$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$ 森羅万象セミナー 第 24 回 $$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$ 時・場所:11月30日 (火) 14:45~16:45 理5号館低層棟大講義室(階段教室) 講演: 巽 好幸(東大海洋研教授 兼 京都大学教授) 末廣 潔(海洋科学技術センター深海研究部長 前東大教授) 徐 垣(海洋科学技術センター深海研究部長 前九大助教授) 『新しい地球・生命科学の創成-OD21の科学計画と研究体制-』 「深海地球ドリリング計画(OD21)」は、世界最高の科学掘削能力を持つ「地球深部 探査船」から得られるデータを利用して気候変動や地震などの地球変動メカニズムの 解明、未知の地下生命圏やガス・ハイドレートの探索などを行い、新しい地球・生命 科学の創成とその統合的な理解を目指しています。 本計画は2003年以降、現行のODPの後継計画と統合し、IODPと呼ばれる国際プログラ ムに発展していきます。これは日本が主導的な役割を果たすユニークな国際科学プロ ジェクトであり、日本が研究成果の面で世界をリードしていくためには、斬新な科学 計画と新しい研究体制の構築が必要とされています。 新しい「地球深部探査船」はライザー掘削と呼ばれる手法の導入により、これまでの 科学掘削では不可能だった悪条件下での大深度掘削が可能となります。人類未踏の海 底深部から良好な状態で回収されるコアサンプルや、長期孔内計測によって得られる 高品質のデータは多分野の科学者に提供されます。それぞれの科学者は異分野の科学 者と連携し、地球環境変動、地震、生命の起源といった人類の課題に挑戦していきま す。(科学計画の詳細については下記参照) また、OD21では幅広い研究者の創造性を生かせるような研究体制の構築を目指してい ます。プロジェクト推進の中核となる研究拠点と、多様な発想で掘削試料や計測デー タから研究成果を生み出す多数の分散した小規模な研究グループとが連携し、相互に 牽引しあう新しい研究体制の検討を行っています。 今回のプレゼンテーションでは、OD21が挑戦する科学計画とOD21が指向している研究 体制について紹介します。 なお、OD21の詳細については、海洋科学技術センターのホームページをご覧下さい。 (http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/OD21/) (OD21の科学計画) ・地球環境変動 地球は約2.5億年の間隔を置いて大陸氷河が発達する大氷河時代に遭遇してきました。 現在はその最近の大氷河時代の真只中にあり、第四紀という地質年代がほぼこれに相 当する期間と推定されています。第四紀の大氷河時代の中でも、気候がより寒冷化し た氷期と気候が温暖化した間氷期が、数万年程度の間隔をもって繰り返されてきまし た。現在は最終氷期の後の一種の間氷期である後氷期の只中に位置しています。人類 の祖先並びに人類は、この第四紀大氷河時代を耐えて生きてきました。この大氷河時 代の成因については数多くの説がありますが、未だ統一的な見解までには達していま せん。深海掘削は、この点について、多くの疑問を解くものと期待されます。第四紀 大氷河時代の成因を明らかにすることは、人類の将来の生存と深く関連する重要な事 項なのです。 この気候システムのカオス的な性質を理解するには、急速な環境変動や海水準変動ま でを復元する必要があり、それには植物プランクトンなど生物起源物質や河川から流 入した陸起源物質が活発に堆積してできた厚い堆積層を掘削する必要があります。 その他、小天体衝突の地球環境への影響の解明や地球環境変動に伴う生物の絶滅、回 復、進化過程の解明にも深海掘削の成果が期待されています。 ・地下生物圏 地殻内の生物圏は地上の全バイオマスよりも多いかもしれないとの指摘もあり、その 地殻内への広がりと微生物相、さらに、地球化学的プロセスにどのように関係し、地 球環境に影響を及ぼしているかについて注目を集めています。また、最近、陸上の代 表的な微生物である大腸菌が圧力に応答する遺伝子を持っていることが発見されてい ることから、深海微生物や地殻内微生物の進化上の位置付けについても大きな関心が 寄せられています。 これまでに、熱水噴出口付近で採取された好熱菌の中に、その深度よりも高い圧力で 最も増殖するものが見つかっていることから、熱水が循環する地殻内に微生物コロニー が存在する可能性が推察されています。また、深海からメタンを栄養としたり、有機 溶媒に耐性を持つ微生物が豊富に見つかっており、炭化水素の存在域との関連が注目 されるとともに、バイオテクノロジーへの応用が期待されています。 ・地震発生帯 プレートの沈み込みによって形成される付加体内の不連続面やプレート滑り面での水 の挙動は地震などを引き起こす急激な地殻変動プロセスに大きく係っていると考えら れます。ライザー掘削による大深度掘削により、地震の巣でもあるこれら地殻深部で 流動する水の挙動を調べたり、孔内に歪み計を設置することによって、地殻深部の応 力状態を詳しく知ることができます。 また、ライザー掘削による掘削孔は崩壊の心配がないことから、日本がリーダーシッ プを担っている孔内計測をさらに発展させることが期待されます。雑音が少ない掘削 孔に観測機器を堅固に設置できることにより、地殻深部において高精度の観測を長期 にわたって続けることができます。 ・ガスハイドレート ガスハイドレートは二酸化炭素の排出量が少ないエネルギー資源として期待されてい ます。しかし、他方、ガスハイドレートを含む地層は不安定なため、大陸斜面の大規 模な崩壊による津波発生、または大気中への大量な温室効果ガス放出の原因となる可 能性もあり、その生成メカニズム、安定性、崩壊による環境への影響などを解明する ことは、極めて重要かつ緊急な課題といえます。 ガスハイドレートの存在する地層では、掘削時に孔内環境をコントロールすることが 要求され、これに対処するためライザー掘削が望まれます。 ・地球深部ダイナミクス 長期的にはマントルとの境界であるモホロビッチ不連続面(モホ面)までの距離が最 も小さい海洋性地殻を掘り抜き、人類未踏のマントルに到達することが期待されます。 これまではマントルが激しい変成を受けて地上に露出した蛇紋岩やカンラン岩によっ てその性質が推定されているに過ぎません。そのマントルまでの連続したコアを回収 することによって、大きな謎であるプレート運動の駆動力の解明など、画期的な成果 が期待されます。 スーパープルームの上昇はプレート運動にも大きな影響を与えたと考えられ、巨大火 成岩区を掘り抜いてその活動史を明らかにすることによって、白亜紀の環境の激変を より詳細に解明できることが期待されます。 プレートの拡大軸では、海洋性地殻から染み込んだ海水がマグマにより加熱されて熱 水噴出する際に、海洋と地球内部との間の熱・物質交換に大きな役割を果たしていま す。この海洋性地殻内の水の挙動や地化学プロセスについても、より深部まで解明す ることができます。 世話役:岡田尚武 第 25 回以降の予定 日未定:森田英章 (数学 DX) 『無限可積分系、特にある種のソリトン方程式の話』 日未定:渡部重十 (地惑 教授) 『近未来の惑星大気探査 (仮題)』 1/12 佐藤博明 (神戸大) 『富士火山864年/1707年噴火の噴火様式と岩石組織』 ※諸事情により、変更や追加のある場合があります。 ※話題希望要望サポーター、大募集中です --- セミナー幹事:倉本 圭(Kuramoto Kiyoshi) 北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻 助手 Room:理学部3号館307号室 Phone: 011-706-3567, Fax: 011-746-2715 E-mail: keikei@ep.sci.hokudai.ac.jp