庚申講
《庚申講壱》

  鉄きせる
関取。何とマア貴公。大坂の角力を仕舞と。此京に半年余り。もうおんじやり申も。やミそふな物じやがナア。 旦那さまの仰でハおんじやり申が。おんじやり申ハ奥州の手形で。おんじやり申からやむ事でハおんじやり申さぬてな 成程。 なまりハ国の手形也で。夫が国の風俗じやてナア。時に奥州と京とたべ物。着類。道具迄。勝手の違た事だらけで有ふナア いやも。 さしてかわつた事もおんじやり申さぬ。金華山のきんこが生洲の魚とおなじ事で。大精薬でおんじやり申。 仙台島。ちゞミ布。忍摺など致申ハ。こゝの西陣とおなじ事。会津の椀盆へやぶの下の道具屋もかわり申さぬて。 はてのう。なぐさミ遊山ハどうじやの。衣川で鮭をとり申が。加茂川の鮎くミ。宮城野ゝ荻ハ高台寺さまも及ませぬ。 扨又月見。雪見なんどの閑静な遊ハの。夫こそハ名にしおふ松島象潟と申て。月にも雪にも景色ハけしからぬものでおんじやり申から。 酒肴もたづさへて行ますてや。こゝの山行などゝかわつた事もおんじやり申さぬ。扨又春の花ハめつらしいものハないか。 何の花から咲そめるの 此方の国でハ梅の花から咲申が。都でハ何から咲申な

荻…振り仮名「はき」とあり。原文のまゝ。

《庚申講三》

  餅ハ餅屋
二三人づれで伊勢参りに道連も出来。段々咄し合。皆同宿して。扨其夜ハ銘々の覚へた事。謡。浄るり。 はうた迄芸尽しをやりかけるに。中で一人。なんにもいわずに居られけれバ。申。おまへもなになりとゝいふに。 私ハとんと覚ました事。一もござりませんといへバ。いやいやそふでハ有まい。ひらに何なりとゝいへば。 さやうならバ足角力でもとりませうかといへば。是ハ気がかわつてよいと。我も我もと足角力とれど。 いつこう叶わぬ叶わぬと言。いかさま。足角力といゝなさるはづじや。とんと叶ませぬ。いつたいマア。 あなたの御商売ハ何で厶り升と問へバ。言にくそふに。ハイ。桶の輪屋で厶り升

《庚申講五》

  表すべり
北浜辺の大家に。若水祝とて。そろへの若もの十人斗花やかに入こミ。手代四五人。はかまを付て出むかい。 これハこれハ余寒の御いとひもなふ能ぞや。花むこ御祝下され。まづもつて忝なし。おやかたハ今朝御やしき方へ御礼に上られ候。 しかしながら手代ども御馳走申やうにと申残されました。先々御上り下され。御酒一献進上致と。大切に挨拶するに。 揃への若者はり合ぬけ。たべ付ぬ切口上に。初の勢どこへやら。何とマア皆のもの。さしづめ親父分か関取の顔物が出て。 さゝへ事で有ふとハ思の外。あの様に手代衆のしこなし。こつちがはづかしいて。あいさつの仕やうがない。いかさま。 根生のよい衆といふものハ格別じやナア。いやも。ゑらじや。ヲヽ夫玉じや。きやうといもんじやナアと。 口々にほめそやせバ。是ハ是ハ御あいさつ。いたミ入。水斗でない。きつい油じや
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp