| 雄次郎 | ほんにマア。あられもない。今やうを幸に。爰まで来ごとはきたれども。
お顔を見れば今さらに。言たひ事もヱヽいわず。ほんにしんきな事ではあるわいナア。申。行平さま。たつた一トこと。
女夫じやとおつしやつて下さんせいナア。 |
| | ト此内。うしろへ吉次出て。是を見てまん中へはいる |
| 吉次 | ちつとおじやまになりやんしやう。 |
| | トいふ。雄次郎。びつくりして |
| 雄次郎 | ヲヽ。こわ。コリヤお前は村雨さん。何しにこゝへはきやしやんしたヱ。 |
| 吉次 | わたしじやとて。爰へはこぬものかいな。もし行平さま。いつぞや都へおのぼりなされしより。
ひよつと見そめしそのお姿。忘るひまはないわいな。どふぞ色よいお返事を。 |
| 雄次郎 | ヱヽつんともふ。何じやいな。お前へ返事させまして。よいものかいナア。サア。みづからにお返事を。 |
| | ト取つく |
| 吉次 | イヽエ。わたしへお返じを。 |
| | ト両方より。取りつくを。門之助。ふりきつて |
| 門之助 | いかにおなごなればとて。聞わけのなき此ありさま。それがしとても岩木にあらぬ身なれども。
兼て噂にも聞給ふらん。此度。九郎おんぞうし。御むほんのよし。らいてう公の御耳に達し。先だつて土佐坊昌俊。堀川の御所へ押寄せしより。
御行方もしれ給はず。御いたわしく存るゆえ。何卒。御在り家を尋奉り。御兄弟の御中を日月の如く成し奉らんと。ちゞに心をくだく下河部の庄司行平。
夫に何ぞや。不義ほうらつに身をゆだね。鎌倉どのゝ御前へ対し。何と申分けのあるべきぞや。にくふは思はぬ。
松風殿。村雨殿。あわぬ昔しとあきらめて。思ひ切て下されや。 |
| 雄次郎 | なる程。今。おつしやつたお言葉を無理とは。さらさら思はねども。今言て。今爰で。女夫に成ふといふではなし。
みらいでそわふとおつしやつても。嬉しふなふて。なんとしやう。お前の口から女夫じやと。ひと口言て下さんせ。それきかぬうちは。なんぼでも。
爰放しやせぬ。はなさぬわいナア。 |
| 吉次 | そふでござんす。どのやうにいわんしても。此お返事のないうちは。うごかす事じやないわいナア。 |
| 門之助 | それ程迄の心ざし。返事せいではなけれども。いづれを見てもにくからぬ。源三位にはあらねども。ひきぞわずらふ花あやめ。いづれへ返事を。 |
| | トしあんする |
| 雄次郎 | そりや御しあんにはおよばぬ事。わたしが千束の文玉章。よもお忘れはあるまいがな。 |
| 吉次 | そりや。わたしとても同じ事。通ひ車の文の数々。此お返事はみづからに。 |
| 雄次郎 | 何じやいな。いやらしい。年はもゆかいで。あたしつこい。なんぼそのやうにいわんしても。ほれてはわたしが先じやわいナア。 |
| 吉次 | いへいへ。そりやお前。みんな。うそじや。わたしが先にほれたわいナア。 |
| 雄次郎 | またかいナア。だまらんせ。 |
| 吉次 | おまへ。だまらんせ。 |
| 雄次郎 | こなさん。だまらんせ。 |
| 吉次 | そなた。だまりや。 |
| 雄次郎 | わが身。だまりや。 |
| 両人 | ヱヽ。ほんに。あほふらしい。 |
| 門之助 | 扨こそ。りんき嫉妬は女の常。そふなふてかなわぬ事。ハテどふしたら。よかろふナア。 |
| | トあたりを見 |
| 門之助 | それ。 |
| | ト是より。相方になり。門之助。両方の梅の枝を切て。雄次郎。吉次が前におき |
| 両人 | 是は。 |
| 門之助 | その二タ枝が。行平が返事。 |
| 両人 | 此梅がへを。お返事とは。 |
| 門之助 | サア。こちらへ誠の返事せば。こちらがうらみん此場のしぎ。夫ゆへ手折。此梅がへ。時に取ての花軍。
勝色見せしそのかたへ。いかにも返事をしやうわいのふ。 |
| 両人 | そんなら。わたしらふたりして。 |
| 門之助 | 花の軍の。勝負しや。 |
| 雄次郎 | コリヤほんとにおもしろいわいナ。此松風と村雨さん。夫トをあらそふ花いくさ。 |
| 吉次 | わたしがとのごといふものか。 |
| 雄次郎 | わたしが殿ごといふものか。 |
| 吉次 | わたしや。ちつとも用捨はせぬぞへ。 |
| 雄次郎 | わたしも。おまへに用捨はないぞへ。 |
| 門之助 | サア。立上つて。せうぶせうぶ。 |
| 雄次郎 | いざ。 |
| 吉次 | いざ。 |
| 両人 | いざ。 |
| | ト是より。三味線入たいこ。にぎやかなる相かたになり。雄次郎吉次。花軍のたて。門之助。行司のやうなる事。
色々あり。取組。いろいろあるべし。とゞ雄次郎。吉次にさんざんたゝかれ。くやしきこなしにて。とゞしやくをおこし。気絶する。
吉次。大きにうれしきこなし。いろいろ有べし。門之助。おどろき。かいほうする。吉次。腹を立て。ふり放す事あるべし。
いろいろにしても気がつかぬゆへ。とゞ門之助。池のそばへ来て。水を汲ふとして。池をきつと見て。思いれして。
見へになる。本ンかぐらに成り |