| 抑此角力は俣野河津にもあらず。まつた十郎友長の末にもあらず。すまひ草のゆかりをたづねて。 華と華とのいろをあらそふ。風雅のひとしからぬは花相撲のはなれものなれば也。 | ||
| 花房の大兵をもつて大関にかなふ | ||
| 垂腹の臍を実にとれ白牡丹 近水舎春帆 | ||
| 当意即妙をもつて関わきにかなふ | ||
| 蓮の実のはづみくれたり拭椽 仝 | ||
| 生質の器用をもつて小むすびに叶ふ | ||
| 水仙やによろりと葉にもかゝはらず 仝 | ||
| 一番 東 鶯 勝 | |
| 世中に鳴鶯や急だらり 龍雀 | |
| 西 柳 | |
| 西むけといへば西むく柳かな 遊玉 | |
| 東。急だらり。だらり急といへる人情をさへづる所。相撲に取ては拍子きゝ也。西。青柳の人次第なるは気力なき生付なればなるべし。されば腰のよはき所を難じて。しばらく負にはさたしをきぬ。 | |
| 二番 東 燕 持 | |
| はね馬にさはつて見たる燕哉 菱花 | |
| 西 柳 | |
| ばけ物と夜はいはれて柳哉 在竹 | |
| 左。問屋前の立馬に鞘当したる酔狂もの。羽ぶしきゝの達者。肩すかしの名人。 西。宵闇のおぼつかなきに。節もどりの顔をなでたる。毛のはへた手かと一ちゞみなり。青柳が一流よはき所につよみを持て。度々の雪折にも終に一度の不覚をとらず。松杉の大兵より結句力まされりと。桟敷よりの評判なれば。此間。勝負なし。 | |
| 三番 東 柚花 勝 | |
| 柚の花や咲てさだまる下戸上戸 在竹 | |
| 西 杜鵑 | |
| 大名のつぶり御免ぞほとゝぎす 梅夕 | |
| 西。大名の御前をもおくせずのしつきたる羽づかひ。土俵入大やう也。東。咲て定るといへるにかすかなる手あり。とにもかくにも此柚木には取付所なくて。 | |
| 四番 東 椶櫚 持 | |
| 棕梠の葉や雨に逢たる団売 湖遊 | |
| 西 杜宇 | |
| 傘に油ひく日やほとゝぎす 巵言 | |
| 東。季群玉は夜刃の頭と作り。陳之贇は千手観音と見たてたり。此作者は破団扇の看をなす。心のむかふ所。境もまた尽ず。 西。雨に待月に聞は尋常の情なるを。油引清和の空に聞付たる作者の当意。四十八手の外也。 扨此勝負に取ては。杜宇はかけ声の上手。諸人めをさまして芝居をうごかす。かたやの棕梠。少おくれたる所はみゆれど。毛生たるふんばり。鉄壁のごとくなれば。彼破レ団を行司がもらひになして。われには定侍ル。 |
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| 五番 東 女郎花 | |
| 熊坂が昼寝の床や女郎花 龍雀 | |
| 西 山雀 | |
| 山がらの一寸先や栗のいが 桃水 | |
| 西。小兵なれども。山がらのかきふんどししつかとしめて躍出たる。さかしくみゆ。東。女相撲の名代に出たる熊坂。中につかんで微塵のいきほひあれど。中がへりの名人なれば。すがたは見れども手にとられず。 | |
| 六番 東 菊 | |
| 引よせて鍔にくらべよ菊の花 菱子 | |
| 西 雀 | |
| 山案子とは雀合点で笠の上 湖遊 | |
| 西。無心のものゝ気をしる所。自然の妙也。道に取ても相手の心をしる所第一也と。四角柱申す。 東。引よせられてまがきの外へたふれ出たる。十分の負にみゆれど。寝なげの風情をあましたれば。是又一かたに定がたし。 | |
| 七番 東 茶花 | |
| 茶の花の慮外ながらや庭梅 菱花 | |
| 西 鷦鷯 | |
| 傘にたゝみこまれるみそさゞい 園山 | |
| 東。茶の木のはゞびろにかまへたる。丸山が風有。西。みそさゞいのこざかしき分にて。終に大場をふまぬ小相撲なれど。名誉の手づまきゝなれば。なぞらへて持とす。 | |
| 東 水仙 | |
| 大形は葉で埒明る水仙花 巵言 | |
| 西 鴨 勝 | |
| 水鳥の中も相口不相口 桃水 | |
| 東。水仙の手もなく力もなく。たゞきれいなるうつり一種なれば。持合たる鴨の入首にあふて。今日の相撲。是までにて御退散。 | |