本朝二十不孝
《本朝二十不孝巻五》目録

本朝二十不孝 目録    巻五
(中略)
 無用の力自慢
  讃岐に常の身持ならバ長生の丸亀や

《本朝二十不孝巻五》

  無用の力自慢
行司唐団をかざして四本柱のうちに立ば。勧進本の大関ハ丸山仁太夫つゞきて和哥の助蔦之助。 寄関にハ扉閉右衛門関脇に塩釜白藤。左右に立わかれ前相撲はじまりて。次第に形の山高く金比羅の祭に余多の見物讃岐円座の所せきなく。 上かたの手取在郷の力業見て面白さ是ぞかし。其後ハ相撲はやりいて里の牛飼山家の柴男までも。 段子の二重廻りをかきて四十八手にほねを砕き。片輪になる事もいとハず無用の達者を好みぬ。 爰に高松の荒礒と名乗て。力ばかりを自慢して昨今取出の男丸亀やの才兵衛とて歴々の町人両替見世出し。 世間にしれたる者にハ慰ながら是ハ似合ざりきそれ人のもてあそびにハ琴碁書画の外に。茶の湯鞠楊弓謡など聞よし。 なんぞや裸身となりて五躰あぶなき勝負。さりとハ宜しからず。自今是を止て。よき友にまじハり四書の素読ならへと。 親仁分別らしき異見こんな事が耳に入れバ一両年も跡に家譲り万にかまハぬ物をと。母親ハ男勝りの智恵を出して才兵衛をひそかにまねき。 もまたそなたも十九の春なれバ。花見がてらの都にのぼり。金銀ためしハこんな為なれバ。島原に行て太夫を残らず見尽し。 大坂の芝居子に出合。其若衆気にいらバすくに身請して。三津寺新屋敷とやらに家でも買てとらせ。 心やすき立より所にせられよ。この度千両弐千両つかへバとて。跡の減内蔵でもなし。首尾ハ母にまかせよとうまい事いふて聞しても。 才兵衛一円合点せず只世中に相撲取より外に何が遊興なしと。中々やむる事にあらず。独りもひとりからとかなしく。 今ハ教訓の言葉もつきける。あまたの手代不審耳を立て。かゝる親達を持て心のまゝなる色あそびをせバ。 うきよに思ひ残す事有まじ。扨も若旦那のわる物ずきと深く悔ミぬ。其後ハ力業の異見いふ事ならずして。 いやましに肉食を好ミ筋骨たくましく成て十九の時三十ばかりに見えて。前の形ハかハり各別になり給ひぬ。 一門中内談してとかくハ縁組をとり急ぎよろしき妻あらハおのづから心ざしもなをるべしと。 相応の人の息女もらひ祝言事済て後。一度も部屋に入事なく首尾のあしきを歎き。乳まいらせて育あげたる姥に此事をいはせけれハ男ざかりに力落してハ口惜。 弓矢八幡摩利支天南無不動明王身が燃て女ハいやと云切て。あたら花をたて物にして淋しがらせ我独りねまの戸の明暮。 相撲より外に楽ミなしと。毎日執行つのりて後ハ。力あり手あり。荒礒と名乗バ尻に帆かけて迯。相手もなく四国一番の取手に成ぬ。 今ハおそらく我に立ならび手合する人もやと広言皆々悪ミし折ふし山里に夜宮相撲ありて。才兵衛罷出しに在所より強力すゝミ出て才兵衛と引組て。 何の手もなく中にさしあげ落しける程に捨舟の荒礒に埋れしごとく。大かたハ真砂に熱込骸骨くだけて漸々乗物にかき入られうき事に逢て宿に帰り。 さまさま養生する程に。果敢どらずして我と心腹たてゝすこしの事に人をあやしめけれバ。下々おそれて後ハ病家に行人なく。 勿躰なくも親達に足をさすらせ大小便とられ冥加につきし身のはて親のはちあたりと名のりける

挿図の土俵は四角なり。
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp