$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$ 森羅万象セミナー 第 50 回 http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~sinra/ $$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$ 日時 2001 年 3 月 30 日 (金) 13:00 〜 14:30 場所 理学 5 号館 Rm 201 川崎一朗 (富山大学理学部) 演題1 『サイレント地震と準備過程』  演題2 『千島海溝における地震モーメント解放の 時空間分布とプレート境界特異地震』 演題1【サイレント地震と準備過程】 ● はじめに  地震の発生過程を解明するために,室内実験,数値シミュレーション,地殻変 動観測,データ解析などの研究が進められてきた.Ohnaka and Shen(1999) は, 始めて圧縮力下でのすべり実験を成功させ,ひとたび震源核の成長がはじまる と,摩擦則に従う3段階の道筋をたどることを明確にした.(段階1)準静的安 定フェイズ(時定数?年.ただし,実験室の時定数を現実のものに焼き直してあ る),(段階2)加速フェイズ(?年?日?時?分),(段階3)動的破壊(?分? 秒).(段階2)と(段階3)の境界を臨界フェイズと言う.この考えによれ ば,もしプレート境界面の摩擦特性がすべて分かれば,準備過程から直前過程に 至るプロセスはすべて予測できることになる.しかしながら,(段階2)の加速 フェイズは,サイズは小さく,比較的摩擦則に従う一定の成長過程をたどると思 われるが,プレート境界面の摩擦特性がほとんど分かっていないことを前提とす れば,(段階3)の動的破壊はストカスティックな破壊過程と扱わざるをえず, 地震波の初期フェイズなどから最終サイズを予測するのは困難であろう.むし ろ,臨界フェイズのサイズの方が意味の明確な物差しになるであろう. ● 残された課題  多くの研究者の努力にもかかわらず残された主要な問題は,次の3点と思われ る.(未解決1) 簡明で分かりやすい,時間とサイズの予測の物差しを作ること と,(未解決2) 現実の震源核を見いだして見せること,(未解決3) 地球電磁気 学や地球化学を取り入れること. ● サイレント地震 (未解決2)に対する答えか?  残念ながら,現実に起こったM8クラスの大地震の震源核の確実な発見例はな い.しかし,サイレント地震は震源核(段階2の加速フェイズ)が途中で死んだ ものという考えが出されている.日本周辺では,1989年東京湾サイレント地震 (Hirose et al., 2000),1996年房総半島サイレント地震(鷺谷,私信), 1997年豊後水道サイレント地震(Hirose et al., 1999),1999年銚子沖サイレ ント地震(原田・他, 2000)などが発見された.等価マグニチュードは5.6? 6.6,時定数は「日」?「年」である.サンアンドレアス断層でも,M5クラス のサイレント地震が見いだされた(Linde et al., 1996). ● 予測の戦術 (未解決1)に対する答えか?  川崎(2000) は,Ohnaka and Shen(1999)が導いた拡大速度とサイズの間にべき 乗則をモーメントに関する常微分方程式に転換し,それを解いて,発生時刻とサ イズを予測する戦術を提案した.このモデル化によると,観測地殻変動波形から サイレント地震が震源核として解釈可能である.また,M8クラスの地震は何年 も前から準備されており,数日前にM6クラスのサイズになり,急加速されて臨 界フェイズに至る.M8クラスの地震の震源核のサイズは,数ヶ年前にはMw4 から5,数ヶ月はMw5程度となる.  とはいえ,M6程度のサイズの震源核が弾性的に生み出す歪と応力は 10E?9 と MPaのオーダーに過ぎない.震源核が,数ヶ月や数年のオーダーの検知可能な レベルの前兆を直接引き起こすとは考えにくい. ● 今後の課題  川崎(2000)のモデルは極端に単純化されたモデルである.ただ,そのようなモ デル化を試みることによって,次のように問題点が浮き彫りにされた.(課題1) 何故,途中で止まってしまうか? (課題2)セグメント・セグメント相互作用が 重要.(課題3)予知に役立たせるには断層面の精密構造は1mよりも高精度が望 まれる.(課題4)次の関東大地震を予測するには,東京湾南部周辺に府中や岩槻 クラスの深層ボアホール観測点が必要,(課題5=未解決3) 地球電磁気学や地球 化学を取り入れること.  いずれにせよ,地震の準備過程と直前過程を検出したければ,観測体制の軸足 を地震から地殻変動に移すことが肝要であろう. 演題2【千島海溝における地震モーメント解放の時空間分布とプレート境界特異地震】 ●はじめに  本研究の目的は,千島海溝からカムチャツカ海溝における地震モーメント解放 の時空間分布を求め,通常よりも時定数の長い特異地震が地震モーメント解放の 時空間の中でどの様な位置をしめているのかを検討することである. [地震モーメント解放の時空間分布]  20世紀において千島からカムチャツカにはM8クラスの巨大地震が16個発生し た.その地震モーメントの和は約650×10**20 Nmとなる.この地域に最近30年間 に発生したM4以上の地震の震央分布よりカップリング領域の幅を求め,年間9cm の太平洋プレートの沈み込み速度と,5×10**10 N/m**2 の剛性率を仮定し,こ の領域に100年間に蓄積されるプレート間モーメントを求めると約1100×10**20 Nmとなる.地震モーメント解放の時空間分布を描く事によってウルップ島沖のよ うにM8クラスの地震によってこまめにモーメントを解放しているセグメントと, シンシル島東方沖のように巨大地震が全く発生しないセグメントと,カムチャツ カ沖のように1952年カムチャツカ地震(Mw9.0)のような巨大地震が発生した後は M8クラスの地震が発生せず,静かにしているセグメントにわかれる事が分かった. ●特異地震  IRISの各観測点の上下動成分の原記録と,20秒から50秒,50秒から100秒,100 秒から200秒の3種類のバンドパスフィルターをかけた4つの波形の,群速度 2.0km/s?3.0km/sの時間範囲の波動エネルギー密度(E1)と群速度3.0km/s?4.0km/s の時間範囲の波動エネルギー密度(E2)の比(E1/E2)から時定数の長い特異地震の 検出を試みた.通常の地震と特異地震の境界は,E1/E2が原記録で70%,20秒か ら50秒の周期帯で50%,50秒から100秒の周期帯で20%,100秒から200秒の周期 帯で15%とした.100秒から200秒の周期帯でのエネルギー密度比(E1/E2)が15%を 超えるような特異地震が1977年から1998年の間に千島からカムチャツカ一帯に27 個発生した.この様な特異地震は北緯43度から北緯45度の間(国後・択捉沖) と,北緯51度から北緯55度の間(カムチャツカ沖)の深さ50km以浅の海溝寄りで 多く発生した.1992年ニカラグア地震と1994年三陸はるか沖地震など、過去の研 究から津波地震や超スロー地震として知られている地震ですら、100秒から200秒 の周期帯におけるE1/E2はそれぞれ1.4%と1.3%しかなく,今回検出した特異地震 は、1992年ニカラグア地震や1994年三陸はるか沖地震以上に時定数の長いイベン トであったと予想される. 環太平洋の沈み込み帯についても特異地震の検出を試みた.特異地震は三陸沖 やニカラグア沖など限られた場所に集中して発生しており,Hilde(1983)による 海底堆積物が多く存在する場所と良い一致が見られた.海底堆積物が海洋プレー トと一緒に沈み込む場所ではプレート間断層面の摩擦が弱まり特異地震が発生し やすくなっている可能性がある. 世話人:高波鐵夫 # 諸事情により、変更や追加のある場合があります。 # 話題希望要望サポーター、大募集中です セミナー幹事:横畠徳太