与謝蕪村書簡
《与謝蕪村書簡》安永7年12月27日

  山脇道作様
  同 玄冲様                 与謝蕪村
    人々御中

  御他行と照量仕候付。此手紙したゝめ持参仕候。
余寒甚御坐候処。益御安全被成御坐。珎重御事奉存候。扨も御うとうとしく罷過候御義御座候。 今日は先達被下置御肴之御礼。寒中御起居御うかゞひ。扨又歳暮の御しうぎ。何やかやかちぐり。万事は春ゆづり葉とホヽうやまつて申。
   十二月廿七日                 蕪 村
  雨 遠 様
  玄 冲 様

   春 興
 蝙蝠のふためき飛や梅の月
 梅ちるや螺鈿こぼるゝ卓の上
  右は尋常の案じ場也。
  又新意を探る句法
 梅咲て帯買ふ室の遊女哉
 しら梅や北野の茶屋にすまひ取
 大津絵に糞落し行燕哉
 針折て梅にまづしき女哉
 やぶ入や余所目ながらの愛宕山
          右蕪村
  近世俳諧
  日本第二風流

《与謝蕪村書簡》安永7年12月

梅の句合撰び遣候。併巻中秀逸の句見えず。遺恨の事に候。すべて趣向のもとめ所。同じ木のもとを彷徨する心地せられ候。 是ひとへに。今の世にもてはやす。洒落に上手めきたる句づくりに泥みて。翡翠の敗荷の露を踏飜しふりにのみ成行候。 堪能の上には。あやある句もうちひらめなる句も。みな宜に叶可申候。さなきは只あらたなるより又あらたなるこそ願はしかるべく候。 しかし其新意を探得る事は。きはめてかたき事覚候。況梅の題などは。いにしへより幾千万吟ぞや。 崑山の片玉もさがしもとめざる隈なく。桂林の一枝も折のこしたる梢だになく候。今はいかゞすべき。 橋なき水をわたり。路なき山にわけ入て。奇絶佳勝の地をも尋ぬべきわざに候。かの武陵の漁者もはじめより。 豈洞中の春色をしらんや。愚老もかくはまなこつけ候へ共。もとより不堪なれば。明かに新古の境を申分つべくも覚ず候。 されど心の欲するところなれば。はつかにこのほど申出たる句。二つ三つ書付候。
    よのつねおもひよる句
 かはほりのふためき飛や梅の月
 梅ちるや螺鈿こぼるゝ卓のうへ
    別に趣向をもとむる句
 白梅や北野の茶屋にすまひ取
 梅咲て帯買ふ室の遊女かな
右の句合のうちには。我社中の若き人々も多くまじらひおはすよし。承り候故。かくつぶやく事候。 他の老錬の人々に申及ぼすべきにはあらず候。相かまへて御さた御無用候。穴かしこ
                          夜 半

《与謝蕪村書簡》天明3年7月21日

あふせの通時気不正。さてさてこまり入申候。されど御互無恙。めでたき御事御坐候。 角力の句は。とかくしほからく相成候て。出来がたきものて候。題を御改被成。御案可然候。
   角力老たる親などを結びたる趣向。甚古めかしく候。所詮句成がたく候。それが中。麦阿句
 死ねとおもふ親も有かに角力取
   此句せめてよろしく候はんと。されども至極と申はなく候。
 負まじき角力を寝物語哉  蕪村
 都辺を終の栖や角力取    太祗
 はだか身に夜半の鐘や辻角力 仝
 右之三句などは。まだしもよき歟にて候。
愚評の右之ごとし。今少し御案可被成候。もしなくば外の題可被成候。
。廿三日。弥洛東三栖伊かたにて一会興行。早くより御出坐可被成候。一左なども御同伴可然候。以上
  七月廿一日

 如 瑟 様                    蕪 村

《与謝蕪村書簡》天明3年9月8日

   田ぷく様                   夜 半
秋気はげしく相成候へ共。御安全御くらし被成。奉賀候。愚老も無為しのぎ居申候。御安意可被下候。
。きぬ并唐紙被遣。いさゐ御書面のおもむき承知仕候。不日揮写いたし可呈貴覧候。しかし甚繁多。 且のらにて日を費候事多く候ていづかたも延引。さいそく日々こまりはて申候。○十三夜は金福集会にて候。どふぞ立帰成とも。御上京可被成候。
。月渓なだ客遊之こゝろざし。当中旬過はおもひ立申され候よし。珎重候。 則士川子その外へも添状したゝめ。此度相下候。何角御せわ。御やつかい之至。察入申御事に候。
。西のしばゐ。二軒茶屋のおすみがうき身のうへ。取組候て。それ大丸彦右衛門のかんしやく。 或は先年清水坂八ツ岩といふ角力取のけんくわ。又板倉のつぼね殺し。何やかや取交ぜ候狂言。さのみおもしろき事はなく候へども。二軒茶屋の道具立。 藤屋中むらやの女子ども数十人。舞台の体はなやか成事候所。此間さしとめられ相休居申候。此あとはあだちが原とゆき平そなれ松とつき合せ。 いたし候よし。是も中々おもしろく可有之候。又見物参り可申と存候。しばゐちよこちよこ身上りも候て。こまりはて申候。
。荒木先生へもよろしく御致声可被下候。小景近日揮毫可仕候。今日風塵。早々。以上
    九月八日
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp