田舎芝居
《田舎芝居》

   ○三立目
芝居の内は開扇を見るごとく。舞台を以て要とし。先広に桟敷をかけ。舞台の上と桟敷の上ばかり。杉皮にて屋根を葺。 落間の上は青天井。切の処々に。大木立樹ぬんぬつと生てゐる。 桟敷は何れも中二階にて。間の仕切は簾を懸。前の手摺は新川の前垂の如くなりたる。 花毛氈を懸たるが。代官殿の役桟敷。引つゞいて文字入の打敷を懸たるが旦那寺の桟敷。其次に机懸の破れ毛せんを掛たるが医者殿の桟敷。 夫より外は花莞莚。渋紙。大風呂敷なんどを懸しもあり。花道は土にて築立。両方へ芝を敷。瞿麦。姫百合をあしらひて植付。 扨引幕は色いりにて。地獄極楽の躰想を染抜たるは。中条姫のお曼陀羅とも云つべし。

切落見物どれこびりの間にばりのうこいて来べい。○おらはこひのうぶんぬくべい。 ト居たり立たりする。中うりも木戸番の如く。あかね染のなげ頭巾。かわごのふたへくひ物をいれ。中売おこしごめやおこしごめや。 あめん棒やあめん棒や。○麦湯や麦湯や。ぶつたおれ餅やぶつたおれ餅や。あべかわもちの事。○稗団子や。もろこし団子。 ○濁り酒や。あま酒や。○握り飯や握り飯や。米の飯の握りめしや。本の飯のにぎり飯や。 見物コレコレこゝへひゑだんごのうくれさつせへ。○おれにはあめんぼうのう呉さつせへ。ト飴を買。 江戸のあめとはちがひ。いなかにてはもみぬかにてつめてあるゆへ。まつ黒なつめでこそげおとしてくふ。勘太あんでもでかい見物だ。 地頭屋敷へ強訴の来たやうだ。はいあくとがさわりますべい。よろさつしやりましよ。 とすはる。あくととはかゝとの事。与五一番しやじきが代官どの。二番しやじきが等行寺様。三ばんしやじきが伝龍様だ。 しかもおさじどのも来て居られら。代官様とおてら様とお医しや様ははや。 とごでも威光が強いは。角力も芝居も銭なしだト二人はそこらのさじきなど見まはしてゐる。 向ふの方にて何かこうろんの声がする。又六是孫作。さつきから百万陀羅いふこんだ。 なんぼ札を先へ取てはいつても。お身はおれが尻へ付べき筈だ。跡へさがつて見物のう仕めさろ。 孫作又六どの。そんな横車はやねへ物でおんじやる。又六無理も非道もござんねへ。お身が家筋は。 おらが曾祖父殿の代に。普代女郎のづばらんだ庭子だから。おらが先へたつべきはづじやござるめへぞ。 孫作亦六殿。わり様も地面の見て物な云なさろ。大飯振舞の座席た違い申す。 遊所で席論な入申さない。先へ這入たものが先に居べき筈でござらよ。 こか悪所でござりもす。又六ハテあく所も灰小屋も入申さない。此南鐙坂の村中では指折の又六だ。 等行寺様の正月参りにも。おらが箸をとらない内は。名のし殿でも。庄屋どのでも。一番汁粉の親椀の蓋のう。だれも明る事は成申さない。 代々大姉。代々居士の家柄だ孫作代々大姉。九年母大姉でもとんじやかござんねへ。 そりやへへ。場所と所に依たらいへ柄も入申べい。今の云通りこが遊所だ。 遠くて見づらくば早く来て前の方へ這入たがよくござるは。又六夫をおどれにならうべいか。孫さく知じや教ますべい。 ト二人とも声高になる。折からまくをあけて口上云罷出。口上東西東西。さて。 此所に置まして当村他村から役者色子へ下さつた。積物のかき付のう読上ます。しづかにしておきゝやりもし。東西東西。 トいへば桟敷も落間もひつそりとなる。当村方弥平次様団兵衛様より銭廿四文。 倉橋熊吉へ下さる。是で酒でも呑とつてへ。此とつてへをながくひいていふ。小泉村のお嚊様方より。ぼた餅一じきりやう。 手作の醴一とつくり。惣役者ども色子共へ下さる。よつぱら飲喰て働けとつてへ。 よつぱらとはしたゝかといふことすがた村吉蔵様の御隠居様より。絹紅二三尺。内山金三郎へ下さる。 越中褌にでも仕ろとつてへ。同温飩の粉一袋。桜川豊次郎へ下さる。是を顔へぬれとつてへ。 小泉村。稲葉村。山屋村。鉢村。千手町右五ヶ村のわかいしよ様方より。麦一かます。茄一籠。 かぼちや十。玉味噌五懸。葉煙草三斤。竹川三郎右ヱ門へ下さる。 随分かせいで働けとつてへ。当むら等行寺の和尚様より。線香五把。五種香一袋。松本浜次郎へ下さる。 衣裳母衣着をふすべろとつてへ。ぼろぎとはうちかけの事。同大海伝龍様より。枇杷葉湯百服。 暑気に当た役者どもにふり出してのめとつてへ。同お娘子様より花絞りの手拭一ひずづゝ。 桜川豊次郎。松本浜次郎へ下さる。是をかぶつてじよなめけとつてへ。山屋むら高井浦之介様より。酒一樽。 縮一端。銀一封。森山平助へ下さる。ずいぶんかせへでぎしめけとつてへ。同村わかいしよ様がたより。 寒生姜一袋。黒砂糖二貝。歌唄の富士田久兵衛に下さる。 是をねぶつてうたへとつてへ。この外にいなゝかさつせへた物は。又跡で読立ますべい。もはやこびりも済ましたから。 押付曾我兄弟対面のきやうげんのうはないます。左様におもわつしやりましよ。東西東西。

太字は原文枠囲み。以下同じ。

《田舎芝居》

   かけ合せりふ
曾我十郎  守山平介
同 五郎 内山金三良
夫桃栗三年柿八年。梅は酢とて十八年。けふ吹かへすあまぼしの。 かきたくる程肝玉が。焼て頬さが赤沢山。おらが親仁の河津殿。柏が峠で猪狩の。列卒に出られた帰り懸。椎の実取てくふ所を。 蜂に珍宝さゝしつめて。放いた矢さきがあやまたず。ふんぐり玉な射かぢつて。 横寐所へおつ立た疝気の虫な音を立て。ぐうとも。 すうとも云ばこそ。そのまゝそこで。おもいばおもいば。これ。 おもひ懸ない災難で。河津どなお死にやつた。車前草どのゝ御ともらひ。 土牛房を見るごとく。穴さ掘て埋込だ。夫から代々取付の。 掃除旦那の頼朝様。今は掃除をすけつね殿。糞附馬のうまうまと。人のかぶら菜引こひて。 漬大根迄納るげだ。圧のおもたい頬の皮。川津。宇佐美に。久津美の庄。合せて三の庄屋殿。 紋の庵にもつこうに。さゝへ込だる宝の山。宝の山へ入ながら。只は帰らぬ介つね殿。親の敵をうつ鍬柄。 天ぴつかりの天ぢよこを。てつぺんさへいたゞかぬ。仇矢は放さぬ此弓矢。腰の骨なぐつしやりと。 立たら大事かそつ首を。其儘取てとりおどし。さう思つてくんされと。二人 ホヽ敬て白
ヲヤがおつたこんだ。川づかへなしに能しやべつたコレ朝比奈殿よ。 あんまり誉さつしやるな。あんだかはや気味のわるい口上でごんざる。おらはもふいぎますべい。便気が付申た。虎少なつぽうでもはなし申さない。 ヲヽさうだぞ。もしかけ出いたら。褌の下りのう引たが能ぞ。コレ二人のせなごよ。ちつとも早く爰へ来て対面のうしろうしろ。二人呑込申た。 さらばそこへいぎますべい。ト本舞台へ直るヤレ鳥居先へよるな。せつかく掃ちぎつてある所が。藁簑のごみになるはよ。 ごみに成てもよくごんざる。すつこんで居めさろ。そこへねまつた二人の若者。ねまつたとは居る事先へ出ばつたはあんといふ。 舎兄の一万いつかく成て。曾我の十郎祐成と云申次に出ばつた甘塩は。前がみの事舎弟の箱王でつかく成て。 曾我の五郎時宗と云申兄祐成はお袋のまんかうに似て。ぼやらこく。弟の時宗は親仁の川津に似て。岩畳な生れ付だ。 親はなくてもがきつ子は育とやら。ハテでかばちなく大きく成たな二人介つね殿。二人の若しよ。 二人ハテめづらしい三人対面だな何と工藤どの。久しぶりでの参会だ。 二人のものに盃のうやつてはおくりやり申さぬか盃な仕申さうが。酒のう呑でやだをふんだら。大事だんべい。 ソリヤア気遣なござんねへ。此小林が受合申。幸腰へ付て来た。徳利酒がござる。サアサアぬしから始めなさろ。 ト腰付のびんぼう徳利に石ごきをそへて突出ス。そんだら辞義なしに始ますべい。慮外ながらついで呉さつしやりましよ。 トちやわんにうけて一口のみ。顔をしかめあたまをふり。さまざまうまきこなしありあんといゝ酒だつぺい。 自慢ではないが。おらが手造りだアヽいゝ酒でござる。近頃は不作でどこでも酒は造らないが。いゝたしなみでござり申。 祐成さし申さう。ヲヽト返事をして側へより。竹の子笠をぬぎ。茶わんを受。つゝとほし。舌うちをして工藤へもどす時宗。あんだ石ごきのうさつくれべへ。こゝへねまれ。ヲヽねまるべい。トつかつかと来て茶わんをうけ。三宝こわしの思入にて。石ごきをかぢりわるヤレハアあきれた肝癪だ見物ヨウヨウ五郎やつたりやつたり。もちつとぎしめけぎしめけ。とほめる。此所かけ合にて股野。川津。角力もの語りあれど。丁数の登るをいとひてもらしぬ。 時にはや余義ないむしんでござるが。二人の者に肴をはさんではおくりやり申まいか。わしもはさう思ひますが。 何も持合せ申さない。トそこらを見てよくござる。ト十郎がぬいだ笠を取あげ。片手には朱ざやの山刀を持十郎には竹の子笠。五郎には此山刀。是が肴だ。 つまみなさろ。ト二人つかつかとよつてうけとり。思入。十五アニ是が肴だとか。笠のうふせればふじの山。 半夏過ての竹の子笠。五月の末は駿河の国。富士の裾野の陣屋の内へ。夜這は仕付たおらゝが兄弟。簑笠かぶつて忍び込親仁の敵と名乗懸。すのこも通れと切付たら血はまつかいなさび刀。 此赤鰯の山刀で本望とげろといふことか。とてもの事だら今爰でヤレハアせつ込事はない。此場は別れて帰りなさろ。二人わかれづらい所だが。せう事がない。いぎますべい。 咄が有て来申たが。取紛て云ましない。是から内へ帰り道。咄しながらいぎますべい。サアいゝ道連が出来申た。行道筋は向ふの田の畔。 トいふせりふをきつかけに正面のすだれがばつたり落ると。見わたし二三里の天地自然の大仕かけ。是は江戸では出来ぬことなり。見ぶつ。ぶちぬきぶちぬきと云てほめる。ソレどこぞいゝ麦畠が有たなら。 ころげこんだがよくござる虎少朝比奈さ二人のおしやらく十五介つね殿二人のわかいしよ皆々さらばでござり申ト見へわるくならび先今日は是切でござりもふす。
打出し

物語・小説に戻る

坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp