ゑしま物語
《ゑしま物語推定四段目》

其時。かねこ。くまかへ。あさり。もろともに。いつれもさたまるつまはなし。我申うけん。かれ申うけんと。そゝろにこそは。 せきにけり。御前しこうのわか侍。我も我もと罷出。こゝかしこより申上る
からうのめんめん。是はあまり所望のかたかたおゝけれは。 いつれにても。たかひのうらみ有へし。此きは後日の御さた成へしと。ひやうてうすてに。おさまる所へ
うさみのさへもん。かねてすゝみ出。さあらは此度。所望のめんめんに。すまふを仰付られ。たれにても。かちたらん物に。くたし給はる物ならは。 うらむるものは候まし。いかゝあらんと申上る
時政をはしめ。ちは。かつさ。是は尤さも有へし。此度。めてたき。かいちんのよろこひといひ。わか君の御なくさみ。 是にうへこすことあらしと。皆一とうにの給へは
よりいゑ公。御ゑつきなされつゝ。日けんを仰出さるれは。おのおのよろこひ。御前を立。せひとも。 すもふに打かつて。ゑしま姫を申うけ。其なを。天下にあらはさんと。いさみすゝんて。此人々のいきをひ。 たゝ力こふしためしこゝなりと。みなみなよろこひたまひけり

次項に接続す。

《ゑしま物語推定五段目》

すてにすまふの日けんに。およひしかは。よりいゑの御さしきをはしめ。ひたりに。はんかく女おやこのさしき。 みきには。ほうてうのときまさの御さしき。其外は。諸国の大名小名。我をとらしと。けんふつ有。すてによりいゑ出御なつて。 きよれんと上させ給ひけり。時にすまふのとりて。人かすあひて。くみさたまつて。我も我もと出らるゝ
扨きやうしは。とひの弥太郎とをひら。是はせん年。よりとも公。いつの国に。御座の折ふし。あかさは山のすもふのとき。 とひの次郎さねひら。承はつて。きやうしをつとむ其時のきちれいにて。ちやくし。とをひら。つとめけり。 藤平。其日のしやうそく。はなやかに出立つて。先うちわを上て。東西をしつめそもそも。此すもふといふ事。 はしまりを尋ぬるに。ふつさいせに。あしやせ太子。二人のしんかを持給ふ。此二人か。力をためし御らんせんとて。 此すもふといふことはしまれり。もろこしにては。こかんのめいていの御時。しゆ仏の道をわかたんためはしまれり
我てうに至て。なんはの京の御時。はんとう。ちんせいより。りきしや参りて。是をつとむ。今にいたつて七月下旬に。 ことりのつかひのせちゑあり。今此すもふの御事なり。是をまなんて。おんこくゑんりのものまて。力ためしの。ことわさにて。 上下はんみんの。めをなくさめ。心をいさましむるは。すもふにうへこす物なし
さて今日のすもふ。たれとのによらす。せきを取て。打かちたらん御かたへ。のそみのさいしよ。さたまるへし。 かまへて。よくよくとり給へ。さらははしめ申さんと。御前にむかつて。しきたいす
所に。うさみの左衛門。申上るは。すもふの御なくさみ。まつ。ちいさき物より。取はしめ。次第次第にとしたけたる物の出候か。 一しほ御なくさみに。なり候はん。よりいゑ聞召れ。尤也。きやうしはからい候へ
とうひら畏て。誠に御望。しこく仕候。さあらは。しやうしんたち。のそみのすもふ。出給へと。よははる下より。 我も我もと。ひたりみきに立わかれ。すてにすもふを。はしめける
いつれもおとらぬ。きりやうにて。思ひ思ひの手をくたき。うつつかつつ。すれに廿四番はしまつて。 うさみの五郎すけみち。つゝけて二はんかつて。跡にはちゝふの六郎ひかへ。すてに出んとすゝみけり
今日のすもふの見物。うさみの五郎。ちゝふの六郎。二人の者にて。とゝめたり。御さしきをはしめ。きせんの人々。かたすをのふて。まちたりける
そのとき。ゑしま姫。さしきの上よりみおろし。いかにうさみ。かちたりとも。わらはかつまは。ちゝふならては。 もつまし物。其上。六郎の力にて。うさみなとには。やはかまけさせ給ふましと。とひ立心そ。やさしけれ
さる程に。うさみちゝふ。立ならんて座に付。時にきやうし藤平。うちはを入て。今日の御すまふ。うさみとの。 ちゝふとの。両人。御しまひの打とめ。いさ御立と合けり。うさみ。ちゝふ。たちあひ。たかひに。こゑをかけて。取くんたり
うさみは。一かさまさりたる。おのこなれは。ちゝふのうはをひを。うは手にとり。ちゝふは。下手にしつんて。 うさみか。両たつなをとりて。かつき上んとしたりけり。うさみ。うは手よりつかみ。なけんとす。ちゝふ。 はやわさの心きゝにて。あしもなかれす。つつ立ける
其時。うさみの左衛門。より家のさしきにありしか。御前をもはゝからす。やれ五郎。其手こそ。 おもしろけれ。右のあしを。うしろへふみとめ。左をこみ。ひさをそへて引上。ひつかついて。右へおとせおとせと。そゝろにこそは。せかれけれ
其時五郎。力をゑて。又もとの手にひつたて。とうとなくるを。ちゝふ。あしをふみとめ。つゝいて。下手につつと入。 ひつかついて。二三へんまはり。はなかへ。とうと。そりにけり
君をはしめ。きせん上下。さても取たりちゝふ殿と。しはしは。なりもしつまらす
うさみの左衛門。是をみて。しこくのはらにすへかね。只今のすもふは。まさしく五郎か。かつへき所成に。前二はんのすもふに力ぬけ。 けかのまけにて候。すもふあひ手に。おにをきらはす。それかし。かちすもふに参らんと。さしきより。とんておるゝ
藤平。是をみて。いやいや御へんは。をとなけなし。とまり給へ。ひらにひらにと申ける
左衛門聞て。いやいやそれかしは。姫の望候はす。ほいなきまけを。口をしく思ふなり。其上御前にも。 御なくさみの御けんふつなれは。おそれなから。一手御めにかけ申さん。ひらに合てたへといふ
六郎申けるは。只今かちすもふと有は。せきふんとみへたり。せひ望むならは。しんしやうに。取申さん。 まけて少もはちならす。合せてたへと申ける。藤平聞て。いしくも。申されたる物かな。さらは立あひ給へ。 左衛門。うれしく。しやうそくぬきすて。かちすもふに。出にけり
藤平。うちはを入。合ける。五郎かまけを。むねんに思ひ。たゝ一ひしきとせき立。むないたわき腹。 あたるを幸。つき立つき立。つきたをす所を。六郎。あなたこなたへ。はつしてまはる。七尺あまりのうさみに。 六郎付て廻れは。大木にせみのことく也。其時。左衛門。つつとよつて。六郎かうてくひ取て。ひつかつき。 左のかたより右へ廻し。前へとうとなけたれ共。六郎。両足ふみとめ。つつ立。又入ちかへ。くみあひける。 何とかしたりけん。かもの入首といふ物に。くみちかへて。あひそりにそつたりける
きやうし其まゝ。ことはをかけ。此すもふ。われなりと。やかて左右へおしはくる。左衛門きいて。何と今のすもふをわれとは。 めかくれたるか。ひいきかと。大きにいかつて申ける
藤平聞て。いやいや。めもくれす。ひいきもなし。只今のすもふ。あらまし次第を申へし。先うさみ殿。 大兵にて。ちゝふ殿の。うてくひ取て。かたをこし。なけられしは。ひるいなきことなから。右のあしなかれて。 たしたしとし給ふ所。爰四分のまけ。扨ちゝふ殿。おひなけに。なけらしを。両足ふみとめ。あしもなかれす立給ふは。 まけの内のかち也。爰に六ふのかち付。是等分のかちまけなし。
扨くみちかへて。かもの入首は。くみはつして。こしをのし。首のうへに。付るを以て。かちと定む。 只今の入首。何も力りやうすくれて。心きゝの御すもふ。こしをのすこと。両方にみへたり。只此すもふ。 今日の行しかもらい。われにいたし。今一はん望申さん。御前はいかゝと申上る
御前をはしめ。諸方のさしきより。いしくも申されたり。はやとくとくと。すゝめける。畏て又。立合けり。 今度は左衛門。何さま。手にあたるを幸に。つかみつふしてとらせんと。いさみて取てかゝる。六郎。左へぬけ。 うしろへ廻り。うさみかよついを。かいつかんて。ゑいやつとさし上。二ふり三ふり。くるりくるりと。ふりめくり。 声をかけて。は中へとうとなけた。御前をはしめ。なけたりや。ちゝふ。仕たりや。六郎と。上下さゝめき。ほめにける
是をせいふの打とめにて。ゑしま姫。六郎かつまに仰付られけれは。忝と悦ひ。時のめんほく。よの聞へ。 いさみいさんて帰りけり。いゑはんしやうときこえける

五郎かまけを…左衛門。五郎かまけを。
なけらしを…なけられしを。
かち付…かちを付。

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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp