大黒舞
《大黒舞上巻》

かくて。その夜もあけがたになれば。又。かどをたゝき。物申さんといふ。大えつは。れいのおによと思ひて。 をともせず。大こく。大えつをちかづけの給ふは。いまのかどをたゝく人は。かたじけなくもいざなぎ。 いざなみのみことの御子にひることいひて。伊せ天せう太神の御おとうとにて渡らせ給ふえびす三郎殿にて。 にしの宮にあとをたれ。うみにれうじ給ふみことにてましますぞ。はやくしやうじ奉り給へとの給ふほどに。 さては。わがえびすの御ざんなれとて。ゑぼし。かりぎぬちやくし。御むかひに出て。こなたへとしやうじける。 えびす三郎殿。大きによろこび。さきにたちて入給へば。いぎやういるいのもの。よろづのかひのからをぐそくのやうにして。 ひやうぐをもち。御ともして。大えつの家に入給ふ。
さて。大こく。えびす。しきだいあり。をのをのざしやうし給ふをみれば。大こくてんもせいひきくふとり給ふ。 えびす三郎殿もせいひきくこえ給ふ。又。大えつのすけも大きにこえたるおとこにて。三人ならび給ふありさま。 いづれも福々しうぞみえにける。さるほどに。じゆんのさかづきをまはし。三々九どにもなれば。大こく。 さかづきをひかへさせ給ひ。まことや。うけ給はれば。えびす三郎どのはまひを一さしまひ給ふとな。一かなでみばやとのたまへば。 えびす三郎殿は大きにわらひて。御げんざんにまいるほどはなけれども。御のぞみをそむけば。おそれあり。 さらば。をのをのはやしてたべ。いでいでまはんとて。たいをはつたとうちあげて。大えつときけば。めでたのなや。 しそんのすゑまですゑひろがりをおつとつて。まひおさめうよな。うれしやな。きみがよは千世にやちよにさゞれいしのいはほとなりてこけのむすまでむすまでと。 くりかへしくりかへし二三べんかなで給ふ。
そのゝち。大こくのさかづきをえびすどのへさし給へば。たぶたぶとうけもちて。かやうにめでたきおりから。 大こくてんのまひをしよもう申侍らんとのたまへば。大こくてん。つねにさへえがほよき人の。さけにはえい給ひつ。 ゑつぼにいりてわらひ給ひ。あら。はづかしや。つねにけいこせざるゆへ。かやうのところにてめいわくすることよ。 たゞそれがしには御ゆるされもあるべう候やと。さい三申給へども。かさねがさねしよまうしてはやしたてゝすゝむれば。 こらへかねて大こくはうちでのこづちにすゑひろがりをとりそへて。おほおほとたち給ひ。なにをかの給ふとおもへば。 まづ。大黒がのうには。一にたはらふまへて。二つににつことわらふて。三にさけつくりて。四つ世中よひように。 五ついつものごとくに。六つむびやうそくさいに。七つなにごとないやうに。八つ屋しきひろめて。九つくらをたてならべ。 十でとうどおさまる御代こそ。めでたかりけれとまひおさめ。もとのざしきへなをり給ふ。

下に示せる下巻冒頭に直結す。

《大黒舞下巻》

さるほどに。そのゝちはらつぶになりて。思ひざし。思ひどりにし給ふ程に。えひ給ふことかぎりなし。 かくて。大こくのおほせには。ことさらけふは正月二日にて。吉日なれば。はいかいあるべし。大えつのすけ。 しゆひつし給へとて。まづえびす三郎どのゝほつくに。
  つるうほもめでたい春のさかなかな
大えつのすけ。
  心のまゝにかすみくむ袖
大こくてん。
  いねつみてのどかにあそぶ友ならん
と。第三までし給ひける。かくて。大こくうちわらひ給ひ。めでたき御事かな。このうへは何をかしてあそばんとの給ふ。 えびす三郎殿のおほせには。大こくてんはよくこえ給へば。さだめてちからもつよからん。かやうのあそびのつゐでにすまひを一ばんとりてなぐさみたくこそ候へとの給へば。 大こく。心よげにうちゑみて。おほせのごとく。かくめでたきおりふしなれば。たれをかはぢん。いざゝらば。 すまひ一ばんとり申さんとて。じやうゑをふわとぬぎすて。たづなをつよくおさめ。ゆるぎいでさせ給へば。 えびす三郎どのもおなじくいで給ふ。大えつはぎやうじにて。たがひにいりくみ。手をくだきてとり給ふ。
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp