傾城辻談議
《傾城辻談議》名寄

傾城勧進相撲の金元男
    柏木 同一文字や七郎兵衛

《傾城辻談議巻二》

  世渡りハ草の種露の棚さがし
    ちり紙ハ米に成に役に立ぬのべ
    花に啼鶯ハ太鼓持に禁句
柳ハみどり。花ハ紅としるからハ。此まよいも有ましき事なるに。くり返しくり返し。同しうき名に幾度かんとう得ても。 恥とおもわぬ人心。能々あつき生れ付。いづれ一皮や二皮の人にハなしと云へハ。推かな推かな参河の生と云。 よろづこれに准じて。ミな同し移りとあきれはてたるおかしさを。誰にかたるまでもなく猶笑の影法師とハなりぬ。 むかしハしらず当世の気のさかしきを。釈迦も御ぞんじなけれバこそ。かるたにまじりてはづかしき面かげ。 我のをるゝ世界とハ此時なるべし。されバこそ大臣よりよねをたくし。末あけてのたのしミなどゝ。山のあなたのさか様事。 傾国をはなれての遊里。皆此たのしミにまよひ。からき勤をわすれて。一生連合夫婦の心地する事ぞかし。 偽言ハまことゝなり。実又いつハりとなるも。此訳のひとしからぬおかしさ。男の心ハ夜に三度。川の瀬かわるよりはやしなどゝ。 口たハことに云口の下よりたらされて。勤半に欠落をし。そひ果もせぬ道芝の。心中しておしき命を。何ともおもわぬも浅ましき女心。 よふハ思ひ切事と。舌をふるハすかたかたも。又死る談合ひそひそとする。いわれをつくづく算用するに。黄なる物のたらぬからおこるわざなり。 清水のくわんおんさまに立願しても。金ハならぬ外の望ならば。かなへてとらせんとの御夢想。是ほど実ハ又あるまし。 されば世界の貧福。神仏も力およバぬと見へて。大な仏に貧な□たし。一寸八歩の御長に福力円満なる中。 たとへて何といわつゝじ。皆雨露のめぐミのしぜんの道理。それなれバこそこれほど多き遊君。かたちひとしからぬ相応の大臣。 よふハ拵てあまらぬ所が。われ鍋にとぢぶた。出雲のやしろの御苦労のしるしとハ申ぬ。傾城客に実を語遊女客にまハると云も金通のまよひかく也。 禿仕立る借銭。付届ケの残り銀。呉服屋小間物や。八百屋にぞかぎりぬ。田舎客に。紅の裏付て道すがらの御肌添などゝ。 文書て送れば。たゝはかへらぬ男のぎり合しまつ第一の虱大臣も。壱歩廿とハ気をはり。有馬見まいの源氏菓子。 たばこのはこ入。木ねり柿のかへしさへ。色奉書に人形筆。壱歩十とハ定器の椀て食喰ほどの客ハ。太鼓なしにも知ならひ。 誰おしゆるともなきに。時節時節の人心。よふハそろふて男のたえぬ事と。中むかしのあげ巻が名言ぞかし。 又茶店風呂屋の付届も。心ハ同し通ひ男。宿の首尾悪敷とおこたり。さんさん気色すくれぬなと偽りて。月代を長く見せかけて。 心にそまぬ如在ハ。此ほどかり口たへて。いんつうのまハらぬからなり。よねも大かたそれとばかりに合点しなから。 わざと気をつけず。親方の手まへのしゆびよきに取つくろふハ。此おとこに恋ありてまぎらかすにハあらず。 給分にひかれ。或ハ勤の日をかねだけおくらるゝかなしさに。神にいのりをかけまくも。鐘の緒一筋は高のしれたる五匁の費。 くゞれ一六打手の一ツと。さばけるおもかげ駕籠の仁兵衛が取次して。つまる所か。木綿屋の助治の御そんとなる事ぞかし。 親ハ一生あをつてもふけ。子ハ五三年の栄花にほつく習ひ。上ハ大臣下ハ与助が宿ばいりまで。同しおもひに相応の色にもまれてうき目にあふ夜ハ扨も笑止やと。 くやむおやちも下女にはらませ。かこひ者の賄にかしらをいたむるならひ。是かうき世の実あらハれて云にいわれぬおもしろき所。 一生の夢のさめ口と。又釈迦のじまんの出所ぞかし。八万余経の其中に。ぼんじかん字和字てんじ。一億余千の文字を考。四十七字の五音通用のかなと云る物を拵。 女子に施して。まいらせ候と恋をふくませ。まいらせ候と命をすてさせ。過しゑにしに身躰をたゝませ。 いちのわるい空海としかられまいとて。女人につかいの山にこもり。多くの人におもひをかけ。あまつさへ児童をいやがらせ。 一ツとしてよい事なきほどこしにや。かわりにいんつうのとれる。野郎のはやるもひミつのでんじゆと。 ありがたき心から。夢明の橋の渡り初して。目をさまし。おごらぬよすがに筆染て。精進日の。びく尼まで。それそれの十楽世界一ツかけたるあハれも。 又有所ハ山を重て目出度有様。腹のたつほどかせげハ。貧乏神の足のおそさ。金左衛門と名を改めても。野良つく門にたまる借銀。 座せんの徳ハ。古借銭をおもひ出す為と。達磨八九年面へきして。見せしめとハなしぬ。かゝる貴き世に生。たまたまうけがたき人身を請。 あいがたき太夫の道中に逢ながら。いたづらに暮す事のあさましさと。おもひすごして遣果す族も有べし。阿房宮に三千の后をならべ。唐土にかくれなき栄花も。 今の都にハはるかおとりてぞ覚ゆ。高を七十六匁と覚へて。下ハ五分に至るまで。己が酒きげんにまかせて。 心のごとく水のながるゝにひとし。一昼一夜の楽ミをさらバと云て取繕ハヾ。五貫二百目より内にてハ調ぬ事ぞかし。 さるを心の苦労なく。又おのがまゝなる遊興。外をはバからぬ手鼓に。御用木と云る小うたを。調子はづれて。 辰巳揚りにやり放せバ。わるい所が大尽の面影と。はやし立たるはつミ次第に。一角取るを和哥の浦とも。摩姑仙人とも通言して。 大鼓の翫わざとハなりぬ。又去比より鶯と云る事有り。故ハ花を見て啼と云訓いかなるいわれぞと問へハ。 弐朱に成たるかなしミと申ぬ。勿躰なくも只取山の時鳥。うつけのあれはこそ我々が。屋ハ龍田の薄紅葉と。ゑびす棚の鈴の緒に。 紅ぢりめんの下帯を。直にかくるも正実の目からハ。けふさめて見まハせば。御酒徳利の口に。のべ。半紙。ちり紙。もミ紙。引さき紙。 品々を云付。残らず紙のはしに。あかき緒を付ケ。ひな鳥と書付。灯をかゝげて。本推の金神様参と書たる短冊壱枚。張付て有り。 読て見れ
  歳旦
 今朝や春山吹色の薄けしき 酉年男
と。墨黒に書るもおかし。扨徳利の紙の店おろしゝて。夫婦さん用をするを聞ハ。右の徳利にのべ紙三枚。 壱枚ハ花さき様のお客。松様のはづミ。是ハいつとても仙人。又壱枚ハ静様の御きやく。時様の中直りの御祝儀。 捨ても孫と算用して。違なし。壱枚ハ伏見大蔵様の御客柏様の露。是ハちと心元なし。酔たんぼうのあだ花。 其夜の数が見事過たれば。のミこまぬながら。鼻もかまれず。しぜん物になれば仕合。ふりと印付てのけて置べし。 扨反しハ宇源次様の御客。柊様の露初。多十郎が日比の噂。紙に似合ぬ上物成と。楽て待べし。もめたる紙ハ扇風呂通様のお敵。 四二様の壬生の茶屋にての力ミ。引さき紙ハ西洞院のミぶ様。扨ちり紙に所務が有ぞ。是ハ河内の弥次ヱ門様。 相撲御見物のかへるさ。祇薗町の一力にて。御蔵詰にさん用せんと。被仰たる捨言葉不仕合で三斗俵。 年取物の心当と。それそれの家業。世面白き世渡りとわるじやれにかゝつて。仙人とハ。いかなる事と問へハ。 一角と答ふ。孫とハと問へハ。弐朱といふ。故ハと問へバ。小判の孫と云。扨も推過たる世界に。うかうか暮すはかなさよと。 おもひ乱れて世をわすれ草。秋蘭と改名し。此因縁を洛中に示す。宵ハ法花経。夜半ハわさん。あか月をきてハ。 ゆづう念仏なもだなむ仏。かミこかミこ。あべ川紙こゑ

《傾城辻談議巻二》

  恋に憂名ハ日本執行
    にらミ付たる眼五十年ハ露間
    けちゑんに作る延命地蔵
天地の間短夜の。夢のうき世をかたかた何とがてんして。からき命にほだされ。おしき月日をいたづらに。 つかわれ果す年の暮をあんじ。三十六七あわぬ算用に京も田舎も同思ひ。夫婦いさかいたへぬかまとのけふりうすき。 わかれわかれの身となる所を。さとれは極楽の金仏一躰ほしやつぶしにしても。孫の代迄風俗芳野花を詠。 月に哥よミても。安楽浄土の台にいたるものをと。かなわぬ願にくるしむ世の人心ぞかし。紅の下着にかくしべり取。 替草履もたせ。目付編笠に恋をふくませ。三枚かこのよせい。当世仕出しの太鼓をしたがへ。世に住顔のわたし船。 淀のわたりの馬士まで鬚に油をたやさず。江戸元ゆいの中ぎんか。くしさしてつぶ色かけにゆいなし。 かわらけ色のたび。ばらをの草履などなまめける面影。山のあなたのさると云湯女まで紋日を売付傾城の真似して。 足を投出ス時節に。扨もいとしや若衆。器量人に勝れ。能遣ひ比に。世帯をあんし。今日のかせぎに年をよらしおもわぬ後生に立入。 誰為にとて法花経をならひ。終あかり見ず。夜あるきせず。生ながらの親仁風。それほと程の家督を。大事とよふハおさまる色里のわけ知。 かしこい時節にかないかりが相撲の関して元手の入ぬはだか商売。かくべつのしあん。皆此躰を手本にかせがハ。 貧をくるしむ人ハ有まし。拙僧かいにしへ。出々虫伊与守と申て生国ハ関東の者。侍の名を残すへきたよりに。 かくハ姿をかへ衣。出家と成たるいわれハ。悪性からとしくま弓。ひくにひかれぬ腕の骨。おほへの有りて人をあなどり。 男伊達に身を投打。家中の若衆を我ものにし。日に日につのるちから草露ほどもぬれを知らず。いか物喰に茶碗酒。 唐がらしの丸かふり。いやはや実なきうかれ心。友同志にいさなハれ。はじめてさんやにはしり。猫の皮挽。 けいせいを買。かたひねらせて髭ぬかせふんそばつて高いびき。双六盤を枕に。寐習ふ味に耳が出来にか。 口もそろそろと。止恋風の身にしミて。たんだ通ひにのめりをかへし。よほと利口に成とひとしく。金鍔を売かへ。 さしがへを質に置。馬の鞍までふちやつて。貧乏鍛治のかね持ず。とてことてこと当所なく。男伊達もそろそろと。 肩のすばりてせん方なく。浪人の身とハなりぬ。そのころ桑名に所縁有て。しばしかげをかくして時をうかゞひ忍ぶ代のたすけとなれば名をかへて。 榊万鉄を名乗関口流の居合。和棟なんどの師判となり。弟子を集めて光陰を送る。鬼の目にもなミだ。 捨られぬハ恋の道。其のほとりに。やさ娘有けるを。ふかく恋わび。度々文をかよハせども。心にしたがハず。 某もふミころして捨んと覚悟をきわめ。弟子の内に。杉竹鹿六と云し者に。しかしかと語れハ鹿六申けるハ。 悪七兵衛景清ハ。北山の紅葉狩に官女をうハふて妻となす。又大江山の酒天童子。石川五右衛門。彼等がおもかげ。 盗ぞくの身なれども。色にハしたなき塩の目もと。うバひ取たる事なればとかく御奪取候へ。我等後詰と申にぞ。 鹿六とはだをあんばいよく。ある夕道に待請。奪取供のやつばらふミちらし。かたに引かけそれよりも。 其夜水口まで立退。兼而通路の旅の空。四五年忍びて世を送りぬ。不便やな彼女。国元のなつかしさ。 たらちねの恋しさかきあつめたる物思ひ。重るせきをこつこつと。労がいを病出し。廿八を定命に終にむなしく成にける。 あハれといふも浅ましや。わすれがた身に此忰。当年十一才に成けるが。母なき事をかなしミ。度々我に問間。 なんぢ四才の春の暮。朧消行世の習。死出の田おさの声かれて。おしき此世をさりぬると申せば。子心に跡を弔たよりにハ。 出家にましたる事なしと。ねこふ訴訟のあハれさに。さほどに思ひ立ならバ。我も連んといふ下の。腰の刀をするりとぬき。 もとゞり切て西へなげ。南無阿弥陀仏と諸友に。住なれし水口を親子連立罷出推元和尚の弟子と成り。 唐音の経をならひ。士の名を残すべきたよりなし。せめてハ末代まで人間の。語り句にもと存。東ハしなの善光寺。 つがる。わつほうそとの浜。西ハ三十三札所。のこらずめぐる家づとに。是おごろじやれ此仏ハ。聖徳太子の延命地蔵。 此大仏ハ各の。一銭二銭宛の香でんを。拾ひて作る仏也。扨此甥ハ仏も我も同根一躰。ぬれぬ方便にかくのことく。 或ハ野に臥山にふし洞にふし。雪霜雨露のわつらいなく。此ほとけを肩にかけ。卅六貫目の重荷に。脚のつゝくまで。 命かぎりにめつた的。あたる所を幸ニ。なんと。ならぬ事てハおりないか。仏経に心を砕あごん。けごん。れい。しやくぢやう。とつこ。 花皿。はち躰のこ。五でうのけさ。七帖のけさ。しつ惣いほつす天狗の爪。是ハ当座のしまん咄しよ。 きゑ僧きゑ仏とハかくのごときの因縁。けちゑんに守も出す。往来のかたかた立よつておがませらるゝも。 愚僧が実のふかきからハ。珍重にこそあれよ若ひ衆。子共衆。手をかけてゑんのむすばん力だめし。ひとあげておごろじやれ。 いつかないつかなうごく事でもおりない事。愚僧がむかしハ伊与守。数に入たるれきれき侍。力ハ五人力。 道の達者ハ廿里宛。飛がごとくにあゆめども。小僧と云る足まとひ。是非におよばぬそろそろと。洛中をへめぐるも。 小僧が母のぼだいのため。なむふミとうふ。なむふミとうふ

鍛治…鍛冶。
物語・小説に戻る

坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp