三躰誌
《三躰誌》

  ○誹人之百声三吟者
   東都街之遊
楼は何屋ともわからねど。いまだ朝のうちにてにかいのそうじもかた付。おのおの風呂へも入仕舞。身じまいにかゝる時分。向島より立帰りの客三人此うちの大じんは馬笑としは三十五六にて人がら能こしらへ。此あいかたはにて見渡今一人の客は蘭雪四十斗リにてあまりくちをもきゝそうもなき風。此相イかたは見渡しが番新折端今一人の客は気角三十一二にて気のかるそふな坊主。此相方は振リ袖打越かくて三人の客は茶屋の亭主喜六をつれどやどやと二かいてあがるむかふよりゆかたをうはつぱりにしていそがしそふに来るしんぞうはうちこし
ヲヤ馬笑さんが帰てお出なんしたおいらんへト云イながら座しきへ取てかへす又むかふからやりてぶらりぶらり来るヲヤヲヤびつくり致しました。どなた様もとんだおとふとふしい事で御座りますねへヲホヽヽヽヽされば見なせへ降出したのをさいわひに道から帰て来ましたにいひ雨で御ざりますねへヲホヽヽヽヽ雨さへ降ば内へは帰られねへものゝよふだやつさ雨がふつたら駕やろな四文が買たら本やろとうト云ながら足びやうしをふむそうぞうしい男だいつもながら気角さんは御げん気でよふ御ざりますハヽヽヽヽ ト捨言葉にてわかれる皆々も見渡しか座しきへはいる馬笑さん御らうじいし。けふはふりいすからお出なんしといつて居たじやおざりいせんかへ。さぞお濡なんしたらうねへそうさじようがこわいからさ。いゝ気味だまづお火鉢をあげましようト次の間からもつて来る此こと此こと。アヽさむかつた火鉢のあたまも信心がらた。ぬらした袖でも干ましよふふらねへうちに帰れはかへられたのふさやうでござりますきついまけおしみさ。どうしてこつちでふれふれと祈きつておりいしたものをおいらんかいのらつした斗じや御ざりますめへ。どこのか人がソレネ。なみだ雨で私しが足をとめた物さトいひながらうちこしが顔を見るちよつと見やきゐた風だよウ引それでもいつそうしろかみがひかれたものヲヤおかしい。おめへさんは髪もなくつてヲホヽヽヽ ト笑ふウヽなるほどこいつきめ所たそんなら耳だつた皆々 アハヽヽヽ ヲホヽヽヽヽ ト笑ふ此時見渡は立て打越しに何をかさゝやき出てゆくでもおしようと向島へ行といつでも雨にあふようださようで御ざりますねへほんにそふいへばそふだのふ気角さんはふられしようさすのさねいゝのさ雨にやふられしよふでも女郎買にやふられたことのねへ男さのふ打越さんそうだかぞんじいせんきついしほやなこつたねへそんな事をいふけれとも三巡りやじや気角さんもよはつたやつさウヽみめぐりやの咄しかコウ折端さん聞なせへ蘭様と気角さんと二人でみめぐりやの内へいつたのさほんにかへからの聞なせへ。おしようさんが夕立といふおいらん買よ蘭さんわへはしん造買さ。そうすると何が見へをしてゐた所がツイそれ口がすべつて気に当ことをいつた物だから。おもいれふられてとんだめにあつて帰つたよほんのかねへいゝ気味ざヲホヽヽヽヽの笑ふことはねへ。あの時はわる口をいつてわざとふられて見たのさコウそうはいわせねへぜ。おめへ帰る帰るや何かをいつたぜこいついゝ成ほど是はお出来てごさりましたアハヽヽヽ ヲホヽヽヽ ト皆々笑ふ此所へ盃てうし其外出しもの出禿しやくに来る折から見渡もきかへて来るなにをお笑なんしたイヤおいらんおきれいねヲヤどふ致しいしよう今ね気角さんが三廻り屋でふられなんしたツサすかへヲホヽヽなにさあのお聞なせへおいらんついぞどこへいつてもふられたことのねへわたしがわざとふられた咄をおかしがつてみんなが笑ふのさヲヤあつかましい坊さんのくせにいつそいやだよいやだもうそでいゝ。おめへ坊主が好だといつたじやねへかイヽヱ私しはきらいざすはきらへども味ひをしらずじやねへ。おめへおれが味をくひしめきつてゐながらはいかさま知れませんはへよしておくんなんしうそだ夕べも夜中ねかさねへうへにいびられるといふ物だからけふは腰がふら付て成ものじやねへトまじめになつていふ皆々ヲホヽヽヽ アハヽヽヽ相手をそばに置ていふからほんかもしれねへはへ誠にほんのことさいつそんなことをトきせるをもつて立かゝるアヽ是さあやまつたあんまりざトいひながらすでにたゝかんとする坊主御めんなせへおがみのおしようだ。それでたゝかれてたまる物かト手を合る皆々アハヽヽヽ ヲホヽヽヽモウ堪忍してあげなんしなモウ今度おつせすとどうするか御らうじいしハイハイ モウけつしてもうさん山道破た衣だまだ口がおへんなんせんねイヱモウおへんなんししようりうさまで御座ります皆々ハヽヽヽ ヲホヽヽヽ アハヽヽヽ時に此仲直りに御酒をおはじめなさりませんかいかさまねしかしまだ呑そふもねへがでもまづ一順お廻しなせへそうさそうさ本においらはわすれきつて居ましたそんならおつ立をやらかしませうト盃をとる所へ茶屋の男おくりものを持来りヘイ御めんなさりましト亭主の後へすはるヲイなんだお肴かこつちへ出さつせへまだお早ふ御座りますから何にも御さりませんトいひながらまん中へおし出すいか程な物が来てもしよふがねへ何も御用は御座りませんかいつて参りますヲヽマアいかつしさやうならさんじますト出行いかさまうまい物をこしらへて来てくれたらうが。腹がへらねへじやねへかまだ左様でござりませう程喰類は近いよふだ。ちかしながら毒味をしようトいゝながら喰て見てこいつきめう頂来屋の若旦那だで御ざりますねへだか知れねへがうまいヲヤ馬鹿らしいお盃はどこだね。ちつといたゞき女郎衆は能女郎衆としてさり嫌なしに能喰よのふト是よりしては酒事はじまり色々しやれもあれど。あまりことしげゝればはしよりますしばらく時をうつしサアサアまたよつて来た来たどうか気がおもく成そふだぞ腹のへることをしよふじやねへかちと踊てさはぎませう踊る平家久しからずと立てやらかしませうト皆々たつマアにしてもちと片付ませうそふして置なんし片付ます。その子や何かをそつちへ出しやト云をしほに出し物もみなかた付る目隠しか鬼ふくろかのにでもせうぜへしかし此人数でどんどんさはかれてはたまるめへ左様ならモウちつとしづかなことがよふ御ざりませうそんなら腕押か枕引だ舂屋とんの日待のよふにこいつもよからうモウちつとしづかに其爪点の歌仙はどうで御座りましようしづかな事がお好ならあんじが有はへ何だらうねひとつひねつて天狗誹諧はどうだこいつはよからう天狗はいかい国土安全しつかてよからうねそんならそれときめませうサアみんなすはんなせへでおざりいすへでもマアすはんなせへどうするのさすへ天狗はいかいだが仕様はこつちておしへるから居所をきめてならびやしようぜへおいらんも馬笑さんの次へおすはんなせへ私しや存いせんものをしつても知らねへでもぬけつこなしさトいつてゐる所へ新造戻句来るヲヤなんでおざりいす。みんなお並びなんしていゝ所へ来なさつた是から丸くみんなをならべて百万遍を始るのよ馬鹿らしいねへコウ爰へきなせへなアイ トいひながらすはり何をするのだすへ今ね天狗はいかいとやらだツサにかへどうするのざすねへどうするのかしれいせんのさコウト何人有の。八人だの。是でもいゝがモウひとりあるといゝのそんなら誰ぞ呼におやんなんし月花さんがよふおざりいすそんなら呼に遣いしようねコレサ春野や。ちよつとの月花さんに馬笑さんでおつせへす。お咄し申てへ事がおざりいすから。只今是までお出なさつておくんなんしとつてよ。早くいつて来やよ禿アイ ト云イながら出て行硯箱はどこたの打越さん。ちよつと出しておくんなんしアイ ト云ながら持来るトレ私しもこゝいらへ割込ましよふ馬笑様からお始めなせマアマア仕方をおしへねへじややせんト云所へ<女郎月はな禿とともに来る馬笑さん能今日はお出なんすねへ面白いことを始るからよびに上たのさこつちへお出なんしなアイ気角様なんだすへ今天狗を始るのさ馬鹿らしいねへサア人数は揃たモシマア天狗たなんだすへ天狗ごしんのもめのたねト口のうちにてうたひながら墨をする誹諧のやうなものだツサそこでみんなこうするのだ。まづおれがはじまりなら。此紙へ字を五文字かゐて人に見せずにかくして置やす。夫から其次の者が七文字書て置とまたそのつぎので五文字かくのさ。そこでみんな残らず出来てしまうと。それを出してひらくのさ。そうすると三人ので一句になるのさ。よしかへ何と書のざすねへ何とでも五文字になりせすりやいゝのさコウサくはしく申やしようなら。それね。[いおとこ]とすれば是で五文字に成やす。コウいふあんばいに。何とでもてんでんの心意気を書のさ。よしかね。わかりやしたかへマア何でも致しいしよふモウ知れいした外は皆わかりましたかへ皆々ようざサアサアはじめるよト云ながらはな紙へかく春野やそのうち。茶を仕掛やよ禿アイ ト立てコンロキビシヨウにてせんじ茶をしかけるサアそつちだマアそつちへお廻しなんしなナアニサでも御順さどふ致しいしようはづかしらしいト云イながら書ておくから戻句さんだサアサアどう書のたしたつけねへ五文字さトいわれふところの内にてゆびをおりかそへて見てかくアイそんならよふさ月花さんおめだおめ私しざすかへ。いつそおかしいねへト云イなから暫らくかんがへているどうだねまだかへドウモ知れねへよふざすかサアよしト書ておくよしかへよしなら私だが。おいらはすぐによふ御座りますサアやうやうで廻つて来たコツトナはいよふ御座りますヲイト来た来たト云イながら書イてしまうサア打越さんだ私しならマアお待なんしヱ ト云イなから口をむぐむぐしてゆびをおりかぞへて見て書キ アイよふざサア折端さんおめへで仕舞たアイサお待なんし。せはしねへよサアサアよふさトかいてしまふ扨是からおひらきだどれどれ開きませうかマアマア三人宛きめて吟じやしようヲイト合点だ合点だてんでんに今の順でよみあげるのだ初りて御座い[はるさめや][いつそうれしい][ごだいりき]イヤ是はとんだよくかないましたきついものきついものあとあと月花さんだわたくしかへアイ[いろおとこ][おもいれくふて][とぼしたい]こいついゝいゝ皆々ヲホヽヽヽヽヽヽ アハヽヽヽヽヽヽ ゲタヽヽヽヽヽヽ クツヽヽヽヽヽヽ月花さんが人のおしへたもん句を。いけどりにしたうちがおかしいね夫でも急に成て参りいしたものヲホヽヽヽヽサア是が名残のうらうつりだ。ひらきます[ほれられて][いつそもふもふもふ][たゝみざん]是も能つきましたみんな素人じやねへはへくろい物が流れたゞほんに今おそはつた様じやねへそれだが打越さんのを見せねへたしか二字あまりだつたぜナアニそれでも七文字で有ますものアハヽヽヽいゝいゝどななもお聞なせ[もふもふもふの字を一字の通用にするから七文字に成のだやつさアハヽヽヽ仕舞のもふだけ多ふ御座りますアハヽヽヽにねへヲホヽヽヽヽ禿お茶が出来ましたちや所じやねへアハヽヽヽヽヽ皆々ヲホヽヽヽヽ アハヽヽヽヽヽ ヲホヽヽヽヽヽ アハヽヽヽヽヽ トしはらく笑ひをもよふす折からはや家々はひる見世のすゞのおと ガラガラガラガラガラガラ コロコロコロコロコロコロ

どなな…原文のまゝ。
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp