好色一代男
《好色一代男上方版巻三》目録
好色一代男 巻三目録
《好色一代男上方版巻三》
恋のすて銀
世にすめバ。袴肩衣も。むつかし。人の風情とて。朝毎に髪ゆハするも。こゝろに懸れバ。十徳にさま替て。昔しハ男山。
今こそ。楽阿弥と。八幡の。柴の座といふ所に。たのしミを極め。東に三十万両の。小判の内蔵を造らせ。
西に銀の間。枕絵の。襖障子。都よりうつくしきを。あまた取よせ。誰おそるゝもなく。或時ハ。はだか相撲。
すゝしの腰絹をさせて。しろきはだへ。黒き所までも。見すかして。不礼講の。ありさま。是成へし。
此人もとハ。若狭の小浜の人也。北国すぢの。舟つきのたはれ女。敦賀の遊女。のこらず見捨て。今上がたにすみぬ。
世之介勘当の身と成て。よるべもなき浪の声。諷うたひと成て。交野牧方。葛葉にさし懸り。
橋本に。泊れバ。大和の猿引。西のみやの。戎まハし。日ぐらしの。歌念仏。かやうの類の宿とて。同し穴の狐川。
身ハ様々に。化るぞかし。此所も。売子。浮世比丘尼の。あつまり。朝にもらひためて。夕に。みなになし。
のこる物と。て。古扇あミ笠引かぶり。放生川をわたりて。常盤といふ町に入て。竹一村の奥に。ちらりと。お寺扈従の。みえける。
爰ハと里人に。たづねければ。歴々のあそひ所と。かたるさてハ。うたひハかたし。我ふり捨てと。らうさい。一拍子あげて。
忠兵衛がゝりに。しおり戸より。声もおしまずうたへバ。耳かしこき人。たゞならぬうたなり。それをと。やうすを見るに。
公家の。おとし子かと。おもハれて。賤しきかたちに。あらず。つかひ崩して。親にうとまれ。
こらしめのために。かゝるなりさまぞと。京近くに。すめる。人の目もはつかし。おりふし。楊弓はしまりて。
おのおの。やうやう。朱書くらいに。あらそハれしに。或御かたの。道具を借て。取弓取矢にして。四本はつれず。
一筋ハ。切穴に。通れバ。座中目を覚して。なを所望するに。数あり。去御方ハ。琴をなをして。爪のなきを。ほいなく。おほしめしけるに。
かすかなる。ふところより。うすむらさきの。服紗物より。瞿麦の。紋所ありし。爪出して。若御指に。あひ申べきやと。たてまつりける。
是ぞ泥中より。玉の光かと。おもハれて。其後言葉も替て。しばらく。此里にととゞめ。明日京都へ。女をかゝえにのぼり侍る。
いざ同し道にと。誘へば。有増やうすも。覚侍る。そもそも。京ハきよく。少女の時より。うるハしきを。
はゆげに。むしたて。手に指かねを。さゝせ足にハ。革踏はかせながら。寝させて。
髪ハさねかづらの雫に。すきなし。身ハあらひ粉絶さす。二度の喰物。女のしつけ方を教え。はたに木綿物を着せず是に。
したつる事ぞかし。おのつからの。女にハ。あらず。これに。そなハりし女ハ希也。当世女ハ。丸顔桜色。
万事目ずきにと。御幸町の。甚七かかたに行て。西国の御用と申なし。年の比ハ。はたちより。二十四五まて。
勝れて姿絵に。あハすと。申わたせバ。此ばゝ触なして。其日七十三人。或ハ乗物にて。はした。腰もと召連。
おもひおもひの。着ながし。もろこしの花いくさも。是成へし。中にも柳の場々の。縫箔屋の。おさつといへるを。捨金百五十両。
世之介にも。七条の笠屋のお吉。おとらず抱させて。宿にも十分一の外。満足させて。けふ吉日の。都がへり。万の自由ミやこなれや都
のこる物と。て。…読点原文のまゝ。
さて…原文傍点あり。
《好色一代男上方版巻五》目録
好色一代男 巻五目録
(中略)
| | 卅六歳 | ねがひの掻餅 大津柴屋町の事 |
| (中略) | |
| 卅九歳 | 一日かして何程が物ぞ 泉州堺ふくろ町の事 |
《好色一代男上方版巻五》
ねがひの掻餅
三井の古寺。つかひ捨るかねハあれど隙なくて。終に柴屋町をみぬ事新し。昔し長柄の山の芋が。
になるとやもしも替つた事のあれバなり。
いざゆかん心得たと白川橋より。大津へのもどり駕篭に。のつたりや勘六。是ハ俄に。ゆくも帰るも。はや八町に着バ。
泊りじや御ざらぬか。広ふてきれいな宿をとりて。なんと女郎衆。今爰ではやるハ誰じやと問へば。石山の観音様が。時花ますといふ。
さても人を見立るやつかなと。其後亭主にあふて。傾城町の案内頼むと申せば。是ハ無用になされ。六匁や七匁でハたらぬといふ。勘六歯切をして腹を立。
忍べハこそ供をも連ず。風俗も野躰にて出しにと。滅多せきにせくを。世之介笑しがり。我に預た。金子出して見せひと。笑ふて居る。
臺所にハ大声をあげて。今夜ハ傾城買様の御泊りじや抔と。勘六を見てハ。指ざしして笑しがる。
世之介も今ハ堪忍ならず。表に出れバ。京より結構成いせ参があるハと。門立さハぎ。踞物をみるごとくぞかし。
大坂の黒舟といふ乗懸馬。伏見の漣浪。淀のはんくハい。かれ是三疋揃て。七つ蒲団を白縮緬にしめかけ。
馬の沓にも唐糸をはかせ。何れも十二三成娘の子。四ッ替の大ふり袖。菅笠に紅裏うつて。なひませの紐を付。
其時ハ小室ぶしの最中。宿入にうたひて。馬子も両口をとるぞかし。世之介を見るより。申々と抱おろされて。
三人ながらしなだれて。お伊勢様へまいります。かたさまハ何として。爰にハ御ざります。勘六が女郎狂ひの太鞁を持にきたが。
あたまかいたひうてとあれバ。独かしらひとりハあし。独ハ御腰をひねる。しばらく我宿へハゆかず。其柴屋町を見せさんせ。
下向してから。太夫様に咄しのたねにもなります。見物したひといふ。さらば連てゆかんとて。三人さきに立て。南の門に入ば。
都に近き女郎の風俗も替りて。はし局に物いふ声の高く。道ありくも大足にせハしく。
着物も自堕落に帯ゆるく。化粧も目たつ程して。よしあし共に三味線をにぎり。頭をふつてうたひける。
立よる者ハ馬かた。丸太舟の水主共。浦辺の猟師。相撲取鮨屋のむすこ。小問屋の若き者。恋も遠慮もむしやうやミに。
見しりごしなる悪口。或ハ小尻とがめ。又ハ男だて。一町に九所の喧嘩。ふむのたゝくの頭巾を取の。
羽織が見えぬのと。只さハがしくさばき髪して。片肌ぬぎ。懐にはなねぢ。手に白刃取。此所の色町を。闘の場にするぞかし。
命しらずの寄合。身を持たる者の夜ゆく所にあらず。しるべある揚屋に。兵作小太夫虎之助などあつめて。面白う遊びて。
其あけの日ハ。禿共が立酒。さいはい関送りとて。隔子の女郎ひとりも残さす。一日買とふれをなし。
御三寸過し酔のまぎれに三人の禿が何にても。道中望にまかせて。まいらすべしおもひおもひにこのめといふ。
太夫様から万に御こゝろ付させられ。ひとつも此上に。願ひの事もなし。され共乗懸あとさきに隔り。
こゝろのまゝ咄しのならぬ事気のどく也。三人一所に昼も寝ながら。手づから掻餅を焼て。それをなぐさみにして。ゆく事ならばと申す。
それこそ何よりやすき望なれと。即座に乗物弐ちやうならべて。中のへだてを取はなち。釘
にてとぢ合。中に火鉢を仕懸。
角に棚をつらせ。枕屏風手拭掛まて入て。六尺十弐人すぐりて。ちいさき家のありくがごとし。何事もなればなる物ぞかし
《好色一代男上方版巻五》
一日かして何程が物ぞ
堺の浦の桜鯛。地引をさせて。生たはたらきを見せんと。京にて明くれ。山計詠居る松社召連。津守の神やしろ過て。北のはしにいれバ。
高洲の色町中の丁。袋町に着て。かれ是よせてみるまでもなし。あたま数よびて。いくらが物ぞ。天神小天神とせちがしこくきハめぬ。
二階座敷に品を定め。酒もいまだ末ずへにハまハらぬ内に。かづらき様ちよつと。借ませうといふ。
はや立て行。又女出て。高崎様と呼立る。座につけバ。入替り立替り。一時程のうちに。七八度宛かす程に。
さてもはんじやうの所ぞ。馴染の客数も有かと。下を睨けば。物をいふ男もみえず。手枕して。煎じ茶がぶがぶ呑尽し。
あくびしてハあがり。おりてハ浄瑠璃本など読。何の用もなきに。一座をさましぬ。此里の習ひにて。
たびたびかしに立事を。全盛に思ハれけるとみえたり。よろづかぢくろしく。あたら夜終新三十石に。
乗合のこゝ地するなり。足をのばせバ寝道具みぢかく。蒲団ハひえわたる。なんと世之介様。旅の悲しさを。
よく御合点あそばして。京の女郎様の。御気に入やうに。あそばせといふ。いかにも此浦のしほを踏で。
老ての咄しにもとおもふぞ。寝覚のきづかひさに。人にはだをゆるさず。帯仕なから寝入とあれバ。
同し枕の友ども。一人ハ硯引よせ。家の差図を書て居る。又一人ハ。只居よよりハと寝ながら。
編笠の緒こしらえける。独ハ象牙の掛羅より。もぐさを取出し。三里にすえて
をしかむる。女郎ハ女郎でかたより。
更ゆくまで。糸取手相撲して。折ふしハ眠。きのどくなる夜の明るを待ハ。そのまゝ籠り堂のごとし。
面白からずとて。此所にても。口きくほどの若き人。新町に手あひを拵え。ためて置て一度に。島原で。
遣ひ捨る事尤也。傾城狂ひのしまつと。下手に月代剃すほど。世にいやなる物ハなし。きたなきかこひするも。
切売の女に。よい。着物をきせて見るも。同し事ぞと思ふ。一文惜ミの。四十六匁をしらず。唯一度にても。
太夫の寝姿を見るべし。色の替りたる紅裏。際づきし
布をせず。よごれたる枕に。たよらず。さりとてハ。
大きに違ひのあるものなり。されば田舎の人。適々の遊興は是非なし。定宿をきハめ。大臣といはるゝ程の人。
いかなる者か寝息とめし。其跡を肌馴るゝ事。すこしのこゝろをつけず口惜き事也。去人京にて。丸屋の七左門方に。
梨子地の塗長持に。定紋を付て。四季の寝道具とゝのえて。枕箱煙草盆其外うつハ物。水呑まできよらかに。
あそばしける。何か奢にあらず。思へバ大事の御身なれバ。世之介様にも。是程の事ハとかたりぬ。まことにさる太夫に。
わけもなき病人のあひけるに。又の日ハ。檜扇をもたせらるゝ程の御かたも。それまでハあらため給ハず。
我都に帰たらバ。分別があると。数長櫃をこしらえ。遊女参会。入程の諸道具をいれて。ゆくさきさき。もたせ侍るとなり
七左門…七左衛門。
《好色一代男江戸版巻三》目録
好色一代男 巻三目録
《好色一代男江戸版巻三》
世にすめバ。はかまかたきぬも。むつかし。人のふぜいとて。あさことにかミゆハするも。心にかゝれバ。十とくにさまかえて。
むかしハ男山。今こそ。らくあミと。八はたの。しばの座といふ所に。たのしミをきハめ。ひがしに三十万両の。小判のうち蔵をつくらせ。
にしにぎんの間。枕ゑのふすましやうじ。都よりうつくしきを。あまた。取よせ。たれおそるゝもなく。或時ハはだかすまふ。
すゝしのこしきぬをさせて。しろきはだへ。黒き所まで。も。見すかして。ぶれいこうの。ありさま。是なるべし。
此人もとハ。若狭の小はまの人なり。北国すぢの。ふなつきのたハれ女。つるがの遊女。のこらず見捨て。今かミがたにすミぬ。
世之介勘当の身と成て。よるべもなき。浪のこゑ。諷うたひと成て。かたのひらかた。くすハにさしかゝり。
はし本に。とまれバ大和のさる引。西のミやの。ゑびすまハし。日ぐらしの。うた念仏かやうのたくいの宿とて。同じ穴のきつね川。
身ハさまさまに。ばかするぞかし。此所も。売子浮世びくにの。あつまり。あしたにもらひためて。ゆふべに。みなにし残る物とてふるあふぎ。
あミがさ引かぶり。はうせう川をわたりてときハといふ町に入て。竹一村のおくに。ちらりと。お寺こしやうのミへける。
爰ハと里人に。たづねけれバ。れきれきのあそび所と。かたる扨ハうたひハかたし。我ふり捨てと。らうさい。一ひやうしあげて。
忠兵衛がゝりにしおり戸より。こゑもおしまずうたへバ。ミゝかしこき人。只ならぬ。うたなりそれをと。やうすを見るに。
公家のおとし子かと。おもハれて。賤しきかたちに。あらず。つかひくずして。おやにうとまれ。
こらしめのために。かゝるなりさまぞと。京ちかくに。すめる人の目もはづかし。おりふし。やうきうはじまりて。
おのおのやうやう朱書くらいに。あらそはれしに。ある御かたの。道具をかりて。とりゆミ取矢にして四本はづれず。
一筋ハ。きりあなに。通れバ。座中目をさまして。なをしよもうするに。かず有。さる御かたハ。ことをなをして。
つめのなきを。ほいなく。思召けるに。かすかなる。ふところより。うすむらさきの。ふくさ物より。なてしこの。
もん所有し。つめ出して。若御ゆびに。あひ申べきやと。たてまつりける。是ぞでい中より。玉のひかりかと。おもハれて。
其後言ばもかへて。しバらく。此里に。とゞめあすハ京都へ女をかゝえにのぼり侍るいざ同し道にと。
さそべハ。あらましやうすもおぼへ侍る。そもそも。京ハきよく少女時より。うるハしきを。かほは。ゆげに。むしたて。
手にゆびがねをさゝせ。足にハ。たびをはかせながら。ねさせて。かミはさねかづらのしづくに。すきなし。
身ハあらひこたへさす。二度のしよく物。女のしつけ方をおしゑ。はだに木わた物を着せず是に。
したつる事ぞかしおのづからの。女にハあらず。是に。そなハりし女ハまれ也たうせい女ハ。丸がほさくら色。
万事目ずきにと。御幸町の甚七がかたに行て。西国の御用と申なし。年の比ハ。はたちより二十四五迄。
すぐれて。すかだゑに。あハすと。申わたせハ此ばゝふれなして。其日七十三人。或ハ。のり物にて。はした。こしもと召つれ。
おもひおもひの。着ながし。もろこしの花いくさも。是成べし。中にも。柳のばゝのぬいはくやのおさつといへるを。すて金百五十両。
世之介にも。七条のかさやのお吉。おとらずかゝへさせて。宿にも十分一の外満足させ。けふ吉日の都帰。万自由都なれや都
さそべハ…さそへバ。
ゆげに…原文「に」にも濁点。
すかだ…すがた。
《好色一代男江戸版巻五》目録
好色一代男 巻五目録
(中略)
| | | ねがひのかきもち 大津しバや町の事 |
| (中略) | |
| | 一日かして何ほどが物ぞ せんしうさかいふくろ町の事 |
《好色一代男江戸版巻五》
三井のふるてら。つかいすてるかねハあれどひまなくて。ついにしばや町をみぬ事新し。むかしながらの山のいもが。
うなぎになるとや。もしも替つた事のあれバなり。いざゆかん。心ゑたとしら川はしより。あふ津へのもとりかこに。のつたりや勘六。
是ハ俄に。ゆくもかへるも。はや八町に着バ。とまりじや御ざらぬか。ひろふてきれいなやどをとりてなんと女郎衆。
今こゝではやるハたれじやととへば。石山のくハんおん様が。はやりますといふ。扨も人お見立るやつかなと。其後ていしゆにあふて。
けいせい町のあんない頼むと申せば。是ハむようになされ。六匁や七匁でハたらぬといふ。勘六はぎりをして。はらを立。
しのべハこそ。ともをもつれず。ふうぞくもやていにて出しにと。めつたぜきにせくを。世之介おかしがり。我に預た。
金子出して見せいと。わろふてゐる。だい所にハ大こゑをあけて。今夜ハけいせいかい様の御とまりじやなどと。勘六を見てハ。
ゆびさしして笑しがる世之介も今ハかんにんならず。おもてにいづれハ。京よりけつこうなるいせ参があるハと。かど立さハぎ。
ねり物をみるごとくぞかし。大坂の黒ふねといふのりかけ馬。伏見のさゞなミ。よどのはんくはい。かれ是三疋そろへて。七つふとんを白ぢりめんにしめかけ。
馬のくつにもから糸をはかせ。何れも十二三なるむすめの子。四つがわりの大ふり袖。すけがさにもミうらうつて。なひませのひぼを付。
其時ハこむろぶしのさい中しゆくいりにうたひて。馬子も両口をとるぞかし。世之介を見るより見るよりとだきおろされて三人ながらしなだれて。
おいせさまへまいります。かた様ハ何として。爰にハ御ざります。勘六が女郎ぐるいのたいこをもちにきたが。
あたまかいたいうてとあれバひとりかしらひとりハあし。ひとりハ御こしをひねる。しばらく我宿へハゆかず。
其しば屋町を見せさんせ。下かうしてから。太夫様にはなしのたねにもなります。けんぶつしたひといふ。さらバつれてゆかんとて三人さきに立て。
みなミの門に入ばミやこにちかき女郎のふうぞくも替りて。はしつぼねに物いふこゑの高く。道ありくも大足にせハしく。
きる物もじだらくに。おびゆるく。けしやうも目だつ程にして。よしあし共にさミせんをにぎり。ずをふつてうたひける。
立寄ものハむまかた。丸太ふねのかこ共。うらべのれうし。すまふとりすしやのむすこ。こどい屋のわかき者。恋もゑんりよもむしやうやミに。
見しりごしなるわるくち。あるいハこじりをとがめ。又ハ男だて。一町に九所のけんくわ。ふむのたゝくのづきんを取の。
はおりが見えぬのと。たゞさハがしくさバきがミしてかたはだぬぎ。ふところにはなねぢ。手にしらはとり。此所の色町を。いさかいのばにするぞかし。
命しらずのより合。身お持たるものゝ夜ゆく所にあらず。しるべあるあげやに。ひうさく小太夫とらの介なとあつめて。
おもしろうあそびて其あけの日ハ。かぶろ共が。立酒。さいはいせおくりとて。かうしの女郎ひとりものこさず。一日がいとふれをなし。
おミき過しゑいのまぎれに三人のかぶろが何にても。道中ののぞミにまかせてまいらすべしおもひおもひにこのめといふ。
太夫様から万に御心付させられ。ひとつも此上に。ねがいの事もなしされ共のりかけあとさきに。へたゝり。
こゝろのまゝ咄しのならぬ事きのどくなり。三人一所にひるもねながら。手づからかきもちをやいて。それをなくさみにしてゆくことならバと申す。
それこそ何よりやすき。のそミなれと。そくざにのりもの弐ちやうならべて。中のへだてを取はなち。くぎかすがいにてとぢ合。中にひばちをしかけ。
角にたなをつらせ枕びやうぶ手ぬぐいかけまでいれて。六尺十二人すぐりて。ちいさきいゑのあるくがごとし。何事もなれバなる物ぞかし
いざ…「ざ」は原文半濁点。
《好色一代男江戸版巻五》
堺の浦の桜だい。ぢびきをさせて。いきたはたらきを見せんと。京にてあけくれ。山ばかりながめゐるまつしやめしつれ。
つもりのかミやしろ過て。きたのはしにいれバ。高すの色町中の丁。袋町につきて。かれ是よせてみるまてもりなし。
あたま数よびて。いくらか物ぞ。天神小天神とせちがしこくきハめぬ。にかい座敷に品を定め。酒もいまだすへずへにハまハらぬ内に。
かづらき様ちよつと。かりませうといふ。はや立てゆく。又女出て。高崎様とよび立るざにつけハ。
入替り立替り。一時程の内に。七八度宛かず程に。さてもさてもはんじやうの所ぞ。なしみのきやく数もあるかと。
下をのぞけバ。物をいふ男もみえず。手まくらして。せんじ茶がぶがぶのミつくし。あくびしてハあがり。おりてハじやうるり本なと読。
なにの用もなきに。一座をさましぬ此さとの習ひにも。たびたびかしにたつ事をぜんせいに思ハれけるとみえたり。
よろづかぢくろしく。あたらよもすからしん三十石に。のりあひのこゝちするなり。足をのばせハね道具みぢかくふとんハひへわたり。
なんと世之介様。たびの。かなしさを。よく御がてんあそバして。京の女郎様の。御きに入やうにあそバせと云。
いかにも此浦のしほをふんで。おいての咄しにもとおもふぞ。ねざめのきづかひさに。人にはだをゆるさず。
おびしなからね入とあれハ。同し枕の友とも。一人ハすゞり引よせ。いゑのさしづをかいてゐる。一人ハ。
たゞゐよよりハとねながら。あミかさのをこしらへける。ひとりハざうげのくわらより。もくさを取出し。
三里にすへてかほをしかむる。女郎ハ女郎でかたより。ふけゆくまで糸とり手ずまふして。おりふしハねふり。
きのどくなる夜のあくるをまつハ。そのまゝこもりだうのことし。おもしろからずとて。此所にても。口きく程のわかき人。
新町に手あひをこしらへ。ためてをいて一度に。しまバらでつかいすつる事尤也。けいせいくるひのしまつと。
へたにさかやきそらする程。世にいやなる物ハなし。きたなきかくひするも。きれ売の女に。よい。きるものをきせて見るも。
同し事ぞと思ふ一文おしミの四十六匁をしらず。たゝ一度にても。太夫のねすかたを見るべし。色の替りたるもみうら。
きハつきしきやふをせす。よごれたる枕に。たよらず。さりとてハ。大きにちかひのあるものなり。されハいなかの人。
たまたまのゆうけうハせひなし定宿をきハめ。大臣といはるゝ程の人。いかなる者かねいきとめし。其あとをはたなるる事。
すこしの心をつけずくちおしき事也。さる人京にて。まるやの七左衛門かたに。なし地のぬりなかもちに。
でうもんを付て。四季のね道具とゝのへて。枕箱たはこほん其外うつハもの。水のミまできよらかにあそバしける。
何がおこりにあらず。思へば大事の御身なれハ。世之介様にも。是程の事ハとかたりぬ。まことにさる太夫様に。
わけもなきひやう人のあひけるに。又の日ハ。ひあふぎをもたせらるゝ程の御かたも。それまてハあらためたまハず。
我ミやこにかへりたらバ。ふんべつがあると。かずながひつをこしらへ。遊女さんくわい入程のしよ道具をいれて。
ゆくさきさき。もたせ侍るとなり
みるまてもりなし…みるまてもなし。
七八度宛かず…七八度宛かす。
かくひ…かこひ。
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp