々として急雨のごとく又切々として私語がごとし。
塵飛で梁に舞行雲も忽遏かとあやしむ杜佑通典ニ曰漢ノ虞公善ク歌フ能ク令梁上ノ塵起白居易が潯陽江上にて。
なぐれものゝ年増の夜琵琶を弾ずるに出会。五せちの舞に乙女の降臨けんよそほひも。是には過じと覚へける。
文生も感に堪へ。日比嗜む横笛をぬき出して。楊柳落梅をさも面白くぞ吹ける楊柳落梅ハ笛ノ曲ナリ仙人は此道不堪也と見へしかば。
よき折ふしと頓て想夫憐をぞ吹ける。姫は其譜をしりければ。面はゆげなる風情なれども。仙人其心をさとらずひたほめにぞ。
褒めける。かの卓王孫が司馬相如が。琴に聴入て。月夜に釜をぬかれけんもかくやと。いとあぶなし卓王孫ガ女文君好音楽相如以琴心引之文君夜奔相如家一曲吹終りければ。
仙人余念なく。文生は文章に工なるのみにあらず音律にまで勝れたりと甚感じ。むかし今のものがたりし。
さて頃日太平につれて文道さかんに起り。我朝に才学優長の人多く詩を賦し歌をよむ。和歌の一体に連歌あり。
連歌を頽して。また俳諧の発句とやらんあるよし老後の思ひ出にうけ給りたし。貴客の人品おそらくは数寄人たるべしと。
仙人頻に所望あるかゝる所へ吸物と覚しきものを持出ぬ。文生箸を取あげいまだ蓋をとらで
や皿に桃| 酒徳頌 夫酒は儀狄に濫觴り。酒醪の名ありといへ共神農の御時まて。火食なし。食物をたも焼石の上に置て。 やうやう是を病人の食物としけるとなん。しかあれば酒ありといへとも冷酒なるべし。杜康に至りて。 酒を造り黄帝釜甑の次而に。間鍋の工夫を仕出し給ひて。皆人間酒を飲事になんなりけらし。夫よりしもつかた祭祠には必用之。 鬱鬯を洒て神を来格せしむ。しかし下戸はいかゞおはすらん不審。我が日の本の神々も三寸にはめでさせ給ふ。 蒼生の備ふる三寸は。天の岩戸の木のもとに滴るとかや。貴となく。賤となく。老となく。少となく。和漢共徳を愛し。 其味を嗜事いふにや及ぶ此ゆへに劉伯倫は。酒徳の頌を顕し。樽次は水鳥記に名をのこしぬ。禹の旨酒を悪給ふも。 もと辛口を数寄。上戸甘口を好まば。後世に至て。必餅くわしを愛せんことを恐れ給ふゆへとぞ。劉伶歩行所鋤を持せしは。 小間物の蹟を隠さんとの用意李白が公用を欠しは。高が暇の出る合点なれば也。阮感は酔て馬に騎。茶船を漕と人に笑はれ。 王祥なま酔となつて肩にかゝり。井戸に落たる様の風聞にあひし。あまりの好人麹屋の門を過ても口涎を流し。 平楽の会にはづれしを歎酒泉郷に店替せんことをねがひぬ。焦遂が訥も一盃に巻舌の出来口。却て弁者をしつけしとなん。 我朝の酒呑童子酒田の金平も酒を以て鳴るもの也。司馬相如が車馬を売て。酒株にしかへ。卓文君に田楽を焼せて。居酒のおもひつき。 いづれ一ト中あてたるも尤ぞかし。仏の飲酒といましめたるは。羅漢に熟酔多時の法度ならん。 君臣。父子。夫婦。朋友の交りいつれか酒なくて親和なるべきや。されども大盞をわきはさんで。北海の酒をのみつくし。 蛇の中ケ間へ這入て。滝のみのはては。猿丸大夫の手つきに。下戸に見をとさるゝも罪は。 その人に有て。かれにあらず。酒は量なし乱に不及とは。流石の聖謨。たゞ其程に随ひて。下戸ならぬこそおのこはよけれ |
| 餅歌 凡糯は米穀の最上也。芸耕実収迄。粒々辛苦して餅となす。一名粉 ともかけり。春のあした向ふかゝみのもちゐより。
歯がためによはひの長からんことをことぶき赳々武夫は。具足の餅の干城とひとしくかたからん事を欲す。餅花かきもちも春雨の徒然を慰め。
涅槃会に釈迦の鼻 とよばるゝは口惜けれど。仏餉となるもふかき因縁にやあらん。桃花の節句に蓬餅の青やかなるも。
春の色のふかきをあらはし。菱餅となつてやんことなき玉たれの内にかしづかれ。ひいなの饗応となりぬ。
菖蒲の節句に。粽柏もちとよばれ。屈原が茅に巻て。泪羅の竜に喰せじとの工夫は。律儀なるおもひ付。今は魚の口さへ免かたかるべし。
又粉団を射てあたりたる人の喰ふも。からくり的の模様ならん。水無月の氷の貢いまに絶せず。氷もちあられなんどそ賤のを。
しつのめも。是を喰ふことになりぬふみ月は踊催すさつさ餅とも成。重陽に赤飯にてすましぬるも。あかき袋に茱萸をいれ。
桓景が山にとりしためしを追ふなるべし。神無月はいの子のもちゐ。諸侯といへ共かならず袖にし給ふは此夜に限るべし。
若もちといはれしも。いつしかはや。寒餅と成て。舂音に陽気をふくみ。嫁娶の規式にも子の子のもちの五百八十七曲りと。
いはゝれ夏は牡丹餅とよばれて。下卑たるやうなれど秋は萩の花と花車の名をとりぬ。醒メ井もち。
大仏餅は。多の人にしられ。粟餅胡麻餅より。日本一の黍団子と。ほめられし事あり猶夫よりも椿餅のさかり。君が八千代のいく世もちと。いはゝれつきせぬためしに。永楽餅ぞめてたき |
| 豆腐賦 | 張文生 |
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豆腐。々々。爾が形。至て柔弱なりといへども。為其徳也。太山といへども能これを倒す事あたはず。玄冬素雪のあした。湯豆腐となつて。
寒風の烈しきを凌。冷豆腐は俗ニ奴豆腐ト云ニ同シ九夏の天に炎熱をわする。すべて風味四時の宜きに随ひ。客の心に応ず。
紋所の心ゆかしきは誰が遣りけるぞ。色白に膚の細やかなる兜羅らしく見せて。其節操仁義を具足す。調味するに和々として章魚に無念を起す老人。
未歯の揃はぬ小児の能望を達す豆腐強に賞味せられん事を欲ざれども彼より志をむかふ。是愛の理にして則仁にはづれず。
又外を方にして縦令賽の目となつて納豆汁へ入るといへども裁断の角をつぶさず。是又義ならずや王候貴人も必是を食し給ひ。
又匹夫匹婦もこれを嗜む。仁義あれば礼智信は其中にこもれり。されば其糟を餔てその を不 とは漁夫が屈平への異見。
貧賤に素しては。此糟をも用ひよとの世理賦を用ひず。賢者ぶりて身を投しは。悪力身なるべし。むかし六弥太忠澄愛して今に岡部の名あり。
相模入道田楽を翫ひしことは太平記に譲りて爰に贅せず。庚申の夜田楽をかならずとするも。申の字の象なる事しるべし。
其外八盃豆腐。祇園南禅寺の体あり。或は甲州。温飩。寄豆腐の品あり。又は巾着。釣豆腐と現し。頽豆腐は鶏卵の相役を務む。
色紙豆腐は雲の上人の召にもしたがひ。油揚は法中に入て。向詰の手代に用ひらる。世人多く豆腐蒟蒻鳶烏を以て陰陽のことく対すれども蒟蒻は。
日を同して語るべきものにあらず蒟蒻の為用也。鍋山。佐倉。柳。鹿島等の名ありといへども纔に両三色の外に出ず実に権兵衛蒟蒻なるべし。
夫豆腐の威徳。いづれのものか肩をならべん。彼一休。東風を と覚りしか。 を豆腐とさとりしか。味をも香をも知る人ぞしらん |
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