金氏苛政録
《金氏苛政録巻之壱》
小瀬古村又兵衛事
斯て百姓本望の願相叶ひ。今宵も爰に止宿して明れは八月九日のぐんざんする時。村々の口利共今度徒党の人別を改めて何所の誰は不快の断。
彼所の何は他出の届。唯一円沙汰のなかりしは小瀬古村の又兵衛なり。如何にして不届成仕方といへは。栗栖上の方の若イ者とも其義は我等に御任せと。
帰りがけに又兵衛居宅を追取巻。此度の会席に何の届もなく不参の義一存あるへし。申開にぶきに於ては家内の者迄皆殺しと我先にと込入けれは。
叶はしとやおもひけん。又兵衛は髪を剃禅門の姿となり手にじゆすかけて九拝三拝。
谷兵衛
着し家内の男女一同に大地にうつふし。
重々誤り奉り候間御慈悲の上命を助け給はれと。あられのやうな涙をなかしひたすら詫るも聞入す。命の替りはなをそぎてとらすへしと口々にのゝしりける。
其中より剣藤治。前谷定治。切立喜四郎両三人すゝみ出ていふやうは。角力も立方とあるに汝卑竟なるかすかい分別いだされしは。後日咎めを憚り役人の目通りへ顔出し遠慮の心得なるへし。
左様の千人万人味方に有て無益也。殺すもそくも人らしい人にこそあれ。かゝるうちまた膏薬の付て廻り向後願にはぶき申へし。一旦願は通るといへ共又此分には事済まし。
若又此事再発せば鳴ケ上野に再会せんと云ひ合せ。住家かたへ帰りしとなん。
左様の千人万人…左様の人は千人万人。
史書・歴史物語に戻る
坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp