馬鹿大林
《馬鹿大林》
雷電
いなか者。らいでんを見て。あれハ仁王様かときく。江戸者ナニ。あの大きな男ハ。
らいでんと云角力取サ。いなかあんにしても。仁王様のお子さまだんべヱ。どうぞおらがざいごへおよひ申て。
村の女共にもおがませてヱもんだア。江戸者そんならバ。
あした堀の内へ関取がいかれるから。おれがつれたつて。貴様の所へいきませうと約束をして。いなか者をかへす。
いなかさうさう帰り。村中をまねき。あしたおらが所へ仁王様がお出なさるから。ミなの衆。
上下で御座れと云ふらす。さて明日になれバ。村中上下で。かの男の所へつめて居ル。昼比。かの江戸者。
らいてんをつれだちて田舎へきてミれバ。村中おびたゝしく。上下にてひれふして居る。江戸者是ハけしからぬこと。
其やうに上下でつめかけて。関取をバ。マアどこへをくので御座る。いなかミなミな一どに扇をひろげて。
らいでんハ是へ上ケられませうと。座敷をあける
《馬鹿大林》
しなの者
是久八。此中つけたかうじつけの菜づけハ。てうどけふで七日になる。もはやよくついたじぶんじや。
物をきへいつて出してきやれ。女房久八や。それ。そのふた茶わんでももつていきやれ。
久八かしこまりましたと物をきへゆき。菜つけを出してくる。女房是ハよくついた。
是でおちやつけがよからうと。ちやづけさらさら。あんどのそばでやらかして居ル。おもてにて角力勝負付とうる声。
ていしゆはしを下に置。久八。けふハ七日目。勝負付をかつてくれろ。久八ハイハイ。
ふた茶碗でももつてまいりませうか
《馬鹿大林》
雨乞
しばらく雨ふらぬ事ありて。みめぐり辺の百姓。これハなんでも。むかしの其角さまのやうな上手なはいかいしに。
一句やらかしてもらうがよからうと。浅草辺へ出。こゝらに上手なはいかい師さまハ御座らぬかとたづぬれバ。
向のかうしつくりのが。はいかいしで上手じやそうなとおしゑる。百姓これハありかたふ御座りますと。
向のかうし作りのうちへはいり。たのミませうといへば。おくより。いかにも高まんくさい坊主出。たれじや。
なんぞ用かとたつねる。百姓ハイ。わたくしハミめぐり辺の百姓て御座りますが。
おまへさまハむかしの其角さまのやうなお上手なはいかい師さまで御座りますかヱ。はいかいし高まんなかほして。
なかなか其角のやうな事でハない。其角より十段も上をこした。おれハ名人しやが。しらぬか。百姓これハよいおかたさまへたづねあたりました。
御存の通り。此間中雨がふりませんで。ことの外。百姓なんぎで御座ります。どふぞ雨のふりますやうなお句を。
一句なされて下さりまし。はいかいしそれハ心安い事。鳥渡一句してやろう。ちとそこに待て御座れ。
今かんかへてとしばらくかんがへているうち。おもてを角力のたいこ。どゝどんどんどんとたゝいてくるうち。
はや雨がはらはらはら。百姓もし先生さま。もふお句にハおよびませぬ。今の角力の太こで。
雨がふつてまいりましたといへば。はいかいし角力のたいこでふつてきてハ。はいかい師ハはだしはだし
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp