好色産毛
《好色産毛巻之二》

 一 泥町に鯉鮒一盃過たる思ひ
鼠ハ心霊ある獣詩にも相鼠有礼とて。食をあたゆるに必。両の手を以て取り頂戴して喰せり。それそれの藝をおしゆるにのこさず。 上鳥羽のしゆんハ都恥しき産れつき。あらゆる女の藝をぬけ。身に愛嬌一たび笑めバ六地蔵の顔色なし。 娘なから家の白鼠。恋塚のあハれハむかし。秋の山の鹿も妻ゆへのまよひ。葭簀の隙もとむる風の便。 水の泡の消かへりても。寄る瀬ハなどかなくてハと。しるもしらぬもしのぶることのよハりぬる。 徃来の人の駕の立場。茶椀酒煮売豆腐。あづき餅に一□□□。□る時ハうへもなき貴人に御茶を汲。 あるハ大和の猿引。西の宮の夷まハし。行衛しらずの雲助まてもいたハり休らひ。毎日銭の抓取。小判数を出して。 親に貰へど。そした望もなしと明暮徃来の人にミさがされて。あだなる花の盛と月日身にそいて。 過行事ぞあたら玉屋の疵なるべし。けふは淀に相撲あつて。強き男の力瘤ミにゆく。駕の者いそげと。 程なく明神の御前。すまふ場の鼠戸入てミ渡せハ。只今三番の大相撲濡髪乱髪と名乗る。名ハおかしきかたにひかるれど。 鬼の孫ともいふべき。男としの裸事。いかつげなる業ハかり。心よからす。ミる目に力がいりて術なし。ぬれ髪ミたれかみも髪長にこそと。 そこ立出て近からん色所おもひ出して。髪のえん有柳町伏見の泥に身をよごせと。橘屋にたつねて。臺所に打あかりミれバ。 阿房で六十年くらしたと見えたる年寄ひとり。釜のまへに物もいはずに丈六かいて。十町目よりあつかりし手飼の猿くゝられて居る。 息のかよふものハ是ハかりにて人もなし。奥にハ物いふ声枯々に我をミ付てうら口よりまねく。眄ミれハ。 名代の上郎。やあ爰にかと立よりミれハ。けふハ此家のいはゐ日。一家のこらす神参。留守の間を我れ我れの楽遊ひ。 幸の御出。酒ひとつすいのこなさまなれハこそミせますると。障子引あけたれハ。ミな知人の六人詰。親方の気を兼。 揚屋の気兼に喰度ものをこらへぬるまゝ。おもひおもひの好事とて。煮びたし鮒のかたはし喰。鯉のさしミのつゞけ喰鯰のねり味噌のすゝり喰。 白搗の食のほうバり喰。菓子に羊羹外郎餅のちぎり喰。あげくに黒砂糖一斤あけ片肌ぬきて。 一盃すぎたと腹までゝ居る。傾城ハ物食ぬ筈のやうに覚えたる目でミれハ。興のさめたるハかり也。 此料理ハ何として拵てにやととへハ。門前の揚たうふ屋に頼てと。けふの入目書出しと十七匁弐分。 やうかんうゐらうもちくろさとうの代七匁。二口合廿四匁弐分六人に割と。百銭ぬきてめのこ算用しても。あまるたらぬと埒あかず。今割付て銀やる筈と。 気のどくかるを中くゝりに割付て。一人手まへに四匁三厘。割のこりのほこりハ。あげたうふ屋の損と割てやり。 残る肴に寒食添て。おもふさましなぶり。腹心地もよし。此御振廻のうへに我も楽遊ひをこのむへし。 そのふくれた腹をあたまハりに一番つゝ。此うへの振廻有かたかるへしといへハ。それか何としてといふ。 いやなら此いやしさをいひたてゝといふにゆきあたり。皆々とらする筈にこと極り。かたハしより一番つゝのならへどり。 よふも六番つゞいたと我なからも我を折て。何事もたゝ沙汰なし。さらバともどる京男

一□□□。□る時ハ…一ぜん飯。ある時ハ。
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp