======================================================================= _/_/_/_/ _/ _/ _/ _/ _/ _/_/_/_/ _/_/ _/ _/ _/ _/ _/_/ _/ _/ _/ _/ _/ _/_/_/ _/_/_/_/ _/ _/ _/ _/ _/_/_/_/ _/_/_/_/ _/ _/ _/ _/ _/ _/_/ _/ _/ _/ _/ _/_/_/_/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/ _/   ======================================================================= 森羅万象セミナー 第 14 回 時・場所:7/1 (木) 18:00より 低温研 2F 講義室 講演 : 北澤幸人 (宇宙科学研究所/茨木大 研究員) 『シリカエアロジェルへの宇宙ダストの超高速度衝突に関する実験的研究』 宇宙空間のミクロン〜ミリサイズの固体粒子(いわゆる「ダスト」)には、天然物で ある「メテオロイド」と人工物である「スペース・デブリ」がある。「メテオロイド 」は彗星や小惑星から供給される物質と考えられており、その計測により惑星系の進 化についての情報を得ることができる。一方、人工物である「スペース・デブリ」は ペイロードの破片やロケットモーターの排出物などであり、ダストサイズのデブリの 存在量や物質分布などについては不明確な点が多い。これらのダストの存在量の調査 や物質科学的研究などを行うため、宇宙空間でダストを捕獲し地上へ持ち帰るための 「ダストコレクタ」が回収型宇宙機(ジェミニ、スペースシャトルなど)やミール宇 宙ステーションなどに搭載されてきている。特に1980年代以降、低密度な物質をダス ト捕獲材に用いてダストの衝突エネルギを緩和し、ダストを可能な限り非破壊で捕獲 するコレクタが主流となっている。 ダスト捕獲材用の低密度物質として、近年、シリカエアロジェルが注目されている。 シリカエアロジェルを用いたダストコレクタは、ダストを非破壊捕獲するために有効 であるだけでなく、ダスト衝突の際にコレクタに生じる衝突孔の形状などから、捕獲 したダストの衝突パラメータ(ダストの衝突速度、質量、到来方向)を推定できる可 能性がある。だだし、衝突パラメータの推定を可能にするためには、衝突パラメータ と衝突孔の形状との相関々係を把握する研究が必要である。そこで、本研究では、ダ ストを模擬したプロジェクタイルを超高速度でエアロジェルに衝突させ、ダスト捕獲 性能を実験的に研究するとともに、衝突孔の形状と衝突パラメータとの相関を研究す ることとした。特に本研究では、これまで実験されたことがない広範囲の速度域(衝 突速度:1-14km/sec)の実験を行い、衝突孔形状の速度依存性に着目することとした 。 ダストを模擬するプロジェクタイルのうち、アルミナは微小デブリの主要構成物であ る固体ロケットモータの排出物を模擬し、オリビンは石質メテオロイドを模擬する。 また、ガラスは他の多くの実験と比較可能なため採用した。プロジェクタイルの粒径 は、0.01mm〜0.04mmで、衝突速度については、デブリの宇宙ステーションに対する平 均衝突速度(約10km/s)、およびこれまでに計画された彗星ダストのサンプルリタ ーンミッションにおける衝突速度範囲(6〜10km/sec)をカバーできるよう、最高速 度を14km/sに設定した。中〜高速域(3〜14km/s)の実験にはプラズマガン、低〜中 速域(1〜5km/s)には2段式軽ガス銃、低速域(1〜2km/s)にはET (Electro-Thermal)ガンを用いた。超高速度衝突実験の結果、149個の衝突データを取 得した。主要な結論は次の通りである。 1.シリカエアロジェル(密度:0.03g/cm3)を用いたダストコレクタにより、衝突 速度約6km/secまでプロジェクタイルをほぼ非破壊で捕獲でき、最高12km/s程度まで のプロジェクタイルの捕獲が可能である。但し、衝突速度が3km/sを超えると、プロ ジェクタイルを捕獲できない場合がみられ、10km/s以上では多くのプロジェクタイル が捕獲できなかった。衝突速度が3km/sを超えると、プロジェクタイル(Al2O3)が受 ける衝撃圧は Al2O3の引っ張り強度を超え、10km/s以上となると、衝撃圧は圧縮強度 をも超える。そのため、プロジェクタイルが破壊される場合があると考えられる。 2.捕獲されたプロジェクタイルは、衝突前と比較して化学組成に変化はみられない が、溶融したエアロジェルによって表面が覆われる場合がみられる。また、光学顕微 鏡を用いての観察では衝突孔の中にプロジェクタイルが確認できない場合でも、EDX により衝突孔の壁面からプロジェクタイルの成分が検出可能な場合がある。 3.エアロジェルに生じた衝突孔の形状と、衝突パラメータ(速度、粒径など)との 間には緩い相関がみられた。衝突孔の正規化深さ(T/Dp [T:孔の深さ、Dp:プロジ ェクタイルの径])と孔の形状の特徴はプロジェクタイルの衝突速度と対応し、衝突 孔の径( Dent :入り口径、 Dmax :最大径)はプロジェクタイルの径(Dp)と相関 する。そして孔の体積はプロジェクタイルの衝突エネルギー(運動エネルギー)と相 関する。これらの相関は、ダストコレクタの宇宙飛翔後の回収後検査において、衝突 孔の形状の計測から、コレクタに衝突したダストの衝突パラメータを推定することが 可能であることを示唆している。 4.流星の運動理論を基にした簡易解析法は、衝突孔の深さや捕獲粒子径の衝突速度 に対する変化を良く説明する。この簡易解析法は、プロジェクタイルがエアロジェル の中を貫通する際に、ダイナミックなドラッグと熱的なアブレーションを被ると仮定 したものである。 第 15 回以降の予定 7/X 石渡正樹 (地球環境 助手) 『太陽定数増大に対する地球大気応答数値実験』 渡部重十 (地惑 教授) 『近未来の惑星大気探査 (仮題)』 見延 庄士郎 (地惑 助教授) 『北太平洋大気・海洋の数十年変動 −大気海洋結合システムはワルツを踊るか?−』 話題希望要望サポーター、大募集中です ※諸事情により、変更や追加のある場合があります。 --- セミナー幹事:倉本 圭(Kuramoto Kiyoshi)      北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻 助手      Room:理学部3号館307号室 (部屋変わりました)      Phone: 011-706-3567, Fax: 011-746-2715 E-mail: keikei@neko.lowtem.hokudai.ac.jp