国の花
《国の花第三ゑあはせ》

   序
絵は有象の詩にして。詩は無象の絵なりと。杜子が蒼鷹の詩も魁子が野渡の図も。誹諧又同じかるべし。
このごろの絵の流行せるや。たとへば猿につり鐘を荷せ。豆腐に鳶も珍し気なしとて。鴉は灰やきを取て高く翔り。 瓢で鯰おさえたる絵のなき堂宮もなし。福禄寿のさかやきに階子と思ひ立。布袋大黒に相撲と興じたるは。 垂腹の趣向なるべし。仏は丸後光にてみち行こそおかしけれ。又鬼と云物は夏冬はだかにして。ふんどしに虎の皮とこゝろを付たり。 さりとも角と牙なからむには。河津殿の力瘤にまぎれぬべし。稲づま又おかし。ひたやりに書のばしたらばかへるかたやなからむとおもふに。 土蔵倉の鎰のごとくに書なしたるこそひらめかず。思ひやりなれ。猶此類。筆を尽すに及ばず。風は草木にあらはれ。 雨雪はみの笠にかたちを付たり。
ある夜此友達二人三人。酔てわらひ酔てねぶる。三笑四睡の事。心に浮びて。やがてそこなる硯の蓋を取て。 こよひは霜の三日月なりければと書つけ侍りしより。へちま木兎とわらひくづし。四睡に蝿は憎蝿の心を取。 五福の牡丹は愛蓮の跡を追ふ。花鳥は。風雅のつねの図なればなり。見ん人。題になづむで句をあやまる事なかれ。
関郷  芦文題 

《国の花第三ゑあはせ》好物図 相撲

角力取や柳にさくら松に蔦      助尹
ふんどしやにしきを汚す角力取    牛刀
垂腹をあつめて行や旅ずもふ     正勝

《国の花第四藪のはな》深田之部 穐

蓮の実のぬけて坊主の相撲哉     大田柳情

《国の花第四藪のはな》兼山之部 秋

山雀にとらせたらさて曲相撲     アラキノ岩狐

《国の花第四藪のはな》麻生之部 秋

角もたぬ鬼の出合や相撲取      頑石

《国の花第五花鳥六景》三田洞野遊

寒暖語を交へ。しづかに遠山をながめて。天王の前をすぐるに。そのならびに石地蔵あり。この辺りは納涼の地なり。
  角力場の鮓に交る地蔵哉     越外

《国の花第五花鳥六景》歌仙

     雪隠ちかき芋の葉の露   之
札張て角力のやどのよしすだれ   竹
      秋の暑の残蝿ども   舟

之…猿之。
竹…二竹。
舟…栢舟。


《国の花第六里ざくら》秋

緋純子は命しらずやすまふとり

《国の花第九峰の木立》四節

  抑此角力は俣野河津にもあらず。まつた十郎友長の末にもあらず。すまひ草のゆかりをたづねて。 華と華とのいろをあらそふ。風雅のひとしからぬは花相撲のはなれものなれば也。
 花房の大兵をもつて大関にかなふ
垂腹の臍を実にとれ白牡丹      近水舎春帆
 当意即妙をもつて関わきにかなふ
蓮の実のはづみくれたり拭椽     仝
 生質の器用をもつて小むすびに叶ふ
水仙やによろりと葉にもかゝはらず  仝

《国の花第十花鳥ずまふ》秋の部

宵月や片貝白し辻相撲        朴志

《国の花第十花鳥ずまふ》笠松川

川狩や俣野につゞく河津かな     巵言

《国の花第十花鳥ずまふ》

  花鳥相撲序
四角柱久六は所にほまれ有て。両度の関をやぶり。其名当国の雲にふるふ。すける道とて。草の戸の色にも音にもかよへる花鳥をあつめて。 前なる川原に土俵つきて。四季八番の相撲につがひ。瓢斎を敲て是が行司せん事を乞。瓢斎終に団取道をしらずといへども。 是は四方の寄を集て勝負を決するにもあらず。只所の五三人を求て内輪相撲の地取なれば。三間の見直し。 下手の行司に下手相撲。脇から見たらおかしかろ。おかしかわらへ其分よ。四角柱を楯てについて。 はじめて相撲をひろめける。

  春
  一番 東 鶯 
世中に鳴鶯や急だらり        龍雀
     西 柳
西むけといへば西むく柳かな     遊玉
  東。急だらり。だらり急といへる人情をさへづる所。相撲に取ては拍子きゝ也。西。青柳の人次第なるは気力なき生付なればなるべし。されば腰のよはき所を難じて。しばらく負にはさたしをきぬ。
  二番 東 燕 
はね馬にさはつて見たる燕哉     菱花
     西 柳
ばけ物と夜はいはれて柳哉      在竹
  左。問屋前の立馬に鞘当したる酔狂もの。羽ぶしきゝの達者。肩すかしの名人。 西。宵闇のおぼつかなきに。節もどりの顔をなでたる。毛のはへた手かと一ちゞみなり。青柳が一流よはき所につよみを持て。度々の雪折にも終に一度の不覚をとらず。松杉の大兵より結句力まされりと。桟敷よりの評判なれば。此間。勝負なし。
  夏
  三番 東 柚花 
柚の花や咲てさだまる下戸上戸    在竹
     西 杜鵑
大名のつぶり御免ぞほとゝぎす    梅夕
  西。大名の御前をもおくせずのしつきたる羽づかひ。土俵入大やう也。東。咲て定るといへるにかすかなる手あり。とにもかくにも此柚木には取付所なくて。
  四番 東 椶櫚 
棕梠の葉や雨に逢たる団売      湖遊
     西 杜宇
傘に油ひく日やほとゝぎす      巵言
  東。季群玉は夜刃の頭と作り。陳之贇は千手観音と見たてたり。此作者は破団扇の看をなす。心のむかふ所。境もまた尽ず。
西。雨に待月に聞は尋常の情なるを。油引清和の空に聞付たる作者の当意。四十八手の外也。
扨此勝負に取ては。杜宇はかけ声の上手。諸人めをさまして芝居をうごかす。かたやの棕梠。少おくれたる所はみゆれど。毛生たるふんばり。鉄壁のごとくなれば。彼破団を行司がもらひになして。われには定侍
  秋
  五番 東 女郎花
熊坂が昼寝の床や女郎花       龍雀
     西 山雀
山がらの一寸先や栗のいが      桃水
  西。小兵なれども。山がらのかきふんどししつかとしめて躍出たる。さかしくみゆ。東。女相撲の名代に出たる熊坂。中につかんで微塵のいきほひあれど。中がへりの名人なれば。すがたは見れども手にとられず。
  六番 東 菊
引よせて鍔にくらべよ菊の花     菱子
     西 雀
山案子とは雀合点で笠の上      湖遊
  西。無心のものゝ気をしる所。自然の妙也。道に取ても相手の心をしる所第一也と。四角柱申す。 東。引よせられてまがきの外へたふれ出たる。十分の負にみゆれど。寝なげの風情をあましたれば。是又一かたに定がたし。
  冬
  七番 東 茶花
茶の花の慮外ながらや庭梅      菱花
     西 鷦鷯
傘にたゝみこまれるみそさゞい    園山
  東。茶の木のはゞびろにかまへたる。丸山が風有。西。みそさゞいのこざかしき分にて。終に大場をふまぬ小相撲なれど。名誉の手づまきゝなれば。なぞらへて持とす。
     東 水仙
大形は葉で埒明る水仙花       巵言
     西 鴨 
水鳥の中も相口不相口        桃水
  東。水仙の手もなく力もなく。たゞきれいなるうつり一種なれば。持合たる鴨の入首にあふて。今日の相撲。是までにて御退散。

季群玉…李群玉。
山案子…案山子。
大形…大方。


《国の花第十二かたはし》赤坂

  大兵の山々。伊吹いなばと立別れ。景色をあらそふ中に
勝山の得手にかけてや相撲取     いせ涼莵
     二日加減の鮨に柿の葉   木巴
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp