傾城仕送大臣
《傾城仕送大臣巻之四》目録
憂世ハ爰と流渡りのひがし川
楠もおよぶまじ色にハ扇方が智謀
釣れ女雪がこんたんのばけ姿
《傾城仕送大臣巻之四》
憂世は爰と流渡りのひかし川
推も及まじ色にハ扇方か智謀
釣レ女雪がこんたんのばけすかた
推な時節の人心。貴もいやしきも。此道にまよふと。能ハ呑込て。それそれの姿に色を替品を替。像に恋をふくませ。
ぼつとりと仕かけ。釣れに出るなと云事。又田舎にしらぬ面影。京大坂にさへ。かたきおやぢハ。此訳を呑込す。
当世の推中間に替ても。面白かる事ぞかし。それにさへ似せ出来て。様々にたふらかし。跡ハぢやくやと。
金子にする業をこかしと云。又男有りと。ねだりかゝるをつゝもたせとハ申ぬ。中むかしの此楽ハ。大かた御所かたの女にて。
壱年に一度二度のいとまをもらい。祇園清水を心かけてまいれは。色このミのおとこ。言云かけて袖をひかへ。
跡や先やと連に成りて。四方山を語り。豆腐茶や。けんとんやへともなひ行て。憂をはらす。女によりて其日の払を男にかまハせす。
又のゑにしをやくそくして。伽羅なとを来れる。男あまりのかたじけなさに。末にて夫婦にならん事をくどけバ。
いわれある身にてさやうの事ハならず。御名ハと問へは。さんとのミ云捨て。実をいはす。夫より帰るをいふかしく。
むりに送れハ小宿有て立寄。乗物に乗て。下女数多召連。黒羽きたる侍三四人。対のはさミ箱にて帰る。
男見るに驚て夢の心地す。又町方の下女藪入なとする折節。道連になりて世の面影をかたり。それより小宿へともない行。
面白く酒のミてあそふ。此俤ハ金子に心をよせず。たがひにうとんげとたのしミ。重ての御ゑんとわかれゆけども。主人の所をかくしぬ。
其外友達の妹或ハ小娘。こんたんの物参りに。人目をしのひ。心のたけを通して。沙汰におよぶ事なし。
此風流に出合たる男ハ。傾城におもひ替。野郎に見返て。此道を心掛。昼夜工夫して東山辺に出る。一切の好色皆此うつりにして。
何たる事も調ぬと云事なし。誓願寺前の小吉と云し男ハ。五三人も連有女を。望次第に引わけて釣ル。
さめかいの重次と云し男ハ。たとひ夫有女にても。連か供なく。ひとり歩行する女なれハ。釣ぬと云事なし。
又日暮に。扇方と云し男ハ。此楽に妙を得。広き都にかくれなき男なりしが。家来の者をようたん坊に仕かけ。
釣んとおもふ女にぬれかけさせ。とかく手あらく道の邪魔をすれバ。女うるさくかなしミて。色々に断を云。わび言すれども聞入ず。
後ハけんくわすべき色をあらわせバ。前後のなんき此時に極つて。わなわなしてたゝすむ所へ。扇方来て彼女が前へ立ふさがり。
それがしが妹なるに。何者なれは慮外を働ク。弓矢八幡かんにんならず。悪くのさバり怪我まつるなと。
大の眼に角を立。弐尺壱寸短気ミじかしと。さいたる脇指をひねくりまハせば。此いきほいに恐れをなし。酔たんほう逃さまに。
いわれぬ力ミをする奴かな。おのれ今におもひしらせんと云ハ。ひきやう者にげすと勝負をせぬか。きたなし戻せと。
脇指をぬき追ちらし。きりゝきりゝとあたりを見まハし。竹島幸左衛門が身振のことく。実方の真正中。さふもあるまひおぼへたかと。
もとの所へ立帰。扨々御なんぎにかにか敷。あまり見かねて只今の仕合と云ハ。女ハ夢の心地。おもハずもなミたをながし。
扨々たのもしき御方様。御礼の申やうなし。帰ましたらば。此有様を。こちの人に申きかし。急度御礼にしんぜましやう。
所ハいづくお名ハなにと申ますといへハ。扇方打わらひ。いやいや御礼におよばぬ事。言葉の末のきつかハし。
迚もの事にお宿まて送りませふと。手を引て連立行。小宿へよせて。気はらしにとて酒をすゝめ。どふやらこうやら。くときおとし。
近所まで。おくり捨。さらハさらハのそれじまい。たくめハ智謀楠扇方。いづれおそろしき事にこそ。爰にほんと町の雪と云し女。
はしめハ色茶や風呂屋の勤をし。黒白の訳しりなりしか。卅にあまる
の皺。よいのばし人ありて。
勤を引。かろき世帯の張箱屋をして暮せしが。去子細有て男と離別し。独住して居たりしが。日行のいとなミに術を失ひ。
むかし仕なれし三重の帯。後家風に仕替て。毎日東山のほとりを。釣れに出て渡世とす。また物なれぬわか武者。
幾人と云数をしらず。組打に金をとられ。二度こりて物をも云ず。中にも。新町の舛と云しおとこ。彼が智謀をのミ込で。
ひたすらちなミ推をふるう。雪もきこゑし手たれ。あちらハ大兵此方ハ銘人。吉片兵庫か行司にも見分られぬ勝負。
八十八手を尽すむなやぐら。相摸こふじて。仕送る。
一 ぬり笠 一 すけ笠
一 ひらりぼうし 一 きせる筒たはこ入
一 ふさ長の珠数 一 黒鼻緒のせつた
一 一切日用の諸式
右の外時々の入用。何事かゝぬ様にして。壱年拾壱両弐歩にて済事也。此後ちと物のいらぬ談合仕かけて。
又かゝる人あらは釣れて其訳を立へしと。我にしたかふ友達をかたらひ色々に談合し。比日毎日芝居辺を歩すに。
当正月山下が初狂言面白しと。洛中こぞつて見物す。其折から雪も仕出して見に行ぬ。輪違屋か場に居たる人四五人有。
中に廿七なる男。こさかしき生れ付なるか。雪が方へ盃をさし。菓子肴など送りてなふりかけ。もはや手に入たると見えて。
三番続中の狂言。中入よりそつと立てゆきと打連木戸を出しか。後の訳ハしらず。心もとなきおもかげ
相摸…相撲。
物語・小説に戻る
坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp