大千世界楽屋探
《大千世界楽屋探巻之上》口絵

「これは此度の合戦。源氏と平家と合戦を相撲に取組み。須磨の内裏負け勝ちの評判紀はい。

《大千世界楽屋探巻之中》雑之部

第二
一切諸精霊盂蘭盆会の述懐並ニ葬式の遺恨
(中略)
金鉄●さればの事。神儒仏の三道いづれの教にか。先祖の祭をやりばなしにしろといふ事が有うぞ。 されども町人百性は渡世の勤がせはしいゆゑ。儒法のごとくきつとした作法もなるまいか。せめて盆の祭ばかりは法の如くすべき筈でござる。 それにマア我々を招きよせて。仮初にも三日三夜逗留するに。縄からげのぶらぶらする棚へ上られて。 身動の度に万歳楽万歳楽。イヤハヤ浮雲て浮雲て。別はない角力場の桟敷の霖雨に逢たやうで。なかなか落着ては居られませぬ。 仮令孫子のが見たさに堪忍してゐるやうな物。無縁のところなら何のつきに腰もかけはしませぬ。 其上朝夕の膳部も苧殻の箸で呉をるが。そもそも何の経にあれを箸に製ろと説てござるぞ。そして盂蘭盆経にも精霊向の献立といふものは見えず。 精霊料理早指南と号た新板の書物もきかず。能加減な作略をしてこじつけた物と見えます。揉大根の汁。の和物。 茄子の指身に。温索麺。芋萸と。食れもせぬ料理を。しかも陶器の土臭いので備をる。経説の如く百味百菓こそ貧者の力には及ばねど。 面々の食ふ通りに塩梅よくこつとりと煮てくれたがようござる。芋萸や枝豆を八百屋店のやうにならべて。此方どもが居所がないとはしるかしらぬか。 香油挺燭とて灯油まで吟味すべきことなれば。蝋燭の臭いやつなどは別して無用にする筈なれど。貧乏人はやたけに思つても力に及ばぬこと。 それは此方も合点してゐれば道端の草を手向け。溜水を水向にしても。全く麁略とは思はぬが。手前もよろしく暮す者共が。 己が口へは料理の美を尽して四季折々の初物を食ひながら。先祖へは世間並の精霊仕立の麁菜を。下女三助にまかせて突付させるは。 言語道断の不沙汰者でござる。粟穂子穂は新穀を先祖へ手向る志で至極尤なれど。笹を横たへて干瓢を干すやうにぶらさげて。 毛毬栗渋柿を瑤珞を提たやうに釣すは。さてさて見苦しいことではござらぬか。
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp