細な議論はされていない.それに対して我々が開発している GCM である DCPAM にはダスト循環過程スキームは実装されていない.そこで本研究では, DCPAM へダスト巻き上げスキームを実装し, ダストデビルによる巻き上げと大気場がどのような関係にあるか, 二つの単純な地形を用いて実験を行い考察する.
火星大気中のダストは火星大気の循環に大きな影響を及ぼすが,大気中のダストの量を維持するためにはダストデビルが不可欠であると推定されている. Nishizawa et al.(2016) では高解像度 LES により得られるダストデビルの統計値からダストデビルの諸要素の度数分布を調べることで, ダストデビルの構造や分布が示された. そこで本発表では Nishizawa et al.(2016) のレビューを行い, 提示されたダストデビルの構造や分布について考察する.
火星大気中のダストは火星大気の循環に大きな影響を及ぼすが,惑星大気の組成や量を決めるプロセスの一つである大気散逸の中でも,流体力学的散逸は惑星の初期大気に存在していた水素を大量に散逸させたと考えられている.その散逸は初期地球の生命前駆物質の合成に適した表層環境がどれほど継続していたのか,初期金星に多く存在していたと考えられている水分子中の酸素原子の行方はどこいったのかなどの問題を考える上で重要だと考えられる.また,系外惑星では流体力学的散逸と思われる水素の流出が観測されている(例えば, Vidal-Madjar+2003) ため,このような系に流体力学大気散逸の数値モデルを適用することはこの散逸プロセスを解明するチャンスである.さらにそのモデルをハビタブルプラネットに適用させることで,現在のその惑星の表層環境を推定,議論できると考えられる.本発表では,今後の研究についての目的やそれに関した先行研究の紹介を行う.
近年、系外惑星が続々と発見され、それらの多くが、恒星の近くを公転する惑星となっている。こうした系外惑星の中には、低質量星のハビタブルゾーン内に位置する、地球に近いサイズのものも含まれている。これまで、そのような惑星は同期回転をしているものと考えられてきた。こういった惑星は、必ずしも液体の水が安定とは言えない表層環境を持つ可能性がある。しかし最近、Leconte et al. (2015)により、主星に近接した惑星であっても非同期回転を起こす可能性が理論的に示された。この結果は、低質量星のハビタブルゾーンに位置する地球型惑星では、従来の想定よりも液体の水が安定に存在し易いことを示唆する。この発表では、この新しい理論の重要性、基本的な考え方、そして定式化について解説する。