三千之紙屑
《三千之紙屑》

  二 帖
真乳山夕こへ来れは庵崎や隅田河原と詠めけんむかしに今は引かへて二上り潮来の文句さへほんに苦界の流れの此身すまぬ浮世に墨田川馴し廓の仮住居は山の宿から聖天町馬道今戸堀かけて建つらねたる寓宅の往来の通ひ舟茶屋の枕に仮寐して帰るふねあり行ふねは二人舟頭取付艪のキチヨキチヨは乙女か機織かと怪しまれザハリザハリの水音は麻上下の大連よりもすさましく飛白波のありさまはシヤホンの玉より細工よし灯しつれたる挑灯は秋夜の蘭灯灯九微中洲のむかしもおろか也○三人一座の座敷も床におさまれは利弁は一ツはし仕こなした気取にて座敷のうちからひとり深川てんの未至通をならべたてゝ廊下座敷の床のうへに大胡床のあげぎせるているところへ相方巻絹年は廿二三一ツたいつんとしてあるかほ人にいわれた事のねへかわり内中てもかわいがられぬふう也 ナンダヨ此子はさつきの事をわすれめへにヨ ト禿をしかりなから来るとむかふ座敷へはいりかゝる新造を呼かける コレさんやよひさん新は聞付ずにはいつてしまふすかねへ引ト ひとり小言をいひなからからかみをあけてから紙がはつたりとたをれる ヱヽモウすかねへとはつれたから紙をはめて跡を明ケかけておくはわけある事也仮宅すべていろいろのふるふすまなどをきうにみぞをつけて敷居かもいへはめるゆへいづれも此くらいな事也其家々の寮のほかは屏風がかも居よりとんだ高かつたり又らうかを通るにも屏風の内のむつ言かみへるほとひくかつたりする也是諸通子の御存じの事也ふりむきなから ヲツトしづかにしてやりね牛部屋の吹矢といふもんだ巻絹ムウトにがわらいふとんの外へたんまりてすはるきついおかてへ爰へお出なせへアイサ といつたはかりはたはこをつけてくれそふなものたと思へともそうもせぬゆへ自身すいつけにかゝる火かきへてなしなめらさんほうきへたそうたいゝ立しほとおもひ出しなんし取てきせうト手を出すもしやうちにてどつこひいまからやつてはならぬとその手をつかまへ マアいゝ田丁さ火を入るよりやおめへを入てへと床の上へ引上るヲヽいたヲヽいつそいてへヨアヽ トいたくもねへ手をむせうにさすりちらかしてむせうむせういてヱいてヱとかほを赤くして大そうらしくつんとするもなむさんしくじつたとおもへと引ぬ気て ナンダいてへいてへと爰にいるからいゝしやねへかごてへそうな引はつたとても白玉ねりの飴じやあんめへしのびもすめへおらかのびたから手出しをしたからいゝしやねへかムウそういふふうでもさんすめへもちつとむつとして長雨の雪隠しやあんめへしそんなにはねる事はねへはまきヲヤぬしやきたねへ事をいゝなんすねぬしのうちは水気とやらのある所てさんすかさぞしめつほうさんしやうネウ しみつたれといわぬ斗リにすこしあそひかけるムウ川端の仮宅たからさまきアイサぬしはよくまはる口てさんす焼のわるひ土瓶しやあんめへしといつては見たれとこいつひとりて寐るはおしいものたとふそかぢを取直してくれんとくつとおとなしい気て ソウいつてもぬしたチヤアうらやましい世界たといふはなぜゑといわせんまくらことばそれに取かへてはなそふといふはら也まきもそのくらいの事はせうちたとわざとはくらしてだまつている所へかねて相図のと見へてから紙の外からふりしん花の井モシヘおいらんまきなんさんすいふをきつかけに出て行はいまいましいせつかくやはらかに出て乗しづみやうとおもつたにとたばこをのんたり鼻をかむだり寐て見たり起て見たりあぐらをかいて見たり立ひざしたり唖のきつね付のやふになつて退屈まきれにつまつたきせるを通しかゝると足音がするゆへきうにこよりをれんじからすてれはとなり座敷へはいる出もせぬ小便にいつて見なからあくしんおこりさだめて今ころは巴丈や文かうまいさいちうならんとさらはおれひとりつまらぬめにあふもごうはらたつれの手やいへも水をさしてやらんとぶらぶら廊下をうろつくはさしきの酒にゑいきつてたわいなく寐ている相方水浜年は十八九まだ内証のせ話になり居るふういつたいあどけなくにうはなる生れてうずから外ざしきてゆつくりとはなしてきて見ても又文か寐ているふとんの上へあがり片手てうちはをつかひながら モシヘモシヘゆりおこすはウント寐がへり水はまわらいなからうちはで文がかほをあをぎなからはまモシヘぬしもいゝかげんにおよりしな宵からばからしうさんすおきかへてめをすりなから アヽ引いゝおもしれい夢を見たものをはま一ツふく吸付て出し ソレハおきのどくさんす夫ほど寐なんしてはサアまつとねなんしすいからをはたいてどふして夢の継たしかできるものかアヽ茶ても水ても一はひといふ所だはま今取よせやしやうと手をたゝくふりしんとふりかゝるはまコレさんさつきさんへぬしに茶を一くんで上ておくんなんし先生ねがわくは水にしてはまおよしなんし丁とちがつて爰の水はいつそわるふさんすよナニよしさふりしんアイトはま火入をみて ホンニ火もきへしたと又手をたゝく禿お手のなりましたはどちらて厶スト いゝなから来るかりたくのはやりうちなそはまはしかふろたつぬる也はまアレサあの子や禿アイト這入はま是への火をよく入れてくりやとそしての今さつきにたのんた水をはやくもつてきて上禿アイトあとへはふらふら 一ツ提のたはこ入ときせるをかた手にさけて片手てから紙をあけながら文さんのおやとはこゝかへへへつてもよしかねはまアトサおはいりなんしインホヤよくはねマアはいりなせへはまわらいなから アレサうそあんすおはいりなんしよすつとはいつてまくらもとにあぐらをかきふところ手て ナンダカおうらやまやましいこつたのいま二丁めにかすんだといふ御やうすたそれたから御無用といつたのさわざとしらしらしくいふはまきせるでぶつまねをして アレはからしうさんすヨ モシヘきいておくんなんしぬしは宵から寐てはかりいなんして今わつちがむりにおこしいしたのさチツト目ざとくならつしやるやうにいけんをしておくんなんしアレきゝなせへおふくろかアノとふりやかましくてなりやせんはまちよつとみやヱヽモウわつちやぬしのやうな子をもつたらさぞせわがやけいしやうと一ツふくすいつけ利弁にやるとかく朝寐をすると内の首尾甚だわるしさはまナニぬしはあさ寐しやさんせん宵寐てさんすおれはよひ寐かそつちは狐どふりてはかされたはづたはましつたかヱ引 モウモウおだまりなんしぬしはいつでも茶ばつかりいつていなんすそのはづよ千家だものをはまナントヘせんきだとかへコイツアいゝ花月がまけるの此しやれ一ツ向おちずフント わらひながら利弁さんだいぶおつかれのおすかたナニサそんなこたねへてんさしよじそれきらひ事さとうぬがつまらぬめにあつていたをさとられぬやうにいふはまたいかい知つているゆへわざと巻絹さんはどふしなんしたへ今火を入にやりやした留守をあけて来たのさも おかしく気のどくゆへに外の咄しへ時に巴丈さんはどふさつしたのソウサわつちも是から見まつて来るつもりだそんなら御同道といふ所だと立かゝるをはま引とめもしおよしなんしいま行なんしてはわるうさんすヨト 文に目でしらせぬしもマアこゝでおはなしなんしハテネわるひかそんならマア先生おめへもこゝではなしなせへもさつきからひさしく爰にいたがもしや巻きぬがあとへ来ているもしれずとまたも心のまよひゆへわが床へ帰らふとも思ひ水はまがじろじろねめてモウあつちへいけばいゝがといはぬばかりのやふすゆへ インヱもふおちも内へ引取やせうヨ ホンニ長々おじやまとやらだけネト いやみをいひながら立かゝるはまは やれうれしやもふ出てゆくかとおもひなからまだやうさんすはモウちつとはなしなせへきついせじたせといひはなしにして出てゆくはまアノ連しやはやつはりぬしのほうかへそうじやさんすめへ芝の湯しまさはまモウ又茶をいゝなんすホンニどこさんすへコウト八町堀とやらかへインニヤはまそんなら小あめ町とやらかへインニヤはまあてゝお目にかけいせうなんでもおやしきてはさんすめへインニヤはまお組の衆かへインニヤはま町かへインニヤはましばらくかんかへてそんならやつはりお方本衆のおやしきでさんせうウヽヱ引ト大きな声をする此うちしじう朝比奈の気取リてするはまおやひつくりしいしたばからしいぬしはなぜそんなにふじやれなんすヨ モウモウしづかにして寐なんし寐てもいゝ事かさつきおめへ寐るなといつたじやねへかはまアイサひとりじやなりいせんあつくとこうして寐なんしとまくらの下へ左リをさすとんだすゞしいはま小声にて ホンニぬしやこわい口だヨウ トほうへたへくひつく是から跡は作者も耳をふさいで聞ず一覧の通君子御すいもじ有べし。利弁は 文が所を追出されて巴丈か所へは水はまかゆくなといつたはなんでもむねのわるひせんぎたといぢわるく巴丈がねやをのぞかんと又らうかを行所を巻きぬがかふろがふたば利弁を見つけとつつかまへてぬしやなんさんすへさつきからさがしておりいしたサアおいらんの所へおいてなんしとひつはるも 扨はまき絹かまつているかとうれしけれど マアまて今ちよつと今染梅さんの所行てくらふたばおよしなんしおいらんかまつておいでなんすつれ申さないとしかられすはネト ひつはられるに心をなをして是から行て一ト狂言かいてやらうと心てうなつきかむろに手をひかれて来て見れはまだまき絹はいずむつとして ナンタこひ八が品玉を見るやふたふたばアレサ今までおいらんはいさつしたにぬしがあんまり長あるきをさつしやるからてさんすトいゝなしにして出て行は 万事きつかけかありやこりやになつて大きにあつくなりきたらどふいわうかあしたかへつたらおもいれわるくいつてやろうかかへりかけになんてもいたつらをしてやろふといろいろとくふうしているヤヽ時うつつてまききぬしばらくの切リ幕を出るよふに ○をぐつとふところへ入て酔きつたやふすで ヱヽ引 アヽいつそせつねへといゝながら床のうへはらばいになつて枕もとのひへきつた茶を目をねむつてのむは もつていたきせるをまくら元へほふりだしてふところ手しててへぶをゑとつて来たの夫で大島のどてらきて大盃をひつかゝへりや見世の序ひらきには出られるせへまきフンぬしやとんだ芝居通さんすちつとはなしてお聞せなんしヲキヤアがれしらきるなへ今迄あき座しきてゑいさかなの盗みくひをしてまてか海老になつたのだは生得信濃国に相違御座なく候だまきアイサ宵から連衆の所やほうほうで追出されいして蚊にくわれてまごまごらうかとんびをして子供に引はられてやうやう今きいしたのさとうりことばにかいことばナンダこけが馬のこはいろを遣ヤアしめへしひんひんする事だねへは夫よりやとてもおらがやふな関取とは取組か出来ねへから投ころされさきに立合ひをゆるしてくれろと勧進元へ詫言をいつてしまへまきナニモそんなに腹を立んす事はさんせん文さんや巴丈さんの一座のまへもさんすいふ事かあらは静においゝなんしはからしうさんすは たんたん声かたかくなつてマアあま口こうしやなことをぬかしやかるぜ一座めへよりごさのめへか聞てあきれら座敷持たの疝気持たのと高くとまつてもあたまで此利弁さんなんそに返歌をしよふと思ふがお慮外たとんなに振ヨウ付ても猿の狂言といふもんた折ふしきいろ音を出すかモウ一枚たかせたら又白状のさせよふも知てきらまきも モウやぶれかふれとよしておくんなんしわつちらがやうなものても出世をする身でさんす岡場所の女郎衆は知らず初会からあまだの石をたかせるのといわれる罪はさんせんニヘコイツア大わらひだあまといわれたがきつくわいかコレ耳を掘抜にして聴聞しろ高麗屋かせりふといふもんて玉川の水を産湯にしてて腰骨を固め猪牙の枕木に尻だこの入たお客た大黒舞の舞台開から餅搗の音かてめへたちの胸にひゞく師走まて朝はらの鹵取夕仕舞の雪駄直しもを知らねへやつはねへはそふさいの茄子とちかつてあてぬけのした男たこふいつちや立引餅のやふたか江戸子の利弁さんを旅猿や浅黄うらをあつかふとはチツト正本の筋かちがふせまきわつちやア ナニモぬしをあつかいした覚へはさんせんアツトまつてもらをふ覚へがねへ気がつゑゝせとふつけの小買ひを一度に喰たやうにくさひおくびをはきやがかるなだまつていりやいゝかとおもつて護国寺の開帳巡りしやあんめへし宵からぶらつきやかつておりよは利生のねへ撫牛を見たやうにしやがつたじやねへかこふかんにん袋の緒が切ちや九郎助稲荷か七化を踊て朝日如来が面蝋燭を出して御きげんを取てもモウおとり上はねへはヱト いよいよ大ごへになつてあら事をはじめかけるとまき絹はあきれて出て行若イものややりてか連をたのみて此仕舞とふなつたものか大がい御すいもじ有べし○是は扨おき爰に気のもめるものはおく座敷の床の中巴丈は 座しきのうちはきけんよくのまぬ酒を呑ンたりいつ来ても手の足らぬ三味せんを引たり潮来をうたつたりしていつにない人がらをもせずけんきの夫と知らせぬ一ト手管床のはしの方にうしろむきになつて遣ひかけたる扇を顔へ屋根ふくそらねいり相方染梅十九か廿チくらい何かふさいたやうすにてそろそろ床の上へあかりいたつらをした子のしかられたやうにモシヱモシヱとこわこわおこして見れは巴丈はそしらぬそら寐入りのぞひてみては手をもぢもぢかんかへる間にふけるわたる夜もみしかき巴丈さんへと契りにておもひきつて○ひたいを巴丈が扇にあてれば巴丈アヽびつくりしたいつそ酔てねむくつてならねへと又よこにころりそめぬしのおはら立はごもつともてさんすそれともあれにはだんだんわけの有いすからトウゾかんにんしてねかしてくんなせへト 取あはぬほとそめとふぞマアわつちかいゝすことをも一とふり聞ておくんなんしせんどぬしがおかへりなんすとぢきに小茶屋まて人をあけいしたけれともふおかへりなんしたとのことおつまさんの所へまいりして頼みいしてまい日まい日文を上いしてもついに一度の返事もお聞せなんせんもさらさらむりとはおもひせんみんなわつちがたらはぬゆへとは思ひすがぬしにあしく思はれいしてははやつはり聞ぬかほで遣ひかけの扇子に書た文字をよむ半点の朱唇万客嘗とは唐人の示しにして川竹の心は実に芭蕉の翁のいひけん浮草の岸を定ぬかごとしそめうるみしこへにてをたよりにくらしせう永楽屋の客衆はきれてしまいすし旅の客人はさたなしに立すしは扇面のよみさしの朝には楷老を契り夕には知らぬ顔するならひもあさかほやきのふの花は今朝の塵そめなみたを袖にかくしてたよりとするはぬしはかりてさんすとふぞうたがひをはらしてかんにんしておくんなんしすこしはわつちが胸のうちをさつしておくんなんしおめへのむねのうちはとふにさつしているのさとそらうそふいてうつくたはこ輪にふく烟のなをむすぼれそめは しはしうつむいてたまりていたりしかすつと立にかゝるをは なを引とめ コレよもやそふいふ事でもあるめへがきしやうせいしはなまほれの惚たと見る道具とは黴のはへた本にも有ぜへトいわれてもそめは 聞ぬふりてずつと立て行は またよこにひぢまくら程なくそめは 立帰りなみだを袖てふきなから モシヘこつちを見ておくんなんしといへども巴丈は聞ぬかほそめむめはかまはずに髷をほごして中の所を一トつかみほどかくし持たるかみそりにてしやりしやりとおしきりあとをはしまだのやふにしておつつくね切た髪をわる紙につゝみそのうへをまたみすかみにまいて巴丈か前へさし出しモシヘ是を取ておいておくんなんしは へい気にて コリヤアおめへなんのまねだそめは なみだごへにていりなんせずはぬしの手に一度ふれなんしてからすてるともどうともしなんしそんならおめへすてる気て切たのかそれでもやつはりうれしいやつさとにつこりわらふはこはもの也そめ巴丈かひざへしがみ付てあんまりにぬしやとふよくでさんす是で心底が見へせんじやわつちや死んでもむまりせんハテ気のみじけへむまらぬやうにさせるものかト引よせるそめはうれしくそんならうたがひははれしたかへモヽいゝわなそめ嬉しうさんすとだきつく隣り座敷ててうしをあはせる三味せんチヤンチヤンチヤン
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp