胆相撲
《胆相撲》口上
口上
東西東西此度御覧に入まする此きもすまふと申すは浪花のみんなみ道頓堀島の内呼屋のお内義様がた客あしらい座のこなし万のかしこを東西のすまふにわかちお目にかけます別而御断を申上まするは昔よく切れたるもよるとしにつれて時にあはざるは若きに座をおくるゝ品がごさります大関より前頭段々其れつをわかちますれどあながちに座のさがりたるがあしきといふではござりませぬ只其もやうをわかちまする斗にて大関より前頭に至る迄此番付にのつたる内儀様がたは皆々一器量あるきれものにて家々の福の神恵比須講のゑびす様とも言ひつべし繁栄さかんに美を尽し伊達を尽しくれなゐの湯具ぴらりしやらりと是からが土俵入のはじまり
カチカチカチ
《胆相撲》目録
○左之国所付
吉州とあるは 吉左衛門町
九州 九郎右衛門町
慶州 立慶町
中州 中橋筋
太州 太左衛門橋筋
畳州 畳屋町
宗州 惣右衛門町
| 東方 | 頭取 | 川作 | せんご |
| 行司 | 富田や | お 市 |
| 西方 | 頭取 | 岩善 | お 市 |
| 行司 | 山形や | お 熊 |
| 東 方 |
|
| 大関 | 畳州 | 大七 | お 袖 |
| 関脇 | 中州 | 綿松ノ | お 薫 |
| 小結 | 慶州 | 天弥 | お 繁 |
| 前頭 | 畳州 | 伊せ七 | お 管 |
| 同 | 太州 | 大藤 | お 崎 |
| 同 | 畳州 | 大小や | お 道 |
| 同 | 吉州 | 富田や | お千代 |
| 同 | 慶州 | 住九 | お 房 |
| 同 | 中州 | 大治 | おとめ |
| 同 | 慶州 | 和国や | お 蔵 |
| 同 | 太州 | 貝半 | おとわ |
| 同 | 九州 | 島九 | お 市 |
| 同 | 吉州 | いせや | お 春 |
| 同 | 慶州 | 豊六 | お 民 |
| 同 | 吉州 | 福新 | お 巻 |
| 同 | 吉州 | 布庄 | お久米 |
| 同 | 太州 | 扇や | おさよ |
| 同 | 中州 | 橘や | お 種 |
| 同 | 吉州 | さつかん | おさん |
| 同 | 慶州 | 戎平 | おくめ |
| 同 | 慶州 | 富七 | おつる |
| 同 | 九州 | 平作 | おかん |
|
| 西 方 |
|
| 大関 | 宗州 | 河作ノ | お須磨 |
| 関脇 | 太州 | 井勘ノ | お 染 |
| 小結 | 宗州 | 長佐ノ | おせう |
| 前頭 | 太州 | 若松や | お 岩 |
| 同 | 慶州 | 堺市 | お 留 |
| 同 | 宗州 | 足伊 | お 染 |
| 同 | 畳州 | 堺夏 | お 国 |
| 同 | 吉州 | 秋忠 | お 町 |
| 同 | 太州 | 河庄 | おわき |
| 同 | 九州 | 若吉 | おなみ |
| 同 | 中州 | てし三 | おいそ |
| 同 | 惣州 | 平小 | おみつ |
| 同 | 吉州 | 大権 | お 岩 |
| 同 | 太州 | 金新 | お三木 |
| 同 | 吉州 | 秋も | おかね |
| 同 | 慶州 | 竹庄 | おのぶ |
| 同 | 慶州 | 大孫 | お久米 |
| 同 | 九州 | 竹伝 | お 源 |
| 同 | 慶州 | 豊久 | おもと |
| 同 | 慶州 | 角丸 | おつね |
| 同 | 慶州 | 伊丹長 | おちか |
| 同 | 太州 | 菱 | おのぶ |
《胆相撲》
東 方
大 関 大七ノ お 袖
此関とり奇妙の手取にて力あり手ありといふすまふなり先ツ土俵入の座敷つき賑やかにヤツト手合すると石仏でもうなづかせ初対面の客にひだりをさし取入事妙也入込女郎芸子此関取の評判あしきといふものなくむさい立合なくきたなひ手を取らぬ故なり酒に成ツては一寸も跡へよらぬ向ふづきの見事さ折ふしのせりふに二番すまふのいふわかい所を言はれてもやつはりにあい右にいふごとくちからもあり手もあるうへに腰を入れる事大丈夫にていとやぼんをおよそ廿八九人もうまれたれどひとりもうんだ顔とは見へずはなやかなりすいな客には地どりのがくやをあかしをこる客にはまけてかつかわづがけ種々無量の奥の手にくむものなしまことに此関取と四ツにわたるぬし様こそ嘸うれしからめ惣躰此番付になみいる関とりがたのくはんじん元のぬし様がた人がほめればひげをしてナンノわたくしが気を付ますればこそどふやらかふやら参りますれとんとたわいはござりませぬといづれも同じ口上なれど中々叶ふものでなしとかくくはんじん元のぬしがたは帳合が第一の役目折々はめいめい関取のかゑふんどしを肩にかけて供に付ていかれてもよいほどの事金銀の土俵をわつて万客を引請るはお内儀がたの手がら家々の四本柱めいめい弓をとりたまへ先東の関は此たてものお袖お袖
関 脇 綿松 おくん
此関取はすまふを随分やはらかにとりきゝ腕向ふへさし込み奇妙な所を工夫したる手取也第一すまふはいにしへの秋津島流にて随分きれいにして先あどなひ所を専として座敷おだやかに賑やかにすがほの土俵入くつきりとしたる立チ合たぐひなし惣躰の客あしらひは粋なるはかう物がたきはかうと皆其わかちを見付てもてなす事なれど此関取はすいもぶ粋もわがこゝろにわかちていづれもかはりめのなひ一と通りの手合ニてかりにもへんなる手をとらず奇妙なるなげもせず只ぼつとりと土俵ぎわでおちついてつき出しのかちをなしまことに大すまふの取くちなり客には芸からはなしから喰イ物から呑ミもの何によらず人々一くせ有先客の初たいめんより二三度来る迄は其客の好キやくせをむりにあてがう事なく只何となふ一ト通りのあしらひしているうち客はじしんのこのみじしんのくせを思はず知らずいふ時に此関取これをかつて聞顔せずそばにいる芸子中居ととつけもないはなし仕て居て心には客の好キやくせをとつくりとおぼへ其後やつとしてから其物好キをこちから持て出らるゆへ客といふ客よろこばすと云事なしコレ座のあたりめをとる工夫にてやはりお客を大事かける所から出たる妙手也やわらかにして妙手を取る所は昔の根津が関も及ばぬ所折に存もよらぬ大名噺土佐様の御殿はかう玄番様のやぐらはかうと存もよらぬ大名はなしも北出の余風にして時にふれて興あり何にもせよすまふとり口関脇に置てはづかしからず
小 結 天弥 おしげ
此関取近来のきゝ物随分粋の手を尽し座敷の土俵入賑やかにくはへて引やうなあしらひ万客悦ばずといふ事なし客の口あひたひこのちやりそのきばめのほめ所をすかさず座敷に愛をもつ事此関とりの妙なり折りには酔どれのしろ客がいろけを持てどふのかふのとぐたつくを其客にきずをつけず腹立させずこゝまでござれのあまさけあしらひにて品よふそこらをすかし投上手のとりくち格別の事なり酒見事にしかも見え酒をのまず役にたつ所でぐつとやる土俵際のとりさばき左りがさゝれねば右をさし右がさゝれねば左りをさししつくりとぬけめなきとりかたかいる見つけたくちなわのごとく客を見ると口なめりしてかゝりとりとめずといふことなしありふれた手を用ひず目をおどろかす妙手こんたんすまふなりこゝをもつて東の方小結に名のりを上る
前 頭 いせ七 おすが
此関とりぼつとりとやわらかなるとり口はなやかなる手合あどなみをもち少も下卑ぬたちあひ近来のきゝもの近比一本はなれて関とりのかぶをこしらへられたる手柄器量力量の見へたる所なりいやみな客ほどあいらしきひつはなしの妙手の詞愛ありて万客悦ばずといふ事なし前頭の第一にしつとりと土俵入
前 頭 大藤 おさき
此関取とりくち仙台流ありて手ばしかく穴をすかさず立合も身がまへゆだんなくヤツといふとはなやかにかけ声とともに一寸も跡へよらぬはねのきく所の強さに興を催し面白ミはなやかに一座のはねとなる酒の見事ささし腕して跡へよらず客も女郎も心はやりて座敷の土俵賑やか也鬼は仏にして成仏の遊ひをさせ仏は鬼にしてはり合をつけ奇妙の手取なればこそおくまといふ弟子も有なり前頭の二ばん目中々爰等がとりにくひ所追付浪花の関取となるべしサアと手づめのせりふに腕まくりのさばきかた中々関取の勧進元大藤さんも及ばぬ所きつと立て物立て物
前 頭 大小や お 道
此関取は一躰ちからすまふにてはなくやはらかに妙手を取るすまふなり四ツにわたらぬさきにこんたんありてむそうあるひは引まわしおとなし客を能こなし又古書にやしき衆じやとて大小やさしてといふ時代のお客でもほどよく面白がらせ一座の土俵入万事取くちきれいにして高上めきたる手合也惣躰菓子さかな食類などなんでもない物でも時の気味合で賞びおうきものとやむかし半時庵といふ誹人ありしがある日管神の社へ参りしが其道にて千鹿と云誹人ありしがちよとぶじを尋んとて立よりければあるじ千鹿大キに悦びこれは珍らしき半時庵の翁さいわい時分でござれば此うしの舌といふ肴で飯を上ぎやうといはるれば半時庵こたへて何とおつしやる牛の舌といふ魚もあるか扨々あやしい物を食せらるゝ左様の物はわれら御用捨先先ツ社参いたそふと立出しばらくありて半時庵社参の戻りがけ門口より千鹿子只今帰りますといへばあるじはしり出遠方の事なればぜひに御茶漬を上ぎやうさいわい笹王余魚をいりましたとくだんの牛の舌を出せば半時庵ゑみをふくみなんじや笹かれ是は雅な物じやおふるまいに預かろふとしたゝか喰て帰りしとやとかく物はいゝなしとりなしにて風流にもなりつたなみにもなるなり此関取爰等の穴をすかさずツイ出して有さかなのうちにも思ひもよらぬ一種コレハ大和の御客から昨日
ひました天のかぐ山の牛房でござりますと存もよらぬ物にてあたりを取客をちよつと見舞ひにやらるゝも見えよき籠に根芹を入れ是は京より到来致しました芹川の芹でござりますと名を付てやらるれば何がうまひものに喰飽ている腹ふくれども此芹は格別じやと其価のおもきかろきはろんぜず嬉しがる爰等の工夫手取物キヤツキヤツといわずにこうとうなる手合しとやかなるとりくち是も下に置かれぬ関取
前 頭 とんだや おちよ
此関取も得手は何といふにかたよらず粋客がつてんるすゐ客ヲツトまかせ下卑客心得たりとすかさぬ手合酒見事座敷はなやかに是等はてをとる関取也かのぢんかう記に書てあるすい風呂へ人を入れて其水をつもつて見るこくめいな置頭巾の親父でもわたのやうにこなす手取此座に名のりを上る
前 頭 住九 おふさ
此関取前より聞えし手取なりしがちかごろ弟子へすまふ名前をゆづりらく人ンと出かけられしが二代目の関取病気にておもわしからず是にては名のむもれん事口おしう思ひ又ふたゝび土俵へ入ツてたちまちもとの関取と名のりを上つねのふんどしを緋どんす緋じゆすに仕かへて押出した所がやつぱり手取見物の客たちもよみがへつたるこゝちにてどふでも強イものはやつはり強と評ばんよろしくふたゝび土俵に手柄を見せ四本柱に名の花を咲勢たり大事の所へ又立もどり土俵をわつてヤツトとまつた足がてつぺきじやよふおふさ様々
前 頭 大治 おとめ
此関取などは是迄上ミをとりたる風儀代々師匠よりつたわりてすまふきれいにして土俵へ入ツてくしやくしやとちいさい手をとらぬ手合なりこゝらは出ぬけると大関になるとりくち随分地取身をいれたまへ
前 頭 貝半 おとわ
此関取も前に同じく皆上ミとりの弟子にてすまふ大よふなり前躰おかゝゑすまふゆへ常の土俵にてはさびしい手合も有ものなれど御前すまふの行儀またかなわぬ場所あり爰らは刀さげて土俵入するかぶじや出ぬけたまへ出ぬけたまへ
前 頭 和国や おくら
此関取まづ土俵入立合はなやかに近来若手のとり出すまふ座敷つきの手合はでに高やぐらかたづかし引まわしよろづ手合こせつかず酒きれいにさし腕向ふづきコツプでも馬びしやくでも跡へよるといふ事なく座のそなへみだれずして賑はしぜんたい関だをしといふとんだ所を取器量ありすまふ近来のとり上りすまふサアといふせりふにもぞんの外当世を能知りたる手取也それゆへ近来此土俵賑はしく勧進元のぬしさんも嘸御満悦只何となくやはらかにたちあひて客へのはたらきすかさずはしかき所ありそれゆへ此座組の骨切りどこにおいても立物ひいきのかけ声は山の宝来土俵まわしをかいてずつと出られた所愛の力りやうゑくぼのちからこぶ追付御前すまふにも刀をさげての土俵入きつと弓をおとりなされまづ和国やの四本柱繁昌の土俵ぎわふみかためこれがほんの蔵じや蔵じや
前 頭 島九 お 市
此関取少しおい込たれど大土俵を引請て出ぬけて来たすまふゆへ地どりにははなやかにない所も見ゆれど押出してからは又土俵なれたもので客のたてひき女郎のとりさばき前がわへうつゝたら中々うこかす物でなしいつのすまふにてもこゝらははづされぬ所第一が手合にひやうりの虚なく実をもつてかつの関取評判評判
前 頭 いせや おはる
此関取も久しき顔にて中々いまだとりおくれず土俵に名のりを上らるゝ事なり此関取のとり口はこうとうを専一として飛んた手をこのまず土俵へ上がつても水一ト口呑んだあとでていねいに力紙ではなをかむといふ所をして女郎のむかいがくると一度一度客の耳をねぶり一座のけしき客の差図がなければかりにもとんだ事をせず是お客を大事にすまふをこまかにとらるゝゆへなり若客には折々はうばがゆふやうな事をいゝきかせサア申もふおかへりなさる時分じやがお目をさましなされかごも言ふてやつておきましたおまへの寐ていなさるにげいこさんをおきましてもついゑな物じやによつておかへし申ましたなどゝ随分と若客にはかさの上らぬやうに勘定役人のいはるゝやうな事いふてきりもりをせらるゝ是がやつぱり実な所多くの客方節季になるとそれを思ひ出して腹立ぬもので兎角実があると請がよく猶としより客にかけてはいやおういわせぬとりさばきちよつと出すさかなでもお歯に合ふ安うつく物をとそこらのとりさばき是も虚のひやうりを取らぬ一筋の関とりなり
前 頭 てし六 お 民
此関取も名にしあふきれものニてすまふはおくれてもあつはれの手取にて土俵へ入るとおちつきて向ふからどのやうな手をしかけてもおどろかずさまざまの請かたいろいろのとりさばきぬからぬところがふるづわものむつかしいすまふのこんたんはとかく此関取と相談をしたがよい
前 頭 福新 お 巻
此関取きつと一番すまふなれど人によりては知らぬかたもあるが中々手取り達者のすまふにていづれの客に向ひてもゑてをさゝずといふ事なし誠に関こかしともいふべき器量それ故近来土俵賑はしくひいきみちみちたり近来の出来ずまふといひつべし
前 頭 布庄 おくめ
此関取も何が得手とさだまらず左りも利き右も利くといふ所ありて利きうでの発明十人が十人ながらすく所あつぱれあつぱれ
前 頭 扇や おさよ
此関取は高やくらむそうなどはでなる所もあり又つき出しのかちにてぼつとりとしたところもすかさずこれら関だをしといふすまふにて前頭の下より五番目あたりにおくはきつふむつかしい所にてわざときれ物をおく場所なりこゝらがすまふのおそろしいといふ所中々うつかりとしたら関脇でも小結でもよいやさといはす所ずつと土俵へ入ルとわつといふはなやかなるちやうしありてとかくめいる事のないがこのとりくちの奇妙自然とにぎやかにあそびといふものだはだはとおもしろいよりはちんまりとおもしろいが興ふかき也
前 頭 たち嘉 お 種
此関取も仙台江戸といふとり口にあらず只おだやかなる角力きれいいつぺん少もいやみな手を取らぬが御前角力のせうめい
前 頭 さつ勘 おさん
此関取ヤツトといふと上ミをはらひ下もへよりそひかけまはりはしりまはりこうしやをとる角力面白いといふは爰らの事
前 頭 戎平 おくめ
此関取ちかごろのとり出なるが中々手取にて手あひぼつとりとすゝげどげなく誠に大角力の仕出なり近来此人のとり口はなやかにて此土俵大きに賑はしたんたんはんじやうのいきほひ東西に名を上げたまへ
前 頭 富七 おつる
此関取もぼつとりと常ていの取くちに見へて大手取にて土俵立合うまい所あつて近年土俵の繁昌思ひの外よい客かたを引請大入をこなすは此関取の手柄殊に此勧進元のぬし様はきしやう様のかけやしきの御支配別而ふきつけます又此関取ののつしりとした所マア土俵入斗でもみもの也こゝらがどつこへも間に合ふといふ上手め上手め
前 頭 平作 おかん
此関取の居所前頭せぎりニて中々気がはたらかねばならぬ所下のすまふをとめて上ミのすまふをかちあがりにあがるといふ所客の貴賤にかぎらず気に入る所がたくましい所きつと関とり関とり
是ヨリ西之方
大 関 川作 おすま
まづ此大関近来の手取万事はなやかに土俵入の一座賑やかに客の手合幾筋もあるをそれそれに悦ばせかたくろしひ客や侍客ほどちやり言葉でしつぽりと何かにいきぢを立るこなしとりくち第一やわらかにきたない手をかりにも取らずヤツト大手をひろげさし腕をとめふとせず大ウやうにさゝせてかつ手とりにて惣たいのわたり合もかどを立ずに客にひけをとらさずずつとはいつた土俵のうちはなやかになんじやもしれず面白といふ一座になるが此人の手取の妙先ツ女郎の来ぬうちに此関取どこもなふ身うちに色があるゆへ一座淋しからず何となふ色をふくみてはなやか也これといふも一躰其師が能く今すまふの頭取りをせらるゝせんごどのゝ跡ゆへこんたんこなし又格別の妙手あいと見得たりなんといふても茶やは人間のせんだく所なれはこつちからわつといふと向ふからもわつといふちやうしかなけれはおもしろからぬものにて此関取はそこらが人のおよばぬ所にてはなやかなるとりくちまことに当時の大関と西の方に名のりを上ケる
関 脇 井勘 おそめ
此関取はまことにかたやの大関なれどおとなしぶりをもつてわざと関わきの座にすゆるなり其すまふの手合といつぱ中々外の及ぶ所にあらずヤツト声をかけてから左りをさゝねば右をさし右をさゝねば左りをさし双方の利腕土俵の内一座賑やかにせりふはなやかに女郎芸子にも腹立させず客にひけをとらさすまことに手取りとは是をいふ也酒跡へよらず座敷のこなしは兎角次第次第においこむものなるに中々そこらをぬからぬ仕打酒たけなわに及ぶとすつと立てのしよさ事かねにうらみが数々ごさるとうたひかけるとけいし小七のしよさざつと一座の興を催し大かた此通りの仕打の関取はかうした所作事などしてさわぎになりたる跡ではごろりとこけてたわひもなふなるものなるに此関取の妙はそこらの事なく是はきつふ酔ひましたとよき所にて座敷をたちねまへ入ツて寐るけしき客も閨中の段になつてそれからは思ひ思ひに八ツにいぬる客もあれはあるひは七ツ夜明かた其時其時に寐間からはしり出しみしみとの門おくり寐ると見せて寐所で寐ては居ぬのか何にもせよ爰等のあぢはひ皆客を大切にするからの事かたむくろな客でもうなづかせずといふ事なし座敷はひやうりの面白みをとり万事のせりふニは実をもつてのとりくみ両腕のきゝたるとは爰をもつていふ西の方の関脇大手をふつて土俵入ひいき多いすまふマケてもかちじやかちじや
小 結 長佐 おせう
此関取は土俵入立合ばたつかずまことに大すまふおかゝゑのすまふの行義又外にたぐひなしたちあひにきたなみなくすまふ大やうにきれいを専ン一としたるとり方投付てかつ所を何の事もなふつき出し投付たよりはかへつて力量の強き所を見せ又此すまふは別而打上ツたる所にてさがりを取てひきよせたりあるひはくもまいのやうな事を仕るやうな事は小ずまふのする事で座あたりはするものなれど大キい土俵の御前角力では中々見ぐるしい事にて此関とりはそこらはせぬ大角力也別而此関取の勧進元の長作といふ人凡島の内道頓堀呼屋の内での人柄にて誠によき人といふは此勧進元也それゆへか猶此関とりの手合もつたなからずあぢやらにもわるい評判のない家こゝらが本の呼屋といふ物お客がたの御人躰のすたらぬ呼や此関取は格別のとりくち此小結にて西のかたやもしつかりといたします
前 頭 若松や おいわ
此関取はなやか成手取りにてまづ江南の粋のよる所当代のはやり詞うがち事此所に知らぬといふ事なく誠に粋茶屋とは是を云也土俵一座の手合はなやかにせりふ面白み客の気もつかみ立るやうにはづますが此関取の妙手前頭の第一番におゐてはづかしからずとかく座中が手を叩イて関取関取とのひいきまけてもにこにこ笑ふすいさばきそつくびをとし高やぐらだてを取はんなりすまふ大評判大評判
前 頭 堺市 おとめ
此関取も近年の取り出にて奇妙の手とり関こかし酒見事ニ土俵入の一座はなやかにせりふぬけめなく近来の出来ずまふかたひ客いやみな客すいな客したゝるい客それそれに取わかちて上手をつくす手とり前がしらの二番目爰等がすまふのかなめにて上にも下にも勝たねはならぬといふ所なんにもくどふは申さぬ近来のすまふの花めきめきと給銀が上りました
前 頭 足伊 お 染
此関取も西の方小結のとりくちと同じ事にて奇麗を専一としたるすまふ誠に上ミとりの上ずまふ下へはさがらぬ関取也土俵中一座さわがしからずきれいをとる手合此とりくち世上へ能売れてひいきのをゝい関取どの
前 頭 堺夏 お 国
此関取も只やわらか成取くちにて土俵入伊達を専らとし身あんばいは慶子をかたどりあいを以てかつのすまふきれいなるとりくち此上こんたんあらば出ぬけの関とりとならるゝであらふ油断なふとりたまへ
前 頭 秋忠 お 町
此関取手合やわらかにして土俵入の一座しとやかにすゝどげなくあいふかきとりくちなりしかもやはらかにして女郎のきまり客のさばきそのきめきめをゆるめずすいな客にはすいを立てあそびのあぢわひを持せとしより客には又其あしらいをもつて気に入り何にもせよすゝどい所を見せずすまふのとりくちこせつかぬ所甚よしぼつとりとした所てしたしみ出来るすまふわかけれど出来しろもの手あらひ所のないが上がたのすまふと見得まする
前 頭 河庄 おわき
此関取とりくち種々の手取にて土俵の一座賑はしくはなやか也しかもいろをふくみてすい客にはつゝこんだせりふとしより客にもほどよく面白がらせ酒事はげしく一器量ある手取也ふこくといふ勧進元にわかれし後も中々たぢろく事見へずいやましのはんじやう是斗でもよつほとの手柄すまふのたち合はなやかにつゝこんで取る仕打うはべはわざとじやらくらとよふがてんしていてはでなうわさをとるもやつぱりすまふの手合こんたんにて土俵きわのあぶない所でどつこいとふみとまつて家の四本柱をいごかさぬ手取手がら有関取近来のあたりずまふ土俵ふみしめて前かしらのむつかしい所に名のりを上る
前 頭 若吉 おなみ
此関取も若けれどいつぷうあるとりくちかんどり地とりをゆだんなくなされたらばいよいよ出ぬけの関取とならるべし爰等も皆やはらかなる上すまふのとりくちずいぶんはげみたまへ
前 頭 てし三 おいそ
此関取も手合やはらかなるとりくちおたやか成しうち土俵入にもおちつきてさわがしからず是も一筋の関とりがふ猶つつこんでとりたまへ
前 頭 平小 おみつ
此関取もひとこなしあるとりくちにて上下の客に色々と妙手を遣ふ手取此関とりの一チ妙評判
前 頭 大権 お 岩
此関取少しおいこみたれと中々すまふは跡へよらずすいなとりくちにて一座いまにいろけをふくみ近来土俵を広げつゝぱつて跡へよらぬ取くち手柄見へたり若竹の笛となるもはやむかしむかしはでも伊達もがつてんでぬかりのない関取弥大入大入
前 頭 金新 おみき
此関取一こぶしある手取にてすい客の悦ぶとりくち土俵入の一座はなやかにきけばいとやほんを一年にふたり宛も産るゝといふ噂なれと中々風俗しまず客は上下のへたてなく其こなしいかな物でもうなづかせだんだんと賑やかなるよし繁昌するに付てもとふのかふのと勧進元とのちわげんくはかあるげながそれもやつぱりはてのうちそこらがはなやかでよい所かな新のかね箱とずいぶん御客を大事に弓をとりたまへ
前 頭 秋も おかね
此関取も手取にてたゞ何とないとりくちにてこんたんあるすまふ押下られぬ前頭のチヤキチヤキくせのない所がすまふのたけた所とひいき多き関とり
前 頭 竹庄 おのぶ
此関取も上下のへだてなくあしらいの妙手を取奥そこのないと云所がすまふのとりくち客のこなしは土俵数になれたる徳ありて入リをとる関取なり
前 頭 大孫 おくめ
此関取もやはらか成とりくちにてほつとりとした手合貴となく賤となく嫌ふ物なくはなやかをみせずしてお客を大事にかりにも表裏の手合なく実をとる関取前頭の下より四五番め此所上のせぎりにて手覚のすまふを置座也此関取しろうとの目に立ずして手とりのすまふ爰に置てりきりやうをあらわす
前 頭 竹伝 お 源
此関取も上下のへだてなく引請てとるすまふ又参会のおせおせ客も大せい引請てひとりひとり悦ばすは土俵数になれたる手取外のすまふの及ばぬ所是又一筋の関取なり
前 頭 てし久 おもと
此関取はねよくきゝてさしうでをさしてからは一寸も跡へよらぬとりくち強イ所でさつくさつくとぬけめのない手とり仙台流のとりさばききみよしきみよし
前 頭 角丸 おつね
此関取もやはらか成ニはやはらかにあたりつよきにはつよくあたり誠に手取なりくはんじん元の角ト丸といふ名はるか古イ呼屋より名高くそれにつれてすまふも一トしほはづみます
前 頭 伊丹長 おちか
此関取もうがち仲間には知らぬ人多けれど物がたき客こうとう客あるひは関東西国武家がたのとりにくひ気を取ツて賑はしうおもしろがらせる所是又むつかしき所の手とり力量なくては叶はぬ場所也こゝをもつて遠国の関取なれど名のりを爰ニあぐる也
前 頭 つるびし おのぶ
此関取は一躰わるじやれの手合なく実を地にしたる取くち前頭のとまり是もよほどむつかしい座なれど此関取のひやうりなしに実をもつてこなすを手柄に爰に名のりを上るなり
東頭取 川作 せんご
此頭取はくはしくいふに及はず世上によく御ぞんしの顔すまふに出られし自分には飛ぶ鳥も落どんがめにも羽子のはへしきゝものまたとれる時分をちやつと引イての頭取役すまふのこんたん地取の差図又ゑらひものじやとりおくれじやと思ふて小ずまふがかゝつて見ると片手あしらひではれはさとむごいめにあわす其段はきついちがひそうなればこそおすまといふ跡目の関取をつき出し川作のやぐらたぢろかず毎日毎日の土俵に大入リを引請ますます繁昌の姿は此人の手柄也跡目の大関おすま又はなやかに格別の面白みのあるは又当世の徳也此頭取も一蝶がよしをゝたのしまるゝ心持にて今の大関の跡ぞなへ頭取では物いふ顔なり
東行司 とんだや お 市
此人もはがねならした関取あつぱれつき出してもやつぱりもとの通りに角力はとれますれど勝負をたゝす行司役にたのまれ是迄切ツてまわつた顔ヤツトうちわ上ケるとどんな客でもこみづのないのが行司のひんぬき女郎げいこの土俵のうへこじらいれきを能ふ知ツて居られます
西頭取 岩善 お 市
此人も勝ぬけの関取誰しらぬ者もなくどのやうなもめが出来てもどんたいをもつて出らるゝとたれでもウンといわすのが頭取役此人は大山治郎右衛門が跡にて先此島のたてもの少々無理をいわれてもたてねばならぬ大頭取
西行司 山形や おくま
此人あつぱれすまふさかりなれど其すまふの上手なるをもつて此度は行司役たのみました此関取のとりさばき物ごとかど立ずして穴をすかさずしやくし一角このかたの行司山形の土俵ますます繁昌あとへよらぬ所がきつい物近比たて物役者衆中を招き折にふれての酒事こゝらもやつはり追ひこまぬくふうきつい所じやおそらく行司の役をせられて東西のかたやから物いひのつかぬこなし客にはついせうもいはぬのにしぜんとあいのあるしうち此行司唐うちはシヤにかまへ座敷へつゝと出らるゝと其にきやかさが名イ人名イ人
《胆相撲》跋
粋さかん遊所繁昌と南贔負の横鉢巻しこ踏ならして
蘇生翁書
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp