祇園女御九重錦
《祇園女御九重錦第三》

地色ウ跡には組中畑主。サアサア何でも急な御用筋かけ廻つて呼集ふ。 達者にさへ有ふなら銭金の掴取。ホンニ角力取の入舟へもしらしてやりや。杣へは茂六人歩へは此才兵衛が触れませふ。 地ウヤレせはしやとゆふ暮フシ立別れてぞ急行。
地色ウ爰に出雲の流人源義親が良等。ハル鹿島三郎義連は謀叛に合体してげるが。 荷担の人数をかたらふて軍用金をハルしこだめる。此山奥に身を隠し夜は山賊の山道をのつかつかとウフシ歩出。 ヱヽ今夜は何じややらそぶ付て素手計引てゐる。まん直しに一ぷくと。地ウ火燧こつちりハル三ぶくつぎ。 きせるくはへてねはらばい人松かげに小挑灯。くるぞ。くるぞと咽ずんばいフシ足打て待所へ。 地色ウ来かゝる男が頬かぶり行過るを。コリヤ待々。其火をからふと声かくれば。 立戻りすかし見て。何しや火をかせ。コレたばこの火ならならぬならぬ。くはへぎせるはかたい御法度。火をかす事はマアならぬ。 ハヽヽヽヽそりや町中の事じやはい。此山中で何用心。小言いはずとかさいでな。云かけた無心此儘でもおかれぬ。火がならざ脱おれやい。ムヽ脱とは何を。 ハテ知た事とつとゝ脱やい。ハア扨は聞及だ岩渕とやらいふ剥じやよな。ヲヽよふ知てゐるなア。ヲヽしらいじや。此辺で噂の有追剥。仕廻ふてやらふと思ふたが。 今夜は大事の公用で柳を切人歩にいく。こんど逢たら覚悟をせいと。 地ハルいかんとするを。コリヤ待々。われはよつ程骨が有はい。われが様な丈夫な物は。幾人でも手下に付たい望じやと。 地ウ云つゝ寄て帯をぐるぐる真裸。テモよい褌してゐるなア。夫もおこせと手を出せば。 アヽこれこれ。おりや入舟風之助といふて小角力も捻る者じや。此褌はおれが望姓やる事はマア成まい。ムヽ何じや見事捻るか面白い。力の有る者は望所。 力だめしじや何と一番出かけぬかい。ヲヽ角力なら好じや何時でも相手に成が見事取か。 ヲヽサ角力はしらねど力で押と。地ウひやうまづいたるフシ懐手。ヲヽおれも前髪は有けれど白山新三を見事投た。 此寒いに裸に成ての一番勝負賭どくの約束せふ。ヲヽわれが勝たら其褌をほうびにやるは。地ハルヲヽ合点じやとしことんとん。西は岩渕岩渕。東は入舟入舟。 地色ハル名乗は済だとウフシセリ居合やつとかゝれば岩渕が。ひよろ付ク ウ足元踏留り。 まだしやまだしや。地ウヲヽ合点じやと砂をもみ手にフシ打払ひ。合 地ハルウヤアヤアと手合して。どつこい。どつこいと声かけ合トルはねつ合 ウ飛しつ四つ手に入。 むさう返しハル腰もぢり。相手はぬからぬ一ウそれしやの手取四郎は無法のハル足。透せば付得手に入。 合 キンてくる身を肩ずかし。コリヤコリヤコリヤハルとあしに廻つて一ウはね付れば。岩渕胴骨打付られ起も上らぬフシ高うめき。 ハヽヽヽヽ追剥でも山賊でも角力取の一徳には。裸に成とこつちの得物。此花は入舟に下さると地ハル着物も帯もかゝへフシ跡をも見ずして逃帰る。
地色ウ四郎ははふはふ起上り。ハル腰をさすつてテモ扨もむごたらしう投おつた。コリヤコリヤばりめ侍あがれ。今一番取直せと地ハル呼ど。叫べど山道の。がつくりそつくりだくぼくの。 ハル脛引ずつて一ウ追てヲクリ行跡の。フシ山路ぞ物淋し。
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp