乞児奇伝
《乞児奇伝》

  春フル
  糸セン
  垢離声色
  如
  付似赤羆

   兵太の伝
兵太は東小屋の住人なり。日々街上出て其兄と共に銭を乞ふ。兵太の名却て兄の右にいづ。 其形状を奈何と云に。身には敗たる上下を着し手には一張の三線を把る。咳嗽声をふり立て得もしれぬ唱歌をうたひ。 或は三冬の寒き日に寒垢離に清涕を垂し。或は九夏の炎天に一人角力の砂に塗る。乱髪醜瞼円眼大口もし夜叉羅刹の子姪にあらずんは。定て是閻王の竜陽ならん。

《乞児奇伝》跋

乞児奇伝跋
八坊主と化現したるは。八事山の相国か。西八条の相国か。何ても凡人にあらし。口に信する八揃へ。文勢語格の自在なるは。 八十種好をそなへつゝ。八万四千の衆生をよせ。仏の説し経にもおとらす。され共八百日ゆく浜の。真砂に譬へて尚少し。 残つてあるを又こゝに。古めかしくも数ふへし。先二神のおのころ島に。八尋殿を見立給ふ。これ八の字のはしめにて。 吉田に祭る八神殿。伊勢の内宮八十末社。神楽をかなつる八少女の。前に居たる八脇机。八束穂祈る八種の御秡。 八絃の琴や八千矛の。神は八十神おしのけて。契りし神は八上姫。八日八夜遊ひも神代の例。八尺勾玉八花形の鏡をかける八重垣に。 匂ふ八重梅八重桜。遠山に立八重霞。八重山吹に八重なり緑豆。八重山越て郭公。八十八声なく頃は。池に一八杜若。 それは八橋紫に。染る八藤今はやり。八丈縞に八反織。八講布といふもあり。その八講は法華経。又猟八は禅家也。 八山下の大八車。星野か通り矢八十八筋。故実の八的乱舞の八拍子。相撲の幕内八枚物。役者は正統八代目。 団十郎や木場八丁。八町堀に立たるは八屋敷の大黒舞。八撥又八八挺鉦。かねをたゝいた道哲は土手八町の取付也。 さて吉原の八朔にしのぎ八本前ざし八本。海老の足も八本なれは。蛸の足も八本と。鳥追唄は八乳の三絃。 その駒ならぬ八駿は。周穆王の乗物にて。箱根八里を馬でこし。岡崎八十八丁畷。八十の湊もよそに見て。 大津八丁うち過つゝ。淀に源八渡しあり。船の着のは八軒屋。難波の橋数百八橋。百八煩悩尺八本蔵。これらは下手な地口にて。 咄の上手は昔の彦八。鶴賀の加賀八園八節。八人芸の隠居さん。そは八十の手習に。永字八法とりおきて。歌をよむなら八色抄。 八雲御抄をひねくつて。居なからしつた名前をは。表八句にきらふとかや。去嫌のなき八味丸。八珍湯や八物湯。 それは一盃八分目。一分八間ねらひは大事。丁は八百矢は一筋。娘一人に聟八人。狸八百棒八百本。荷ふて売るや八百屋さん。 蒸て出したる八里半。くりにならべた柿八年。鱠はいづれ八人前。八盃豆腐うとんは二八。三八茶漬の看板も。 八分字に書ておけよかし。台所には八方行灯。あかるい月は八月にて。八日は将門退治の日。家来は八助大納言。 肬股の臣に八丁礫。つゞいて義経八艘飛。さて八歳の先帝は。壇の浦にて崩御あり。大人になるは八八月。 前髪立の白井権利八。ひぬかの八蔵古手屋八郎兵衛。お八の太鼓の敵討。八の白幡古浄瑠璃。 扨も其後おもんみれは。褌せぬも八兵衛にて。総州船橋宿にある。遊女も八兵衛といふとかや。お八あがりの寺子供が。 ほしかる合巻八冊物に。八文字屋本ぬき出す。私共か骨折ても。中々及はぬ八揃へ。八坊主の名作は。他国にござらぬ御国の八の字。 八判すゑてみんなが証人。八合する米をくらひ。弐百八文の古酒によつて。管のごどしと云。八ツ八ツ八ツ八ツ八ツ八ツ。
  かなをつけては八よむ。八太郎かやせひぢはりてやかましい中でやつとしるす。 印 印

印 印…各々「さるがひとまね」「八尽」とあり。

《乞児奇伝》跋

乞児奇伝跋
八点打て片かなの。ムの字かく御方様に。一たらぬ八坊主。八太郎とは。馬を逃せし八三か兄にもあらす。 唯口豆の八才者。かゝる両人の書つくしたる八尽。世の諺に余り八石といへとも。いつかないつかな及ぬこと。 され共八の字に八分されんも口おしく。八のたしなみ少し斗。夫八の始は八雲たつ出雲八重垣の御歌を初とし。 山は大和に八塩山。神は陸奥八礼神。讃岐に八栗大明神。盤古の寿八千歳。浦島太郎も八千歳。扨又山陰山陽八国。 東山道も八国。美濃の内安八郡。中山道には八五原宿。木曾のかけはし八十間。 近江の内には八日市。尾張に八郡其中に。八原八田八神は村名にして。 八銭講を頼まるゝ。八百八禰宜は熱田にあり。四国の八十八所を。七ころひ八起して。いてこひとは角力の手。 四十八手の其中にて。三十八度は越後の当り。二十八番丹後のなかあひ。糞にも牛の尿は十八丁。其十八丁あなたにて。 山本の宿白妙か。質八おいてひんとなく。馬の教に八条流。十八種せすと。御師匠様の御前に。八の字形に手を付て。 七重のひさを八重におり。八折ならふ児は十十一十二日。 八八分に月の出る。東方朔は正月廿日に穀を占はんとひらく文月八日には。玄宗頭痛と見出せしは川柳点の奇妙なる。 藤八五文の薬売。其名をあけし八尾善料理。八月頃の八代蜜柑。越後の八房能梅の干たはいつれも粋な。役者に八国団八あり。 其役者に八の癖とは。喜茂八一八桃八等か言葉の花に八代流。八手の花も生て見よ。 わるくはあるまい善光は。一寸八分を背に負ふて。長右衛門もときに年は若狭の丈八烏賊。足も八本ある事は。 誰もよく知きつて。尻に縁ある。高野六十那智八十。好色物のたとへには。なゝ浄るりに八三味線。ひくもかしるも鼠の寿八百歳。 其鳴声の忠臣蔵。竹森喜多八めつほう弥八。敵うつ夜は七顛八倒。由良介か計略にて。弓となしたる。八尺斗の大竹を。 まけると云も質の符調。江戸は八月てなかるゝとやら。石川島に八左衛門。八助薬は風邪きく。 八帆あけしは阿蘭陀の。船に放つや鉄炮の。音も八々。八々六十しまひもの。残らすさらへて八文とは。賑合場所の饅頭ならぬ難渋な。 八の字に親とろ子とろと責られても。八百日こさらぬ八の字は。先へ天が虎の巻は十八大通。家暮なわれらは爰にて筆をとゝめん折からに。 八打と思ひ出せしは。十八公の松の元。門出にながむる十八娘。御つもりの大さかつき。無理に盛たる八物の。御勘定と十露盤持て八々八を云。

  天保五申。亥の年からくると八目にあたる午の年。八を二に割し四月二八十六日。
八丁程。西にマにかゝやくを見て御そんしの
駄々良大八 印 

印…「うのまねするからす」とあり。

《乞児奇伝》跋

乞児奇伝跋
夫大八洲のひらけしより。斯治れる御代にあひ。八の字などをあつめつゝ。八の字形に寝転びて。横柄の八の字にくらす事。 ありがたき事ならすや。八坊主を始として。賢兄等か挙尽す。八方の真砂の八尽し。其余波をひろへとは。 飢饉に八木の払底がことし。左はいへ八が足らぬとて。八逆罪にもあらざれは。わづかに八をかくになん。 五聴八議は政事の根源。天武の朝に八姓賜り。十陵八墓随身八人。公家に五摂家八清華。八座七弁侍従か八人。 三綱五常を合すれば。八張八の数ぞかし。正月八日は御修法の始り。御斎会女叙位の式目あり。十八日は煤竹にて。 八月朔日田面の御祝ひ。将軍家より駿馬の進献。八月十五夜醴を。月の前も奉供。扨又武家の衣服定は。 正月八日平服始り。七夕八朔白衣なり。卯月八日は吉日よ。八月八日は熱田神幸。 書の八体八分あれば。以呂波は四十八文字なり。火戦の始は八十梟帥。酒の始は脚摩乳。 手摩乳二人の造りてし。八八甕の酒とかや。普通の楽数八十八曲。冑の真甲八幡産。 八幡に名高き黄金の樋。八幡殿は前九年。清盛八人息女あり。人は世祖の二十八将。 太宗帝の十八学士。新田に二八十六騎。八騎が中の遠平を。陸に残して七騎落。八牧の判官夜討の手始。八幡の三郎河津を射る。 八歳の宮御歌には。相模入道感得あり。八代将軍東山。義政公は風流に。御身を八せし君ぞかし。 関八州に十八檀那。日蓮宗に二八十六本山。南部に八戸の地名あれば。近江に八幡の城地あり。吉野十津川十八郷。 筑紫琴の始は八橋検校。碁打の八段名人並。わたり八目横目も八目。力士の八剣背八尺。相家の南□八気堂。 文化八年御入部にて。天保八年将軍宣下。文政八年よしこの弘まり。八旬隷豪潮律詩。八万四千の宝篋印塔。諸国に建立ありとかや。 中の八日は鬼子母神。円通大士も縁日にて。五月の二十八日は南国辺の川ひらき。虎か涙も此日也。常磐津の中の八兵衛卿。 式佐に亜く八五郎。忠臣蔵の八段めは。いつも新手の所作事也。八山下の茶わん酒。三八惣嫁は八方旦那。 酒屋の払は八懸九がけ。僕が八尽しも八文不足。八がけ九懸のはちかきて。看官眉を八にして。目を八角にしながらも八て笑止やと云爾。
  先輩の著し頃より。八月あまりも過て承諾。八十日も屈困して。八月八日の八八分頃迄に。八らかした処が読で見ると。
八々八郎誌

記録・随筆・紀行に戻る

坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp