百歌撰
《百歌撰上之巻》
○風雅なあそび
ある髪ゆひ床で。客
コレ金さん。きゝねへ。此間八朔に。
かのおいらんの所へゆきやした 金
それハおうら山しい。
何ぞおもしろいおあんじがござりませう 客
べつに趣向もござりやせんが。八朔だから。
よしハらハみな白いなりさ。是ハいハずとも御せうち。よしか。そこでわたしがあんじハ黒仕立よ。まづ黒羽ぶたへのひとへものに。
くろ糸で縫紋。くろ絽のはおり。黒はかたの帯。もちろん黒らしやの紙入。くろのごろふくりんのたばこ入。
赤銅のきせるへ黒のらうをすげて。しやくどうごしらへのわきざし。黒鞘にくろいとのつか。もとよりせつたハ。
八幡黒の二重ばなを。丁度道で関とり衆に出あつたが。こゝがきめうよ。黒岩さんに黒雲さん。黒柳さんに黒鉄さんとハ。
いゝ顔だの。まア何にしろ。仲の丁のなべぶたいせやで一ぱいやりやせうと。みんな一所に九郎介いなりへまいつてきて。
おいらんハもとより
山がたにまつ黒ほしばかり。たいこ持がもとよりげいハ黒極上々といふものが。
大ぜいそろひの。その日ハ酒も九ねんしゆの黒いやつ。肴ハなすのごま汁のすいものに。そのほかすゞりふた。
鉢ざかなまでくろ仕立。にざかなのかれいも。目のある方のくろい所の背の方を見せ。飯もくろ米でたかせ。みんなくろ椀。
くろ茶わん。黒仕立ハ見せたかつた 金
モシだんな。をしいことをいたしました。
私ハ又七月の晦日のばんのくらいのに。てうちんももたず。空ハくもつて。まつくろなくもが出てゐますと。
かまハずお客がござりまして。急によびにまいつたゆへ。あさくさ黒船町のむさしやの仙吉。あれハむかふ島のむさしやごん三が出見せで。
チトいかゞなはなしでござりますが。下直でうまくくハせまする。もとより料理ハまつくろなふる狸。八丈敷の間ハいくらもござります。
そこで夜あかしをいたしました。あなたのくろい思ひつきなら。黒舟町からすぐにまいれバよかつたに。おしい事おしい事。
何もかも黒とハ実にきゝめうきゝめう。ありかた山のかんがらすだ 客
かんがらすとハ黒くほめたの。
そこできゝねへ。こつちが黒じたてにおいらんの方が白仕立よ。とんと碁石のやうな座敷よ。そこでおいらんのこのミで。
義太夫かたりをよんで。白石噺の七ツ目富本のぶんごで。おきく幸助の白山さまへぐわんかけてのくどき。長うたハさぎむすめ。
こつちも義太夫をこのんで。衣川黒鳥合戦の三段めに忠臣ぐらの十一段め。まつくろな夜討の段と。風の替つたかたりもの。
女げいしやが六段をひくと。又男げいしやが外記ぶしの源氏十二段。まけずおとらぬ座敷のさハぎ。どんなもんであつたろう。
又此あいだに。一トしゆかふしやせうトしやべりちらしてかへるあと。そばの人。白と黒とで碁いしのやうなあそびをして。
六段だの又十二段だのと。あの人ハ何ものでござります。金
そのはづさ。御宅が九段の上じや
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp